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創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》・第1部・創造世界編  作者: 帯来洞主
第二幕「世界の眼」・World Eyes・
43/85

Epilogue


 AM3:14 古宿駅 ビル屋上


 小さな宝石の様に輝く眠らない街を、月詠乃つくよの 守凱かいは赤い障害灯が微かに照らす夜の屋上から眺める。街の中ではネオンと街灯に囲まれて、眠らない人間と車が行き交う。


「…………」


 数日前のあの忌まわしい事件をもう忘れたはずではあるまい。運良く生き長らえている人間達を見ていると、守凱は無性に腹立たしくなった。

 自分達――W.Eは、人に隠れて異品と戦い、いつかは死ななければならない。守凱の場合、創造世界と現界の秩序の重大さを理解はしているつもりだ。ただ役者と役割を構想し、凄惨な殺し合いに明け暮れるアーツ達を箱庭へ産み落とし、呆けた顔で平然と生きている――そんな人間を守る価値なんて在るのだろうか? と日々疑問を感じていたのだ。


「………………」


 かつて人間を憎んでいた破片者が「ならばこそ下克上を」と血迷った台詞を思い出し、守凱が呟く。


「――笑わせるな」


 一人の少年の児戯で生まれ、未知なる力を秘めた()()たる道化を求めて集まった者達など、所詮は烏合の衆。


ならばこそ、自分が今やっていることは――



「よう、今日も一日お疲れさんっ!」



 ……物思いに耽っていたところを、守凱がふと我に帰る。頭上から聞こえた陽気な呼び声は、彼の()()によるものだった。


「……遅かったな」


 闇に紛れた黒装束は、斬羽鴉であった。


「オイオイそう睨むなって。イイ男が台無しだぜ?」

「仕事はどうしたんだ」


 風に靡かせていた銀翼を閉じて着地し、ヘルメットを脱ぐと、鴉は馴れ馴れしく守凱の横に立って戦果の報告をした。


「悪りぃ、しくじった。まさか参加者が予想外に増えて殺すに殺せなかったわ」


 求めていたのと違う報告に守凱の眉に皺が寄る。


「……依頼した標的はたかが人間二人だ。銃の引き金を二回引くだけで足りるものを、何を手こずっている」

「あ〜、はいはい。私が悪うござんした」


 そう……真坂部と舘上を暗殺するよう依頼したのは、なんと守凱本人だったのだ。


「まぁそんな怒んなよ。その代わりと言っちゃ何だが、土産はちゃんと持ってきたんだぜ」


 しかし鴉は仕事以外の目的を果たしている。その証拠を手渡した。


「これは……」

「道化英雄の戦闘データ、元々あんたが集める予定のものだったろ?」

「…………」


 渡されたのはUSBメモリー。恐らく創伍とオボロ・カーズとの戦闘のデータを映像で記録されているものだろう。鴉のもう一つの目的であった創伍達との手合わせは、暗殺を完遂しなかった場合の埋め合わせでもあったのだ。


「これで帳消しにしろと言うつもりか? お前に頼らずとも、道化の実力など調べられる。わざわざ監視システムを一時停止させて界路からお前達を通したことも、後でどう報告させるつもりだ」

「ひどい言われようだ。あんたのこういう()()()()()の全部が疑われないように、面倒ごとは全部俺が引き受けてるのにさ」

「………………」


 互いに利害が一致しての関係故、守凱はもう口を閉じるしかなかった。それを再認識したことで、鴉は今後の計画を提示し出した。


「一度はしくじったがよ、お役目はこれで終わりじゃねぇ。もうすぐ()()()()()()()が来ちまう前に道化英雄のデータも集めないといけねぇからな。その為の仲間もどんどん集まってくれてんだ。それまであんたの手は煩わせねぇよ」


 いつしか守凱達の背後には、黒いローブや雨合羽などで本来の姿を隠している異形の者達が集まっていた。そして彼らも、次なる真城創伍マシロズ・破片者デブリである。遠回しではあるが、要はまたチャンスが欲しいのだ。

 二人の刑事を殺すなど容易いが、自分はW.Eの所属である以上下手に動けないため、必然的に鴉に託すしかなかった。


「……いいだろう。次はしくじるな」

「流石は『月光げっこう』さん。話が分かってる。それじゃあ俺はもう行くからよ」


 許しを得た鴉はニカっと笑い、集まった他の破片者達を連れて守凱に別れを告げる。


「――待て」


 踵を返して去ろうとした鴉の足を、守凱が止めた。


「一つ聞きたいことがある」

「仕事以外の話か? 探り合いは嫌いじゃなかったっけ?」

「お前は破片者でもないのにW.Eにデータを残していない。斬羽鴉なんてコードネームで真名を伏せ、仮面で素性を隠してまで、こうも自分から率先的に異品に与するのは他にも何か目的があるのか?」


 守凱だけの知っている秘密が、鴉の真意を問う。なにも創伍のアーツだけが特別ではない。ほんのごく稀に、ワイルド・ジョーカー同様に情報を保管されていないアーツも存在する。そういうアーツは決まって未知なる存在として恐れられ、早々に殺されることが多いが、鴉は単に実力だけで生き残ってきた。

 だが易々と自分の腹を割って話すほど鴉は利口ではない。


「それを訊くなら、そっちも腹割って話すんだろうな? 共通の目的で集まった割には、あんたの目的だって聞いちゃいねえし、あんた人間を殺す気があるようには見えねぇぞ?」

「………………」

「真城創伍を殺すか? 道化を殺すか?それとも俺達を騙して何か別の目的があるのか……はてさて月光の守凱さんにはどんな狙いがあるんでしょうかねぇ」


 嫌味たらしく鴉がはぐらかすと、指を唇に当てて、沈黙のジェスチャーを示す。


「――こういうことさ。互いの同意も無しに秘密を共有するなんて、そりゃあもう秘密じゃねぇよ。話してくれるなら俺も話すが、()()()さんに怒られたくないんでな。それじゃ……」


 そう言って斬羽鴉と他の破片者は、ビルの屋上から飛び降りて、また夜の闇へと溶け入った。


「……秘密か」


 ポツリと雨が降り出す。雨粒はやがて勢いを増した。


「いずれ多くの血が流れる内に分かるさ。俺の使命は、その先にあるのだから……」


 雷も鳴り出した。まるでこれから先の悲劇を予兆するかのように、雷は赤く染まっていた。

 やがて雨は豪雨となり、傘も持たぬ守凱の金色の髪を、数分もしない内に濡らすのであった。


「……皮肉なものだな」


 しかし自分の使命の為ならば省みない。己の信念を曲げてはならない。その強い意志を胸に秘め、守凱は本部に戻るべく、夜の街を後にした。



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