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創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》・第1部・創造世界編  作者: 帯来洞主
第三幕「闇の英雄」・Dark Hero・

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第27話「奇襲の鴉」3/3



 施設に囲まれた中庭へ出ると、創伍以外の客も避難しており、誰もが携帯電話を使って助けを呼ぼうと身内や友人、警察や消防署に連絡を入れている。

 現在の彼らは共通してパニック状態だ。なにしろ外側の出口は混雑していた為、不本意にもこの中庭に逃げてきたのであり、まだモールの中に居るのだ。見えない脅威に晒されていては平静を保つのがむしろ困難というもの。

 織芽も例外ではない。他の客ほど慌てふためいてはないが、青ざめた表情で親しい友人へ連絡を取っていた。


(何処だ、斬羽鴉……! 何処に隠れている……!?)


 創伍は、織芽達から少しずつ距離を取りながら斬羽鴉を探していた。あちこちから黒煙が上がり、スプリンクラーも作動したモール内からの襲撃は考えにくい。自分が逆の立場ならどうすると考えた結果、見晴らしの良い場所から狙うと読んで、屋上駐車場を目でなぞるように見渡していた。


 しかし……


「――真城……」


「はっ――!?」



 一人だけ宙を見上げているような状況、恰好の的とも言える創伍に人影が迫る。



「――真城! あんた大丈夫!? 怪我してない??」


「うわあああっ――!!」



 背後から名前を呼ばれただけで胸を刺されたように驚き、心臓が高鳴る創伍。

 振り返って目に入ったのは織芽ではなく、見慣れない服装をした同い年くらいの女子だった。


「乱狐……さん? はぁぁぁぁ……なんだよ……。いきなり脅かさないでくださいよ!」


 それが美影乱狐だと気付いた時、緊張が一気に解けて腰を抜かしてしまう。


「そりゃこっちの台詞だよ! 一人ブラついてて危ないから声掛けたのにボーっとしちゃってさ! 私が異品だったらもう殺されてたよ!」

「それより乱狐さん……その服装は? ていうか、なんでこんな所に?」

「んなもん人気スイーツの撮影と投稿……じゃなくて! あ、アンタの監視を守凱さんに任されてたでしょ! 幼馴染と二人じゃ絶対危ないから、こんな格好で尾行してきたってワケ! もういきなり人前で叫び出すから何事かと思ったよー」

「……ともかく乱狐さんが居るだけで心強いっすよ。助かりました」


 しかしまだ脅威は去ってはいない。状況を理解してもらうため経緯を説明し、何とか乱狐に協力を求めるのであった。


「……なるほど。チンケな発明武器で攻撃してくるなんざ、あのカラス野郎に間違いはないだろうね。ホント懲りない奴」

「乱狐さんは、ひとまず周囲に気付かれないよう本部への連絡と、逃げ遅れた人の救助をお願いします」

「あんたはどうすんの?」

「俺は鴉を引き付けます。アイツの標的は俺だけのはずですから……」

「ウイッ! 逃げ遅れた人間のチェックは本部のシステムでサポート出来るはずだから、終わり次第加勢したげるよ。じゃあまた後で!」


 快く引き受けた乱狐は颯爽と、人混みから離れて本部への連絡手段を探しに行く。


 創伍は引き続き斬羽鴉を探そうとした時だ――



「あああぁ……どうしようっ!! 彼と連絡が取れない! まだモールの中なのか!?」



 一人の中年男性がパニックに陥っている。他の客も同じ状況にあったのだが、彼は違った。ある理由により創伍の目に留まるのである。


 それは……男性の姿が、数分前に織芽と食事をしていたイタリアンカフェの制服であったのだ。

 もしやと思った創伍は、歩み寄って声を掛ける。


「あの、どうかしましたか?」

「バイトのウェイターが避難してないかもしれないんだ! 途中まで一緒だったんだが気付いたら何処にも居なくて! 携帯に電話しても出てこないし……逃げ遅れたのかも……!」

「それってもしかして……さっき店先に居た紺の髪した男性ですか!?」

「……そうだけど」


 どうやら彼はさっき居たカフェの店長で、逃げ遅れたのはジェラートをサービスしてくれた青年であった。


「…………っ!!」


 赤の他人ではあるが創伍達を気遣ってくれた人だ。印象に強く残っている彼を、お人好しの創伍が見捨てられるはずがない。


「……俺が助けに行きます」

「何だって……キミが!?」


 まだ鎮火し切っていないモールの中へ戻り、青年を助け出すと言うのだ。


「念のため聞きますが、他に逃げ遅れた人はいませんね?」

「いやぁ彼一人だけだけど……もしキミに何かあったら……」

「俺のことは気にしないでください。ジェラートの分の恩返しですから」

「…………??」


 屋外にも鴉が姿を現さない以上、見えない敵に臆している場合ではない。まだ助けられる人が居るのなら助けたい。その一心で駆け出した。



「――ソウちゃん何処行くつもり!? そっちはモールだよ!」



 そんな矢先……丁度友人への連絡を終えた織芽が、創伍を呼び止めてきた。煙の上がるモールの中へ走る創伍を見て、心配で追ってきたのだ。


「ねぇ、ここで待っていようよ……。さっき部活友達の"みのりん"に車出してもらったからさ! 消防の人が来るまで待とうよ!」

「織芽――俺はさっきのウェイターさんを助けに行く。お前は警察が来たら保護してもらえ。俺は行かなくちゃいけないんだ」


 強く手を掴んでいるはずなのに、それ以上の力で放そうとする創伍に織芽は恐怖していた。その恐怖で涙が流れそうになりながらも、織芽は幼馴染を放っておけず、ずっと思っていたことを口に出す。


