第31話「決死の脱出」1/4
「さぁて、救いの神が出口までエスコートしてやるんだ。くれぐれも足は引っ張ってくれるなよ」
「……こっちは怪我人抱えて両手塞がってんだ。引っ張るつもりもないけど、援護くらいはちゃんとして欲しいもんだね」
「努力はするさ。するだけ無駄かもしんねぇが……んじゃ飛ばしていきますか――」
麟鴉に跨る鴉と、創伍と織芽を抱きかかえる乱狐。まるで二人の準備が整ったのを合図に、ギリギリまで耐えていたモールの地上階の床は積もりに積もった瓦礫により底が抜け……
一気に地下階へ雪崩れ落ちてきた。
「向かうは地下駐車場だ。言っとくが、途中でくたびれても拾わねぇぞ」
「お気遣い結構。そんな変態グリフォンの背になんか、頼まれても乗りたかないし」
「うぅん! 厳しいお言葉!! でも俺はお嬢さんみたいな良い尻をした子ならいつだってウェルカムだぜ〜!!」
広場を走り抜け、残された唯一の出口を目指して走り出す二組は、非常灯のみで照らされた約500メートルの薄暗い一本道に辿り着く。真っ直ぐと続く通路には煙の充満も少なく、これといった大きな障害物も見えない。
緻密な計算で爆撃をコントロールしていた鴉は、創伍を追い詰めるだけでなく、自分が逃げ切れる退路を確保していたのだ。
「なんだ……茨の道を渡るくらいの覚悟してたけど、これなら余裕じゃん」
「ところがどっこいそうなるかもだ。本来此処はどっかの誰かさんを始末した後に渡る予定だったからな。そのタイムロスに加えて、この逃げ道を用意したのは俺特製の爆薬だろ? つまり……」
この状況は鴉の計画の内に無かった異常事態。モール内は計算通り破壊出来ても、自ら招いたそれを食い止めることは出来ない。
天井には崩落の亀裂が一気に迸り、そこから地上階の残骸が彼らを埋め潰そうと次々と降ってきたのだ。
「と、まぁこうなるワケ。我ながらホントよく出来てる」
「オオォォォイッ! 自分に酔ってないで早く何とかしなさいよぉぉっ!!」
「言われんでも――」
すかさずソードオフショットガンを取り出した鴉は、頭上に迫ってくる落下物を撃ち落として道を確保する。彼の射撃力を信頼している麟鴉は、駿馬の如し速さで一直線に駆け抜けていく。
「おう、朱雷電が来るまで気分転換といこうや! 落下物を避けたら2点、撃ち落としたら10点なー」
(ほんとマイペースな奴……誰の所為でこうなってんだっつの!)
付き合うつもりのなかった乱狐だが、織芽と創伍にこれ以上の怪我をさせられない。二人を抱きかかえたまま飛び蹴りを放ち、落下物を木っ端微塵に粉砕。そして華麗に着地し、持ち前の体力とスピードで彼らに遅れを取ることなく並走していく。
「ヒュー! さっすがW.Eのエージェント! なぁなぁお嬢さ〜ん! SNSのアカウントあったら教えてくれよー! 俺もLINEやインスタやってるからさぁ、後でDMでやり取りしようぜー!」
「うるっさいんだよこのクソ鳥っ!! こっちはアンタに舐め回されたとこが乾燥してイライラしてんだ。その嘴閉じてな!!」
「おぉ怖っ! でもその強気な態度に鳥肌止まんねぇ〜!!」
道中、空気を読まない麟鴉のナンパに苛立っていたが、成り行きに身を任せてるわけにもいかなかった。
「それで……なんでなの?」
「何が」
「なんであの九闇雄が現界に居るんだよ。W.Eの目も搔い潜ってさ」
忽然と現界に現れた朱雷電の事が引っ掛かっていた乱狐は、鴉なら何か知っているのではと思い、聞き出そうと試みる。
「上の事情を知ってりゃこんな命綱染みた小細工、俺がいちいち用意するもんかよ」
「えっ……何も知らないの!? あんた、実力的に右腕くらいの立ち位置かと思ってたのに、下っ端と同列で顎で使われてるって……プライドとか無いわけ?」
「俺は他の雑魚よりも結果出してんだ。唯一単独行動は許されてんだよ。だが朱雷電と九闇雄が隠れ蓑にしてる取り巻きについちゃ……いかに創造世界の裏社会を広く見てきた俺でも足が掴めねぇのさ」
