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創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》・第1部・創造世界編  作者: 帯来洞主
第三幕「闇の英雄」・Dark Hero・

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第17話「天翔ける赤光の朱雷電」3/3



鐘撃鈴々ジィィィィングル・ベェェェッル――!!」



 朱雷電の手刀が創伍の胸を突き入ろうとした時だ。闇夜に轟く勇ましい雄叫び(というよりも奇声と呼ぶに相応しい)が、彼の手を止める。


「ん……!?」


 威嚇でも虚仮脅しでもない。その咆哮は確たる殺意を孕み、勢い任せに発せられたものだ。

 何故なら二人の頭上に、闇に紛れて巨大な釣鐘が飛び込んできたからだ――


「チィっ!!」


 創伍の剣を掴んでいた朱雷電は、即座に彼を蹴飛ばし引き下がる。まともに受けては一溜りもなかったのだろう、巻き添えを避けたのだ。


 釣鐘は砲丸投げの如く地面に落下し、重い音を立てながら転がる。明らかに二人への直撃を狙ったそれは、結果的に創伍を窮地から救った。


「ここで御仲間の登場とは……テメェも悪運が良いな。おかげで寿命が延びたぜ? フフフフフ!」


「い、今のは……」


 突然の出来事に狼狽える創伍だが、こんな大胆な技を仕掛ける人物は一人しか浮かばない――



「オーッホッホッホ! 立場を弁えず抜け駆けしようとしたバチが当たりましたわね真城さ〜ん? でもご安心なさい――この釣鐘鈴々が来たからには勝利確定ですわー!」


 釣鐘 鈴々、颯爽たる登場だ。



「まったく功績目当てになるとすぐ調子に乗るんだから……。ほら真城、腰抜かしてないでさっさと立つ!」



 それに続いて美影 乱狐も――鈴々だけではロクなことにならないと危惧し、彼女に同行してきた様だ。

 二人ともパンダンプティとの闘いを終えてから間もないというのにだ……。


「鈴々さん、乱狐さん……? 長官に行くなって……」

「なーに馬鹿言ってんの。使命感に駆られた後輩に置いてかれて、先輩のあたし達が行かない訳にはいかんっしょ。あの空気的に」


 先輩風を吹かす乱狐だが、創伍の顔を見るなり彼女もこの状況を察し、そして腹を括っていた。

 これまで倒した異品や破片者など話にならない。道化英雄である創伍が、戦意を失い乱狐達を巻き込んだと罪悪感すら感じてしまう程の強敵が現れたのだと――


「そりゃあやっこさんが一筋縄じゃいかないなんて、此処へ来る前から覚悟はしてたよ。でも相手が誰であろうと闘うしかないじゃん。なんたってあたし達は――W.Eのヒーローなんだからさ」


 そしていよいよ特別チームに召集された所以となる大一番がやってきた……ここで逃げては名が廃るだけ。


「さぁ! あの赤髪はあたし達が引き受けるから、あんたは早くシロちゃんと一発逆転パレードの用意をしな!」

「あなた方の手を借りる必要はないんですけれども? 人手が多い事に越したことはありませんですわ! まだ闘えるんならボサッと突っ立ってないで、さっさとしなさいな!」


「は……は、はいっ!」


 戦う理由や目的は各々異なるが、W.Eの守りたいものと闘うべき相手は共通だ。ならば目の前の強敵に立ち向かうしか道はない。


 乱狐の言葉に励まされた創伍は、残された希望に縋る思いで、傷付いたシロの元へ向かうのであった。


……


…………


「フフフフフ……W.Eもしばらく見ない内に落ちたもんだ」


 味方を助けるべく死地と承知で駆けつけた乱狐達を、朱雷電は呆れながら嘲笑う。


「あんた、何が言いたいのさ」

「大層なお出迎えも出来ねぇのかってな、愚痴も溢したくなる。加勢に来たかと思えば、現れたのは雑魚っぽいメスガキ二匹……。九闇雄を倒したけりゃ、3分待ってやるから大英雄(グランドヒーロー)の一人でも呼んでくるんだな。テメェらじゃ急場凌ぎにもなんねぇぞ」


