行間09「窮境の乱狐」
PM13:15 ショッピングモール屋上
鴉の爆撃によって、刻一刻と火の手が回り続けているショッピングモール。黒煙も各所から上がっていき、内も外も危険極まりない状況となりつつある中、乱狐は屋上駐車場へとやってきた。
「……ここでいいか」
一度広場へ避難したのにまた引き返したのは、W.Eへの連絡を人の耳に入れないため。敢えて人が立ち寄らない場所に移動したのだ。
スマートフォンを取り出し、創造世界側と連絡が取れる専用アプリを起動した乱狐。二つの世界に界路を挟んでいるためタイムラグが発生するが、救援を要請するにはこの手段しかなかった。
「誰でもいいから早くキャッチしとくれよぉ……」
しかし現在、メンバーは散り散り。唯一この無線をキャッチして駆けつけてくれるかもしれないのは、朱雷電の足取りを追っている守凱か、望み薄だがW.Eを勝手に抜けた鈴々くらいだろう。
それでもいい。辺りの惨状を見る限り、創伍は斬羽鴉と出くわしているはず。自分が加勢するまで何とか保っていて欲しい……そう願うばかりであった……
『――こちらW.E本部……』
「あっ! 悪いんだけど緊急なんだ。大至急守凱さんに――」
が、しかし……
「――うあっ」
突如天を仰ぎ、ふわりと意識が飛ぶような感覚に襲われ膝から崩れ落ちる。
何やら首元を強く打たれたようで、誰かが背後に居たようなのだ。
(私に気配を悟られずに……? い、いったい誰……!?)
「……………………」
消失していく意識の中、地面に伏した顔を上げて相手の姿を一目見ようとするも……太陽を背に受け、視界も霞んでしまっているため視認は出来なかった。
(クソ……分っかんねぇ……。創伍に加勢しなくちゃいけないのに、こんなとこで……!)
その者は乱狐が間もなく意識を落とすことを確信したのか、それ以上は何もせず、沈黙したまま倒れる彼女の横を通り過ぎるのであった。
しかも……向かう先はなんとショッピングモール。黒煙が湧き出る死の空間へ自ら飛び込もうというのだ。
(……どうなってんだ……アーツ? それとも守凱さんが……??)
人間とは到底考えられない無謀ぶり。闘いに慣れたアーツであれば、防毒マスクが無くとも生き延びる呼吸法くらいは心得ているものだ。
しかし味方だとしたら自分を気絶させる必要は全くない……。
だとすると考えられるのは……
(まさ……か……アイツ……)
憶測が一つの結論に至ったところで、完全に気を失ってしまう乱狐。
崩落が進むモールの屋上に置き去りにされた彼女も、創伍を助けることもできず窮地に陥れられるのであった。
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