「ソウちゃん……なんか最近変だよ? シロちゃんと喧嘩したりして、悩んだりして……一体どうしたの??」

「……説明している暇は無いんだ。いいな? ちゃんと保護してもらえよ!」

「待ってよっ! ソウちゃんってば!!」


 そう言い残すと、織芽の手を振り払いカフェへ戻っていく創伍。


 織芽は……煙の中へ消えていく創伍の背中を目に、彼が何処か遠くの世界へ行ってしまうような気がして、心が押し潰されてしまいそうになった。



 ……


 …………


 ………………



 再びモールの中へ戻ってきた創伍。彼にしてみれば、もと来た道を辿るだけではあったが、そう簡単な話ではない。小型爆弾による火災は収まりつつあるがまだ煙が籠っており、まともに呼吸しては一酸化炭素中毒になりかねない。ハンカチを手に当てながら、姿勢を低くして青年を探すしかなかった。


(確か……ここを曲がれば広場に……)


 煙の影響でやや薄暗くなった通路を渡ると、飲食店の集まった広場へ。今では倒れた椅子や通行人の落としていった荷物などが散乱しており、廃墟の様にも見えた。


 だが殆どの人が逃げてくれたおかげで、探し人はすぐに見つけられた。


「――ウェイターさんっ!!」


 ウェイターの青年は気絶していたのか、うつ伏せに倒れている。創伍は青年の意識を確認すべく、大声で呼びながら彼の左肩を担いで立ち上がろうとする。


「うぅ……キミは……さっきのお客さん……?」


 顔に掠り傷、頭からは血を流しているようであったが……青年はまだ生きていた。火事で発生した煙を少し吸ってしまったと思われる。


「良かった……! 店長さんが逸れたって言ってたから、探しに来たんですよ!」

「ハハ……派手に転んでから、ちょっと煙を吸っちゃって気絶しちゃったらしい。迷惑を掛けてしまったね」

「そんなこと気にしないでいい。此処は安全じゃないから、急いで一緒に外へ抜け出しましょう!」

「俺は大丈夫だ……。それよりもスプリンクラーが故障してるのか、調理場で火が大きくなってるんだ……直にガス爆発を起こす。俺を連れては時間的にキミを火の渦に巻き込んでしまう。俺のことは構わずに逃げてくれ……」


 青年の言う通り、調理場からは鎮火出来ていない火が顔を覗かせるように燃え盛っている。だが創伍も、ここまで来ておいて引き下がれるはずがない。


「何言ってるんですか! 少し頑張って歩けばすぐ外に出れますよ! だから早く立ってください!」

「でもキミには大切な人が居るだろ……。こんな俺なんかよりも、彼女の傍に居てやるんだ」

織芽(アイツ)のことはいいから!他人(ひと)のことよりも、今は自分の命を大事にしろっ!」


 こんな状況でも自分のことを気遣う青年であったが、それを真に受けては彼が助からない。創伍は心を鬼にするつもりで救う意思を示す。


「…………ハハッ……」


 その創伍の覇気に負けたのか、青年は少し呆れ気味に笑う。そして創伍の肩をガッチリ掴み、彼の厚意に甘えることにした……




 ……と思いきや




「だったらその言葉……そっくりそのままお前に返すぜ……」


「――っ!?」




 ズドン――


 一瞬、調理場の炎が爆発した音と思ったが……聞き違いであった。


 銃声だ。それも()()()()()()()()()()()()が発した音であった。



「っづ……あぁぁぁぁぁっ――!!」



 天地がひっくり返りそうな感覚は、聴覚を通して鼓膜に響く。そして痛覚を通して激痛と衝撃をも迸らせ、創伍を床に倒れ込ませる。


 創伍の左腕が、()()()()()()()()()によって撃ち貫かれたのだ。


「急所は逃したか。コンマ3秒速ければその喉元をぶち抜けたものを……やっぱ反射神経だけは常人を超えてやがるな」


「な……に……?」


「ったく……お前の甘さには心底呆れるわ。俺の忠告通りにしてりゃあ、こうも追い詰められずに済んだのによ――」


 すっかり立場が逆転している。左腕から血を噴出して倒れ込む創伍とは真逆に、青年は怪我をしていたのが嘘みたいにすっくと立ち上がっていた。


「しっかし……こんなに思い通りに動いてくれるとは思わなかった。実に脚本に忠実な役者さんだ」


 そう言って青年は拳を握り、親指と人差し指の窪みを口に当て、ゆっくりと下へ降ろすと……


「お前は……!」


 なんと手品の如く男の口元に嘴が生えてきた。そして煙による薄暗さで気付かなかったが、既に髪から下の肌は全て薄黒い羽毛に覆われている。


 然り。彼こそはまさしく……



「斬羽鴉……?!」


「――それもこれも、俺の演技が上手いからかな? 敵を欺き虚を突くのも、死角という闇を斬る俺の十八番よ。そしてさっきの爆撃は斬羽焼夷(ざんばしょうい)――『真火飛鴉(しんかひや)』……今から始まる闘いを盛り上げる為の、俺の新発明の武器さ」



 創伍の思考を全て裏切るようにして現れた斬羽鴉は、シャツとエプロンを脱ぎ捨て正体を現す。


 そして初めて相対した時と同じく、黒羽を纏ったコートに、あらゆる武器を搭載した銀羽の翼を背負った姿で、創伍を見下ろしながら告げるのであった。



「真城創伍――正々堂々と闘いに来てやったぜ、俺のやり方でな。さぁ始めよう……英雄の座を賭けた生き死にの闘いをな」



 * * *



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