 大英雄とは、ヒバチやつらら、守凱といった実績を重ねた隊長クラスの英雄達のことだ。


「ムキー! この鈴々様が来たというのに不服のようですわね?! そう言うお宅は一体何だってんですのよ!」

「……ほう。創造世界に生まれておきながら、九闇雄の存在を、この天翔ける赤光の朱雷電すら知らねぇとは」


「何ですのそれ? 乱狐さん知ってます??」

「知るわけないでしょ。そんな厨二病拗らせたようなイタい連中……」


「ジェネレーションギャップって奴か……まぁいい。嫌でもその名を覚えることになる。俺に歯向かったことを後悔しないよう……せいぜいベストを尽くすこったな――!!」


 ――聞くより見よと言わんばかりに、脱兎の如く勢いで乱狐達に迫る朱雷電。


 まずは乱狐へ無数の手刀を突き入れる。シロをも追い詰めた赤光の刃の威力を、乱狐とて受ければ致命的だ。


「ほいっと! うりうり、どうしたぁ? そんなチンタラしてちゃ乱狐ちゃんは捕まんないぞ〜!」


 ただし乱狐もタダでは受けない。狐の如し身軽さで躱しては、直撃したかに見せて瓦礫の残骸と入れ替わる変わり身の術を巧みに使い、朱雷電の攻撃を防ぎ切り、拳打と蹴撃で反撃する。


「――背中がお留守でしてよっ!」


「フフフッ……!」


 そして鈴々は、攻撃に徹する朱雷電の隙を見つけては釣鐘を叩き込む。


 しかしそこはシロと創伍を翻弄させた朱雷電――闘い慣れた乱狐達を相手にでも動じず、マスク越しに笑いながら尽くを躱していく……。


 地を蹴り宙に舞い、互いの隙を突き合い、縦横無尽に繰り広げる死闘。

 英雄と九闇雄の攻防は拮抗し続けていたが、やがて事態は急変する……


「っ!? 鈴々っ――!」


「ん……? わひゃっ!?」


 突如朱雷電の標的が、乱狐から鈴々へと移り変わったのだ。気付いた頃には手遅れで、既に鈴々は次の攻撃を仕掛けるべく釣鐘を振り上げようとしたところであり、彼の手刀から逃れる術が無い。


「まず一匹ィッ!!」


「わぁぁあ!! ちょい待ち――!」


 ズシャッ――と刃物が肉を裂く生々しい音が響く。横払いされた手刀は鈴々の脇腹から肉と骨を貫き……文字通り上半身と下半身が一撃で分断され、そのまま地面に横たわる。


「ヒァッハハハハハハハハハ……!! だから言ったろ! 後悔しないようしっかりベストを尽くせとな。俺にコンマ1秒以上の隙を見せている時点で、テメェらの実力なんて高が知れてんだよ」

「あぁっ、馬鹿鈴々! そんな重たい武器でしか攻撃しないから……!」


 鈴々の得物は釣鐘のみ。乱狐の様に忍術や己の身体を駆使する体術よりも、攻撃モーションがワンパターンな鈴々は、鐘を振り下ろしてから反撃又は防御に転ずるまで平均1.5秒の隙が生まれてしまう。そこは乱狐がカバーしていたのだが……朱雷電の猛攻を避け続けるあまり、大きく間合いを取ったのが裏目に出たのだ。


「残すは女狐一匹か。相棒が死んだ今、御自慢の逃げ足だけで俺に敵うとは思っちゃいまい? まだ奥の手の一つも見せてねぇんだ。俺の存在をその眼に焼き付けるまで、簡単に死なれちゃ困るぜ」

「……あんま過度な期待はされたくないんだけどねぇ。でも刺し違えるくらいのつもりじゃないと勝てないのは改めて分かったよ」


「そういうことだ……。さぁ行くぜぇぇぇぇぇ――っ!!」



 今、闘えるのは乱狐のみ。朱雷電の牙が彼女一人へ向けられそうになった……その時だ――



「勝手に殺すんじゃねぇですわあああぁっ!!」



 倒れたはずの鈴々が怒号を上げ、朱雷電の足を止めた。


「ほう……まさか生きてるとは」


「まったく今朝食べたもんが出てきたら大変でした……じゃなくてッ! 危ないでしょうがアンタ! 死んだらどうするんですの!?」

「鈴々、これそういう闘いだから……」


 腹を斬られたくらいでは、ギャグ漫画級生命力を持つ鈴々は死なない。いつの間にか自力で立ち上がっており、当たり前のように切断された腹部をどこからともなく出てきたチャックで閉めると元通り。