現界における裏社会が地球という枠内での規模感だとすれば、創造世界のそれらは異界の数・生命の数に比例して広がり続ける宇宙に等しい。その中から一つの真相を見つけるなど、砂漠の砂粒の中からダイヤの原石を探すようなものだろう。
「ただヤツの場合、九闇雄ってだけで顔が利く場所には困らねぇ。一声掛けりゃそれなりの手練れが集まって、界路を介さずに現界へ自由に出入りする方法を編み出せるかもしれねぇが……」
「……? それって……掟破りの」
「あぁ――『異界跳び』だ」
異界跳びとは、聞き慣れた言葉で表すならテレポート、ワープといったものだ。正式な移動手段である界路を使わず、独自の手法で他の異界へ繋がる出入口を開き、自分または他者が出入りする空間転移のことを指す。
瞬時に空間を跨ぐ都合の良い能力ゆえ、いくら設定に組み込んでもそれを備えたアーツが創造世界に生まれる確率は極めて低い。上位種のアーツでも指で数える程しか存在しないという。
古来よりW.Eは、創造世界に点在する界路を重点的且つ厳重に監視することで異品の犯罪を取り締まり、各異界の秩序を維持している。
しかしそれでも完全無欠ではない。10万件に1件の割合で、監視の目を盗んだ異界跳びでの重犯罪が起きている。最後はW.Eが鎮圧しても、後手になっているためどうしても甚大な被害と爪痕が残るのだ。
現界もその例外ではない。1990年代におけるUMAの散見が最たる例だ。彼らは、とある異品が人類への総攻撃を画策した際に連れ出された創作物なのだが、W.Eに阻止され未遂に終わったため、逃走した何体かが人間に見つかったことで一時騒がれたのである。
故にW.Eは、再び同じような被害を生まない為にも空間転移を危惧し、日々生まれ落ちるアーツのデータを収集する際は特に異界跳びの可否に重きを置く程入念にチェックをするのだ。
「自分の設定と異なる他の能力、肉体へ染み込ますなんざ朱雷電でも容易じゃない……ってことは単独で異界を渡るのは至難。そして大英雄や九闇雄クラスの猛々しい闘気は、どこに居ようとW.Eの監視システムにキャッチされる。早くても10分くらいでな。だが未だに本部はお前さんに助けを寄越さないのは、見つかってすらいないから……つまり誰かが異界跳びで現界に入れたって結論に辿り着く」
「つまりその共犯の異品をどうにかしない限り、どこに居ようと九闇雄の脅威から逃げられない……か。こりゃ相当厄介な奴を相手にしちゃったねぇ」
九闇雄一人でも相手が悪いのに、転送を可能とする外部の協力者など鬼に金棒だ。事態がかなり悪い方へ向かっている事に、気が遠くなる乱狐であったが……
「おいおい決めつけはよくねぇな。俺は異界跳びをさせたのが異品だとは言っちゃいないんだが……」
「はぁ?? この流れからして九闇雄と繋がってるアンタらが一番怪しいでしょ。今日まで好き勝手に現界を攻撃してきたんだ。他に誰がするってのよ」
「そっちにも居るだろ。俺達以外にももっと身近に――チートにイカサマ何でもござれの頼もしい奴」
「ん……」
鴉がそれとなく仄めかす。なにも転送能力を使えるのが異品に限る話ではない。善悪関係無しに空間転移が可能な者が居るであろう、と……皆まで言わずとも誰に疑いの目がかかっているのかは、乱狐も薄々勘付いていた。
「アンタ、もしかしてシロちゃんの事言ってる?」
鴉と創伍達が初めて交戦した時のことだ。シロが真坂部の拳銃に細工を施していたことで、創伍はW.E本部から現界へ一瞬で移動出来た。あの能力を用いれば朱雷電を現界に招き入れるのも容易いという憶測だろう。
「半分正解。まぁ正確には、あの嬢ちゃんの裏の顔も、だがね」
「裏の顔って、一体何言ってんの……」
「朱雷電との闘いの後に出たらしいじゃん。黒い道化師っての――」
「!!」
