表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》・第1部・創造世界編  作者: 帯来洞主
第三幕「闇の英雄」・Dark Hero・

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/86

行間06「心からの願い」



 創伍は敗れた――朱雷電との圧倒的な実力差を見せつけられた果てに、力尽き倒れてしまった。


 死んだ訳ではない。今の彼には体を起こせる体力も、目覚めようとする気力も無いだけ。微かな心臓の鼓動もするし呼吸も出来る。睡眠と似た感覚で、自分が死んでないことだけは分かっていた。


 ただ……もがく事も出来ず、一筋の光も射すことのない心の闇の中へ、どんどん沈んでいくような感じだけが重苦しかった。


 その心中で彼は嘆く――




(俺に……もっと力があったら……)




 ……なんとも彼らしく、それに漠然とした愚かな願いだろう。自分がどうしたいかではなく、あくまで仮定で考えている。


 だが無理もない話だ。例えば創伍は、どんなに辛いことも自分が耐えればそれでいいと思っており、相手がどんな悪人だろうときっと根は良い奴だ――と自分には厳しく、他人には優しいのだ。

 一番最初の行間で述べた「自分は人生の主人公と思ったことがない」原因は、彼自身のどうしようもない程の甘い性格からも来ている。



 しかし創伍にはもう一つの欠陥があった――



 こんな事態に陥ってしまうまでの四半世紀、彼は誰に対しても心の底から抱いたことがないのだ……。



 ――殺意を。



 誰だって、本気じゃなくても一度は人に抱いたり、口にしたことがないだろうか。


「死ね」

「くたばれ」

「消えろ」

「ぶっ殺す」

「いなくなっちゃえ」


 事情はどうあれ、相手の存在を否定してまで憎いと感じたことくらいあるはずだ。


 だが真城 創伍は……怒りはしても、殺意までは微塵にも抱いたことがない。


 それ故に――彼は主人公になりたいという願望とは別に、()()()()()()()()()()と、()()()()に気付いていない。


 殺されるのに笑顔で死にますと応じる阿呆は居ない。領土を奪われるのに喜んで明け渡す阿呆も居ない。

 だったら足掻くだろう、戦うだろう――そんな自分の身を守るための……『必要悪』というのが、彼には欠損しているのだ。


 だからこそ……




『だからこそ、ボクが思い出させるんだ――』




 深い闇の中、聞こえてくるのは創伍に寄り添う声。



『そしてこれは……ボクにしかできないことだから……』



 声の主はシロではない。どんな不安も吹き飛ばしてくれる、あの明るい彼女とはまるで正反対。不安なんて抱かせない、むしろ何物も近付けさせない……鋭い棘を持つような少女のものであった。


『やはりキミの本能は……()()()()()()()に戻りたがってたんだ。主人公になりたいという、表向きと真の渇望との間で葛藤していたんだね……』


 それは当たらずとも遠からず。少女は結果的に自らが求められていることと解釈し、狂喜する。


『あぁ……真城 創伍。ボクだけの愛しの真城創伍。キミの為なら……ボクは我が身を捧ぐ事を厭わない。何故なら壊れるまで振り回されたって、キミに愛されていると感じられるし、ボクもキミを愛しているから……』


 この状況は少女にとって待ち焦がれた瞬間――彼女は、嘘偽りなく創伍に必要とされている。また創伍の本能も、知らず知らず彼女を求めている。そうでなければ、少女がこうして創伍に近付くことも叶わなかったのだ。


『でもね……残念だけど今はその時じゃないんだ。ボクが力を与えなくても、キミには朱雷電を倒せる力がある。後は願いを行動に変えるだけ……。きっと久々の感覚に慣れないだろうから、今回はその()()()()だけ与えてあげる……』


 主君の欠損を補うのも忠臣の役目――まずはこの死の淵から這い上がらせる為、少女はほんの囁かな『愛』を注ぐ。


『さぁボクの手を握って。そして目覚めるんだ。「殺戮の道化師(キラー・クラウン)」――』


 たとえそれが……自我を失い全てを滅ぼさんとする()()()()であろうとも……創伍は手を伸ばして望むのだ――




(朱雷電アイツを……××したい……!!)




 * * *

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