「なるほど、そのご都合良い回復力――ギャグ漫画出身か……せめてものハンデってことで納得してやる」


「フッフーン! しかしそう言う貴方もやりますわね。この乱狐さんと『全異世界ナイスタッグプレージュニアグランプリ』優勝を誇る私に、まぐれにも攻撃を当てるなんて。どうやら九闇雄とやらも、この私と対等に闘える強敵のようですが……次はこんなまぐれは起きなくってよ」


「まぐれじゃねぇ。そこの女狐より図体も武器もヘビー級のテメェがただ恰好の的だっただけだ」


 上から目線で朱雷電を評価する鈴々。だが朱雷電の台詞の中に引っかかる部分があり、彼女の顔が固まった。


「…………それって私がデブって言いたいんですの?」


「自覚あんのかよ。よくそんな肉付きでW.Eのエージェントが務まるな」


「やっ――私はデブじゃありませんけど、この乱狐さんの方が私よりかなりデブってますわ。何故なら私より乳がデカいですから。彼女の方が恰好の的ですわよ」

「はっ!? んなこと言ってる場合じゃないでしょうがよっ!!」

「よくこんな重いものぶら下げて闘えますよね〜。貴方もそう思いませんこと?」


「………………」


 向かい合う英雄と闇雄。双方実力を確かめ合うに留まり、戦況は一度振り出しに戻るのであった。



 * * *



 乱狐達が朱雷電の相手をしている間、創伍は負傷したシロに応急処置を施していた。自分のシャツを千切り、包帯代わりに肩の傷口に巻き付ける。

 出来ることなら赤の右手で治療したかったのだが、そうもいかなかった。嘗て破片者との戦闘後、怪我した仲間を可能な限り治療した直後に倒れてしまい、半日気絶したことがあるのだ。体力を著しく消耗する能力のため今はこれしか方法がない。気休めではあっても、彼女の服や羽衣を赤く染め続ける流血は抑えられた。


「創伍……私、まるで歯が立たなかった。本当にごめんね……」

「――違う。俺が出過ぎてシロの足を引っ張ったからだ。キミは悪くない」


 淡々と処置を進めて冷静を保とうとする創伍だが、半分は心苦しかった。シロでさえも苦戦する朱雷電に打ち勝つには、自分がしっかりしなくてはという強い責任感がある反面、今の創伍がどう闘うにも、手負いのシロの協力は必要不可欠だからだ。


「シロ……もしまだ闘えるのなら、ここから一緒に反撃しよう。今は乱狐さん達が闘ってくれてる。俺達も道化行進(パレード)を開いて、皆と力を合わせれば……あの朱雷電に勝てるはずだ」

「…………創伍」

「心配するな……俺は大丈夫だ……! 今ここで俺だけ逃げる訳にはいかないだろ。早く乱狐さん達に続かなくちゃ……シロ!」


 朱雷電に言われた通り、自分はシロから能力を授かっただけで一人では何もできないという事実を痛感させられる。

 シロのサポートを受け、想像力を最大限に駆使しても、全てにおいて上回る朱雷電に如何に勝つのか――そんな展開をイメージ出来ない。それなのにもし今この場で、シロが倒れたりでもしたらどうすればいいかなど考えたくもなかった。


「……分かった。私はまだ動けるから……もう一度頑張ろうっ」

「ありがとうシロ。今度は俺、絶対にしくじらないから……」


 それでも逃げる訳にはいかない。今の創伍には乱狐達が繋げてくれたチャンスを活かし、シロと一緒に闘うしか選択肢が無かったのだ。



「すぅっ……。レディィィィィース! アーンド……ジェントルメーン!!」


 血に塗れた身体も拭かずに、早着替えで舞台衣装を纏うシロ。気持ちは既に舞台進行役へと切り替わり、最高潮のテンションで声を張り上げた。


 彼女の掛け声一つに呼応し、愉快なBGMが流れ始めると、地面からはいくつものステージが飛び出す。そこから闇夜のブルータウンを色鮮やかなサーチライトが照らしていき、大空を何十発もの盛大な打ち上げ花火が反撃の号砲となって鳴り響く。


 地獄の様な戦場が、シロの数々の舞台演出により、これまでで一番の盛大さを誇る大舞台へと塗り替えられたのだ。


「さぁ……行くぞ。シロ」


 逆転劇の準備は出来た。チャンスはもう二度とない。背水の陣に立つ気持ちで深呼吸する創伍は、今度こそ朱雷電を倒してみせると舞台に臨む。


 しかし……まだ彼の中では後ろ指を指されるような罪悪感が残っていた。


 アーツや人間の仇である朱雷電を前に逃げずに立ち向かった結果、自分は実力不足により足手纏いであると思い知らされた創伍。

 そんな今の状況が良いはずでない事は理解している。だからといって引き返せないのだ。

 非力故に逃げ出したくないことも、負けたくないが故にシロに頼り切っていることも……。彼女を危険に巻き込んだだけでなく、この死闘の中においても自分は選択を誤った……それを認めたくないという心の葛藤により、ある懸念を抱いていた――



(このままシロと一緒に闘って、本当に大丈夫なのか……?)