それを裏付けるのが『既知再演の道化師』の存在だ。既にW.Eの内情を把握しているのか、鴉はクロについて単刀直入に触れてきた。
「別に口割ったってチクんねぇよ。こっちだって知り得てる情報量は同じだ。今更極秘にする必要も無ぇだろ」
情報の出所はパンダンプティによるものだろう。彼が朱雷電の命令に従い真坂部達を襲った際、乱入したクロに返り討ちに遭った。その一部始終と舞台演出の爪痕を、鴉も後で見聞きしている。
「なら悪いけど、あたしだってそれ以上は知らないよ。まだW.Eに保護されたばかりで碌にデータが無いんだ……疑わしいからってハイそうですなんて無責任なこと言えないし」
「だからって全部異品の仕業にされちゃ堪んねぇや。俺から言わせりゃあの二人が現状最有力候補なんだ。いつか目の前で異界跳び同然の手品も披露されたしな。この場に居ない今、どっちかが裏で手引きしたか、お得意の手品で朱雷電に気取られることなく現界に招き入れたと考えりゃ、俺がさっきの奇襲に気付けなかったのにも合点がいく」
「ふん! 利害が一致すれば群れるだけのアンタらなんかと比べれば、シロちゃん達は遥かに御利口さんだよ。異界跳びを出来るにしたって、そんなW.Eを敵に回すようなことをするメリットが無いんだ。変な言い掛かりは止すんだね」
シロは創伍と共に幾多の破片者を倒し、クロは結果的に真坂部らを一度救っている。乱狐からすれば異品と二人を比べたらどちらが信ずるに足るかなど迷うまでもない。
それでも鴉は、シロ達を庇う強気な乱狐を嘲笑うかのように言葉を続ける。
「お前さんがあの二人をどういう目で見るかはご自由に。ただしアレがオーギュストの化身という可能性を否定する確かなものがなきゃ、W.Eはアーツの安全より、嘗ての世界の破壊者かもしれない奴を重用してまで反乱分子の鎮圧を優先にしてるってことにもなるんだぜ?」
「ッ……! ちょっとアンタ!!」
「俺はそう思ってるだけだし、別に不可能じゃねぇじゃん? 仮に道化師にその気がないなら、今すぐにでも異界跳びでご主人様を救いに来ても良いはずなんだがな。どうして来ないのかねぇ」
「……! それは……」
談話室での内輪揉めを最後に、シロやクロのその後の動向を把握していない。アイナや守凱の監視下に居るにしても、メンバーの行動を敵に教える訳にもいかず、瞬時に言葉が浮かばなかった。
「それも決まってる――全てはご主人様に強くなってもらう為――内なる願望をもっと吐き出させ、理想の英雄となってもらうのが道化師の本懐。だから死ぬ寸前まで、いや……いっぺん死なせてもいいくらいのつもりで敢えて放置してんのよ。危うく俺がその後押しになるとこだったがな」
用意周到な仕掛けで創伍達をここまで追い詰めた張本人は間違いなく鴉だ。しかしその蛮行を、あたかもワイルド・ジョーカーが企てたかのように言うのにはワケがある。
「恐らく俺達全員、気付けば道化師が考えていた脚本通りに動かされてたのさ。一人の人間が主役に抜擢され、創造世界の禁忌を破って異質な存在として名を上げるアクションドラマって具合にな。次々と敵を倒していく内に九闇雄という強敵に会い、仲間が次々と倒され、果てには相棒も決死の捨て身で主人を守るも絶体絶命の展開。そこで主人公が未知の能力に目覚めるという逆転劇にしたかったんだろう……その隠されていた力を道化師が関知してない筈がない。ご主人様を強くする為に我が身を捨てた世紀の大芝居を打ってやったって訳だ」
破片者を倒すごとに創伍は力を得るが、それは真に強くなっているとは言えない。さればこそと道化師は、W.Eや鴉、はたまた朱雷電をも最大限に利用し、創伍を追い詰めることで力の真価を発揮させようとした――いかにして主役が窮地から脱するのか、見る者の興味を惹かせる脚本を、創伍を想う強さ故の愛の鞭として用意したと鴉は読んでいるのだ。
「芝居だなんて……冗談じゃないっ! あたし達死にかけたんだよ!? いくら創伍を強くしたいからって、シロちゃんが全部意図的にそんなこと――」
