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創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》・第1部・創造世界編  作者: 帯来洞主
第三幕「闇の英雄」・Dark Hero・

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第12話「闇夜の死闘、再び」2/2

 5月5日 AM0:34 学生寮 創伍の部屋


 時刻はとっくに0時を回り、他の生徒達が寝静まった寮内。創伍とシロの二人は、自室のリビングで深夜のバラエティ番組を眺めながら遅い夕食を取っていた。


「…………っ!!」


 メニューは電子レンジで温めた冷凍カツとご飯にレトルトカレーをかけるという極めて簡素なもの。

 それを一心不乱に口へ掻き込む創伍。胃腸への負担は相当大きいが、今の彼にはこれくらいが丁度良かった。破片者討伐の指示が割り込んでロクに食事をしていなかったため、このくらいの量が丁度良いのだ。


 無論、空腹だけがヤケ食いの理由ではない。


「…………はぁ」


 創伍の担当は破片者の討伐。それさえ全うすればいいのに、捕まえることが出来た斬羽鴉を取り逃してしまった――それがW.Eの仲間達に迷惑を掛けてしまったという罪悪感に押し潰されそうなのだ。いかに慰めの言葉を掛けられても彼の心が晴れることはなかった。


 やがて一憂を忘れようとしたヤケ食いも勢いが遅くなっていき、遂にはスプーンを握った手も動きを止める。


「………………」


「あれ? 創伍、食べないの??」


 鴉を逃してしまった事とはまた別件で、創伍は思い詰めていた。



『真城 創伍は――やはり誰かを守る為とか、記憶を取り戻す為に正義の名の下に闘ってるんじゃあない』



 先程、鴉に言われたこの台詞が創伍の心に深く刺さってしまっていた。今日まで創伍は破片者との闘いに勝利する度、アイナ達から前向きな評価やフィードバックなどを受けていたのに、鴉の視点から見た自分の姿を鑑みて疑問を感じたのだ。



(他人から見たら、俺も異品と同じなのか……? それとも戦っていく内に、いつかそうなって……)



 適当な言い掛かり――そう思い込んでしまうのは簡単だ。だがもし鴉の言う通り、知らず知らず自分も異品みたいに力を求めるようになり、気付いた時には取り返しのつかないことをしていたら……



「――創伍ってばぁ!!」


「うわぁっ!?」



 食事すら忘れて思い耽っていたところに、シロの叫び声が割り込んで我に返る創伍。テーブルの向かいにはシロが頬を風船のように膨らませ怒っているが、その理由は分からなかった。


「どうしたシロ……カレーが口に合わなかったか?」

「む〜……さっきから呼んでるのに創伍ってば俯いてばっかり! そのカレー、食べないならシロにくださいなっ!」

「えっ。あ、あぁ〜……俺もう腹いっぱいになったから、食べかけでもいいなら……」

「やったー! ありがと創伍♪」


 喜ぶシロはすかさず創伍の器を手に取って自分の方へ寄せる。既に自分の分をペロリと平らげたというのに、それでもまだ足りないようだ。


「むーふーふーふーふー♪ この()()()()()っていうのすごく美味しいね♪」

「こんなお粗末なもんでも御口に合ったようで何よりです……」


 この食事の時間においてのみ、シロは純粋な子供に戻る。まるで向日葵の種を頬袋に詰めたハムスターのように、幸せ一杯なその顔を眺めていると、悩んでる自分が小さく見えてしまう。


「なぁ、シロ」


 そして一番近くで共に闘う彼女がこんなに楽観的ならば――と、創伍は藁にも縋る思いでカツカレーに舌鼓を打つシロに話し掛けた。


「ゴクン……どしたの創伍??」

「初めて斬羽鴉と闘ったあの日、俺は――俺達の能力ちからは殺し合いのためじゃなく、過去の精算と、守りたい人を守る為にあるって言ったよな」

「そうだね。あの時の創伍、すごくカッコ良かった!」

「……あんがと。俺も一度口にした以上は、それに恥じない行動を取ってきたつもりなんだ。自惚れたりせず、私生活では使わないようにしたりとか……でも破片者を倒し続けていく内に使える能力が増えていって、いつの間にか自信が付いてきたからだろうな。さっき斬羽鴉(アイツ)に指摘されたことが引っ掛かって仕方ないんだ」