 この最後の勝機を賭けた反撃への一本道の先で、今よりもっと取り返しのつかないことが起きるのでは――と確かな根拠も無いが、口でも言い表しようがない不快感が沸き起こる。


 だが舞台の空気に背を押されてしまい、創伍はその不快感を抑えながら踏み出すしかなかった……。



 * * *



「む……」


 乱狐達との再戦に突入しようとした朱雷電であったが、二人の背後――数十メートル先の地点から発した異様な光を目にし、彼の脚が止まる。



「……レディィィィィース! アーンド……ジェントルメーン! さぁさぁ今宵は短期決戦――ショートショートパレードの開幕でーす!!」



 無敗の道化行進の開幕だ。創伍達の態勢を立て直すための時間稼ぎが功を成し、鈴々と乱狐は肩の荷が下りたように安堵する。


「やりぃ~、無敵のパレードキター! 私が出るまでもありませんでしたわね! あなたもこれでお終いですわよ!」

「さてさて……これでも余裕な顔してられるかねぇ。九闇雄さんとやら?」


 想像力で彩られる奇術・魔術は無限大。未知を武器にした道化師の大道芸を前に、多くの破片者は恐れ戦きそして打ち破られた。


「フフ……待ってたぜ。お嬢ちゃんの奥の手のお出ましか。フフフフフフ……!」


 だが朱雷電は怯まない。むしろ逆だ。シロと闘える事を待ち望んでいたかのように不敵に笑っていたのだ。


 対するシロは彼のマスクに隠れし笑みなど露知らず、肩の痛みを耐えながら進行を進める。


「さて皆様! 本日我ら道化英雄達の御相手を務めるは、これまでで一番の大悪党! 創造世界に暗躍する影の英雄・九闇雄の一人! 天翔ける赤光の朱雷電っ!! このお方の動きを止めた方に限り、抽選で朱雷電様のスペシャルサインをプレゼントーッ!!」


 手短な出演者紹介を終えると、その内容通りに舞台演出が発動した。どこからともなく演出上の可愛らしいキャラクターがワラワラと現れ、一斉に朱雷電の腕や脚にしがみつく。遂には彼の顔と手以外が覆い被さる程にまで観衆に包囲され、拘束された。


 パワーとスピードに優れた朱雷電には、正面からぶつかるよりも動きを止めることが先決。ならば先の闘いで彼に忠告された通り、必殺技を絶対に命中させる状況を作り上げたのだ。


「さぁ、創伍! 今だよっ!! 乱狐お姉ちゃん達も!!」


「……あぁっ!!」

「合点承知の助!」

「私一人でも十分ですが……仕方ありませんわね!」


 そして三方向からの畳み掛け。短期決戦と言うだけあり、彼らの体力も残りわずかだ。創伍が勇者の剣ブレイブメン・ブレイドを、乱狐は鉄拳を、鈴々が釣鐘を――朱雷電に確実に勝つべく、三位一体となってを渾身の一撃を仕掛ける!




 だが……!




「フフフフ……まったく捻りのない……」




 朱雷電は最後まで笑っていた。

 身動きを封じられ、三人の攻撃が迫る瀬戸際に、ある一つの動作だけで全てを覆したのだ。


 それは……フィンガースナップ。一秒にも満たないたった一回の指鳴らしだ。



「っ! きゃああぁっ!!」


「シロ――!? づっ……あぁぁっ……!!」



 最初は司会進行をしていたシロに異変。パチンという音が鳴った直後、悲鳴を上げて舞台から崩れ落ちたのだ。それに続いて創伍も彼女に悲鳴に反応し、振り返った矢先、藻掻き苦しむように倒れ込んでしまう。


「――シロちゃん!?」

「真城さん、どうしたんですの!?」


 シロが倒れたことで演出上の観衆達は雲散霧消し、必然的に朱雷電の拘束は解ける。挟撃を仕掛けた乱狐達も突然倒れた創伍に気を取られてしまい、今更攻撃を止めることが出来ず……