「仲間だからしないなんて理屈は通らんぜ。それを証明してんのが黒い道化師だ。表の誠実さとは真逆のドス黒い願望。白い方がやんなくてもソイツにだって出来る。真城の本能に呼応して顕現したって考えりゃ妥当だしな。肉体も増えて小回りも効く。こんな常識外れの連続、オーギュストの再来以外に説明がつかねぇだろ」
「…………っ!!」
朦朧とした意識の中、何度か耳にしたその呼称に、乱狐の背に負ぶさる創伍が反応する。
「ち、がうっ……! 同じじゃない……シロは……オーギュストなんてのと……同じじゃ……ないっ……!!」
誰の事かは詳しく知らない。だが朱雷電や鴉がシロの事をその人物に当て嵌める事を、創伍はシロを一番よく知る者として否定したかった。
「真城、アンタは喋んなくていいから……」
「いいや違わないねぇ。朱雷電とパンダンプティの時を思い出してみろよ。道化師はテメェの力を引き出して命も救ったが……他に何をした? 裏ノ界のアーツ達や刑事達は救ったのか? 偶然助かっただけだろ? つまるところ道化師は主役が舞台上で華を持って立ってさえいりゃ、他人なんて誰が死のうと、世界がどうなろうとお構い無しって腹なんだよ。一度オーギュストに魅入られたら最後、テメェを中心にして世界をぶっ壊していくつもりなのさ」
「ぐ……っ!!」
悔しいが、鴉の指摘することも客観的に見ればまた事実。自分やシロの身に起きていることにも関わらず、それを把握し切れていないがために言い返せない。
「まぁ元を正せば、テメェがハナからガキの時分に下んねぇ絵を描いてなきゃ、道化師なんざ現れず、俺達だってこんな事に巻き込まれずに済んだって話だ……。こんな主従揃ってろくでもない世界の疫病神、果たしてW.Eが保護する義理なんてあんのかねぇ。どうなのよ、狐の姉ちゃん?」
束の間の協力関係を結んでいても、鴉の言葉の一つ一つには悪意が込もっていた。
その目的は創伍の孤立、W.Eからの追放である。
人間が創造世界に足を踏み入れるというタブー中のタブー。それを破った創伍とシロが今日までの事態を招いたのであり、異品とW.Eは被害者であると乱狐に対して暗に伝えたいのだ。
そうすれば創伍自身に罪悪感を負わせるだけでなく、乱狐の敵意を彼に逸らすことも出来る。ここで創伍を殺す必要はない。言葉だけで居場所を奪ってしまえば、後で容易く仕留められる。
「このままいけば、三人の道化師にいいように利用されて俺達が共倒れさせられるのがオチだろ。手は早く打っておいた方がいいと思うがねぇ」
「……………………」
疑わしき存在は守るよりも突き放すべきと、どこか守凱にも似た排他的な提言。
鴉に持ちかけられた乱狐は……
「バーカ」
聞く耳すら持たなかった。
「何を言うかと思ったら……所々アンタの恨み節が混じった言い掛かりじゃん。悪いけどW.Eには愚者も疫病神も居やしないよ」
「……アーツの敵に成り得る奴を庇おうっての」
「庇う義理はあたしにも無いけど、真城もシロちゃんも今日まで手の届く範囲の人間を異品達から守って、時にはあたし達を助けもしてくれた……疫病神じゃなく英雄としてね」
W.Eには英雄に相応しい者が星の数ほど居る……だが知り合ってまだひと月も経っていない乱狐が間近で見てきた創伍達は、他のメンバーよりも最も英雄らしく見えていたのだ。
「アンタ知ってる? 誰かを守るのって自分の身を守るよりも滅茶苦茶難しいってこと。今のコイツは、シロちゃんのサポートなしじゃてんでダメだけどさ、誰かを守りたいって気持ちは誰よりも強い。シロちゃんも何考えてんのかよく分かんないとこあるけど、コイツの為に役に立とうとする芯は揺るがない。凸凹した二人が二人三脚で他人の為に闘ってる……それって作品達よりよっぽど凄いんじゃないかって思うわけ」