「……それって創伍が力を求めて闘ってるって言われたこと?」


 無意識だったとはいえ、悔いるように創伍は頷く。


「あんなに人を知り尽くした風に言われた所為で、ちょっとばかし疑っちゃったんだよ。俺が今やってることって本当に正しい事なのかなって……」

「………………」

「も、勿論! シロとの契約を後悔した訳じゃないんだ! 人間を襲う破片者を野放しにはできないし、俺達のことを誰がどう思うかなんて他人の勝手だからな」


 英雄としての心意気は消えてない――それだけでシロは満足そうに相槌を打つ。

 そしてその笑顔を支えに、ようやく創伍も引き摺っていたものを打ち明けた。



「でも今の俺がまるで異品のような見境ない奴に見えるんだったら……じゃあどうして鴉は――そんな俺に破片者を差し向けてきたんだろうって……」



 不安の種は、鴉の暗躍であった。


「そういえばさっき……創伍のことを知りたいから友達を送ったって言ってたね」

「仮に俺が力を求めているとしても、鴉が破片者を差し向けて俺が記憶と能力を身に付ける――これって遠回しに手を貸してる事だろ? それに何かメリットってあると思うか??」


 使命に従う闘争と、本能に従う闘争。創伍がいずれの理由で闘うとしても、鴉が破片者を差し向けているのは敵に塩を送るような行為に等しい。


「……強くなった創伍と闘いたいんじゃないの? 創伍を倒すことが英雄になる条件って言ってたし。周りのアーツに信じてもらえるよう、その信憑性を高める為にさ」

「それも考えたんだけど、未知と想像力を武器にした俺とシロが余計強くなったら、自分が勝つ可能性を潰していることにならないかって思うんだ。俺に力を付けさせてから闘おうなんていう敢えて危険な橋を渡る程、アイツは冒険好きな奴じゃない。目的を果たす為なら緻密に計算し、完璧な計画を立てるような性格だ。英雄の条件を満たすのが俺達を倒すことなら、あのバイクの相棒を差し置いてまでオボロ・カーズと一緒に現れたりしなくても、俺達が創造世界に向かう前から奇襲は出来たはずじゃないか」

「うん……そうだねぇ」


 先程の鴉の相棒麟鴉が駆け付けた際の疑問が蘇る。長年乗りこなした相棒よりもオボロ・カーズを選んで連れてきたのは、ただの偶然ではない。



 オボロ・カーズじゃないといけない理由があったのでは――と思えて仕方ないのだ。


 そう考えれば、麟鴉を連れて来なかったのも、破片者を差し向けるよう暗躍していることにも合点がいく。


「だから、こう……アイツには破片者を送り付けることに、何か別の目的があるんじゃないかって思わないか?」

「う〜〜〜〜ん……」


 破片者を倒す度、創伍は次々と能力を手に入れ、記憶をも取り戻す。


 強くなっていく創伍を倒すことを目的としていないなら……他に何が?



「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…………シロわかんないや!」



 考えに考えたものの、難しいことよりも目の前のカツカレーの方が大事なのか、シロはあっさりと思考を放棄した。


「あはは……まぁそこまでは分かんないよな」

「でもでも、創伍は間違ったことをしているとは思わないなぁ。皆を守れるくらいの力が欲しい――それは英雄たる人物が持つべき願望で、有るべき素質だもん。破片者を倒した先に何が起こるかは、シロも生まれた記憶がないから確かなことは言えないけど……創伍は自分が正しいと思ったことをすればいいと思う!」


 鴉が何を目的に裏で糸を引いているのかは分からない。だが創伍は道化英雄としての道を選んだことが正しいと思うなら、これからもその役目に従い正しい選択をすべきというシロの提言により、胸のつかえがなくなったようだ。


「そうだよな……未来はその時になったら考えよう。俺達は現在、そして過去と向き合うのが大事だもんな。ありがとうなシロ!」

「どういたしましてだよ!」


 グゥゥゥゥゥ~…………


「…………」

「…………」


 居間に大きな腹の虫が鳴り響く。シロはカツカレーを食べているのだから、その張本人は創伍ただ一人……


「ごめん。気分がスッとしたらやっぱ腹減ってきたわ。残りのカレー返してもらっていいか?」

「えー!? ダメだよ〜ダメダメ~!」

「いいじゃんかよ! 明日の朝飯もストックがないんだって!!」


「やーだー!!」


 残ったカレーの皿を大事そうに抱えて逃げるシロと、それを取り上げようとする創伍。部屋の中を走り回る二人の姿は、まさに現在いまを楽しんでいるようであった。



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