赤光波しゃっこうは――!!」


「「っ!?」」



 二人揃って朱雷電の恰好の的となってしまう。彼の両腕からは赤光が電磁砲レールガンの如く電撃を迸らせ、乱狐と鈴々を弾き飛ばしたのだ。


「く、クソぉ……! 一体、何が……?!」

「ぎゃああばばばばば……ししししし痺れますわぁ……!」

「身体が……全然動かない……!」


 結果的に誰一人として朱雷電に攻撃が届かなかった。

 思いも寄らぬ大番狂わせに混乱する創伍達を、見下ろし嘲笑う朱雷電。


「ヒャハハハハハ……! 言い忘れてたわ。俺の能力は闘気を熱エネルギーに変えて纏うだけじゃなく、電気エネルギーに変えて放電や帯電させることも出来るのさ」


「電気エネルギーだと……!?」


「俺の闘気から発せられる熱や電気のエネルギーの威力は、自然現象におけるそれらの1/1000というアーツ特有のデメリットがある。だが電気の威力はどれだけ低かろうと、テメェらをビリつかせるのに不足はねぇ。更に俺は闘気を高めることで、熱量や電圧を自由に調節出来る故、実質デメリット無しの最強の能力なんだよ」


 創造世界に完全無欠のアーツは存在しない。どのアーツにもヒバチやつららの様な一長一短の特性が備わっているのだが、ごく稀にそのデメリットがデメリットとは言えないような恵まれた者や、努力次第で克服し強力なアーツとして登り詰める者が存在する。朱雷電もその一人なのだ。


「そしてお嬢ちゃん達が急に倒れたのは、俺が触れた際に帯電させておいた電気エネルギーによるものさ。どんな奥の手を仕掛けようとも、合図一つで俺の『時限漏電(じげんろうでん)』により時間差で電流が流れ、テメェらの攻撃は総崩れするって寸法だ」


「触れた際に仕込んで……はっ、まさか……?!」


 朱雷電がここまで創伍達の反撃を恐れなかった理由。それは彼が創伍に手刀を翳した際に首筋をなぞった時と、シロの肩に手刀を掠らせた際に電気エネルギーを仕掛けていたからだ。首や傷口に電流が流れては、致死的威力でなくとも相手を挫くことは容易。


「……そんな……あの時点で……俺は負けていたってことか……」


「そうゆうこった。俺は無鉄砲には闘わない主義なんでね。敵の行動や思考も読み取り、切り札は最後まで取っておく。そしたらテメェときたら、俺の忠告した通りにも動いてくれたからな! 必殺技は確実に撃てるタイミングで撃つ……だからこの時間差攻撃もうまくいった訳だ。面白ぇぐらいに事が運ぶから、途中で思わず吹き出しそうになったぜ。フフフフフフッ!!」


「ぐっ……!!」



 完敗だ。電撃により痺れが解けない創伍は、地面に倒れているシロを目にしてはっきり実感した。

 疲弊したところを突かれ、心を見透かされながら追い詰められる。そして反撃に転じれば、完膚無きまでに打つ手を封じられた。最後の最後まで奮闘したつもりが、最初から朱雷電の掌で踊らされていたのだ。


「さぁ……今度こそ終わりだ。全員仲良くあの世に送ってやる」


「ううう……っ!」


「死ね――」


 またも赤光を纏った手刀で、創伍に死を与えんとする朱雷電。


(俺は……死ぬのか……)


 これ以上この土壇場を乗り越える手立てが創伍には浮かばない。絶体絶命であった。

 だがシロも、乱狐も鈴々も動けないというのに……これ以上自分が足掻いてどうなるのか。


(そうだよな……もう……死ぬしかないよな……)


 そう考えただけで、力が抜けるように全てを諦めた創伍。朱雷電もその表情を読み取り、完全なる勝利を確信したのである。


 敗者への餞として突き出した朱雷電の手刀は――



「創伍――」


(……シロ……?)


 自分より満身創痍であるはずのシロの胸に突き刺さっていた。

 電撃で動けないはずのシロが、力を振り絞り、創伍を庇おうと……自ら盾になったのだ。


「シ……ロ……!?」


 創伍の眼には、手刀に身体を貫かれ、温かな血を噴き上げるシロの小さな背中だけが映っていた……。



 * * *

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