それぞれが一長一短を持ち、不器用ながらも支え合い、高め合う。生涯現役・相方無用を掲げているつもりの乱狐でさえ、見ていて羨ましく思えてしまう程の理想的なバディなのだ。
「まぁ黒い方のはどんな子か、あたしだってまだよく分かんないよ。それでも……コイツが望まない事を、あの娘もするはずない――――」
道化英雄は、面白おかしく世界を壊す忌まわしき愚者とは違う。
後ろで項垂れる創伍に目をやりつつ、励ましの意味も込めて乱狐は言い切った。
「正式なメンバーでもねぇのに言い切れるもんだな。場を引っ掻き回して面白がるのが道化師の相場だろ。今は尻尾を振って良い顔してるだけかもしんないぜ」
「理屈じゃないんだよ。同じ屋根の下で過ごしていくとなんか分かってくようなそんな感じ……って、アンタにゃ分かんないか」
「あぁ……俺は誰も信用しないんでね。身近にいる奴ほど後でひょんなことで裏切ったりするもんだからな。金と仕事で繋がる方がまだ健全ってもんだ。ま、誰が裏で糸を引いてるのを調べるのはそっちの管轄だ。勝手に考えてくんな」
「……??」
シロの事でもあるようで、どことなく他の人物を指してるようにも思える発言に一瞬、眉を顰める乱狐。だが今は少しでも役立つ情報を引き出すべく、深掘りまではしなかった。
「あーあ、白けちゃうなぁ。何か有力な情報でも掴めると思ったのに、あんたくらいの実力者が下っ端の監視役で爪弾きにされてちゃ知らないのも無理ないか……」
「タダでそんなパシリを引き受けてたつもりはねぇよ。朱雷電の移動手段は分からんにしても、間近で見ている俺だからこそ掴んだ情報もあるんだぜ」
「何を掴んだってのよ……嫌いな食べ物とか?」
「――弱点さ。それもヤツ自身が全く気付いていない、超電人としての綻び、ウィークポイント……欠陥をな」
「……朱雷電の、弱点……?!」
唐突に鴉の口から予期せぬ情報が飛び出し、耳を疑う乱狐。
全てのアーツには各々が持つ能力に対して短所が備わっている。
朱雷電の場合、闘気を電気エネルギーに変換できるが、元々の威力が自然発生する落雷と比べたら1/1000というデメリットのところを、闘気のコントロールにより熱量や電圧を調節が可能となりデメリットを軽々相殺している。
その能力のどこかに、朱雷電が気付いていないという弱点が有るとは俄かには信じ難いが、この非常時に情報を選んでいる暇はない。
「な、なんだ……知ってたんならこんな必死に逃げなくたって、アンタが迎え撃てば楽勝じゃんよ!」
「簡単に言うな。まだ確証は無ぇんだ。俺の読みが当たってることが前提で、いくつかの条件が重ならないことにはな……ま、否が応でもヤツとはやり合うだろうし、運が良ければ答え合わせは出来るだろうぜ」
「……その条件って?」
「阿呆。敵に貴重な情報を無償でやる馬鹿が何処に居んだよ。テメェに必要なものは何事もテメェの足で探すもんだ」
「ぐぬぬ……」
うっかり言い漏らさないか淡い期待をしたが、あっさりと躱されてしまう。
口をへの字にする乱狐を余所に、鴉の視線がある方へと向かった。
「おっと、噂をすればだ……」
彼らがもと来た通路――振り返ると薄暗い闇の中、一点の光が浮かんでいる。
崩れ落ちた瓦礫で埋もれているはずの奥からは、消火栓の表示灯に似た赤い光が隙間から漏れ、壁や天井を少しずつ照らしていく。
「おいでなすったぜ……!」
「っ……!!」
銃を手に取る鴉と息を呑む乱狐。
彼方から迫り来る光はやがて強く輝き出していき、重い音を響かせながら地下全体を揺らし始めた。
まるで巨大な掘削機が道を塞ぐ障害物を容赦なく破壊していくような勢い……だが、その方がまだ遥かに良かったと言えるかもしれない。
「ンフフフアアアァッハハハァァァァッ――!! 一匹たりとも生かして帰すかよゴミ虫共があぁぁっ!!」
怒りと狂気が混じり合い、荒れ狂う赤い稲光で闇を照らす朱雷電。反旗を翻した鴉と創伍達を皆殺しにせんと電光石火の勢いで迫り来るのであった……。
* * *




