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創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》・第1部・創造世界編  作者: 帯来洞主
第一幕「道化の英雄」・Hero de Jester・
1/85

Prologue



 4月18日


 この日、日本を始め世界各国で人類が()()()によって、大量虐殺された。



 死者65536人

 負傷者32768人

 行方不明者8192人



 そしてこの事件における犯人特定への痕跡及び有益な情報件数は……



 ――0件



 * * *



 4月20日 東京都 電気街


 広告をデカデカと載せたビル群の中、この街のランドマークである歩行者天国は、既に地獄だった。


「おかしい……」


 路上からビルの壁まで、目に入るのは、血、血、血。まるでバケツでぶち撒けたような真っ赤な殺人現場で、刑事の真坂部まさかべ 健司けんじは、皺だらけの紺色のコートを着て、悪癖である貧乏揺すりをしながら思考を巡らせていた。


「おかしい……」


 この東京全域で大規模な無差別殺人が起きたこと自体がおかしいのだが、今の彼にとってはこの言葉しか出ない。


 一昨日の事を思い返す。真坂部は数日前から数件続いていた通り魔殺人事件の捜査に入っていた。その最中に突如無線が混雑。復旧後は各駐在所や警察署から無差別殺人の報告ばかりが飛び交い、挙げ句の果てには急遽、()()()()を理由に全捜査を後回しにされたのだ。


「……はぁ」

「先輩、お疲れ様ですっ」


 そんな大事件の始まりに深い溜息を漏らすと、後輩の舘上たてがみ 京磨きょうまが駆け付けて来る。グレーのコートを羽織り、朝食のあんパンと牛乳を手渡してきた。


「すいません、本部に寄ったのですがかなりゴタゴタしてて遅れました。一応飯をかっ払って来ましたけど、もう朝飯食べちゃいました……?」

「血ぃ流れた現場見ながら飯が食えるか」


 早朝に鑑識が駆け付けた頃には、ここはもうバラバラ死体の海だったらしい。手計算で約300人分。今は数が足りないブルーシートで申し訳程度に隠しているだけだが、朝食と洒落込める訳がない。


「あっ……すいません! じゃあ車の中に置いときますね」

「飯はいいから、本部に寄せられた情報を教えろ」

「は、はいっ!」


 ポケットからメモ用のノートを取り出した舘上に、寄せ集めの情報を報告させる。


「えーっと……現時点で国内の推定死者は約5000人、負傷者が約2000人、行方不明者は約500人。どうやら市民だけじゃなく国会やテレビ局、発電所なども襲撃を受けたようで……国家機能は麻痺、全交通機関停止、大規模停電、メディアによる情報伝達は不可能な状況。復旧には一週間以上は掛かるかと……」


 いずれも発展都市のアキレス腱を突いた悪質な犯行だ。町中サイレンが鳴りっぱなしで、刑事でさえ現場に回される人手不足なのだから、被害者数はまだ増える見込みだ。


「それから、やはりどこの現場も未だに犯人の痕跡は――ゼロです」

「………………」


 そしてこの事件――最も不可解なのが、犯人の指紋も、足跡も、凶器も……()()()()()()()()()()()ことである。


 殺人が起きた際、街の防犯カメラの映像は全て砂嵐になっていたらしく、目撃者からは有力な情報も得られなかったのだ……。


「それで先輩は、ここに来て何か見つけました?」

「……辺りを見ろ」


 だがここだけは違う。この現場にだけは、()()()()()が残っていた。この二つの矛盾が、真坂部の頭から離れないのだ。

 目の前の電器店は、壁が鉄球で崩されたように巨大な穴が開いており、路上の電柱は点々と砕かれ倒壊している。そして街路樹が何故か地面から抜け出ており、樹の根は怪獣の足にでも変異したようなグロテスクな姿で転がっていた。


「……どうしてこんな?」

「俺が聞きてぇよ。指紋も何も見つかってないんだ。どんな手品使いやがったのか……」

「うーん、じゃあここで剣と魔法の超異能バトルでも起きてたとか!?」

「現実を見ろ、馬鹿」

「……すいません」


 どんな事件であれ真っ先に空想で片付けては、警察などいらない。


「他に情報は?」

「えっ……本件に関してはもう無いですけど」

「何でもいい。今朝から似たような報告ばっかでイライラしてんだ」


 だが、今はその現実を見てもヒントを得られないから苛立ちが止まらない。真坂部は思わずポケットから煙草を取り出して一服する。


「う〜〜ん、強いて言うなら……本部で小耳に挟んだんすけどね。警官が事件当日に市民の避難誘導をしていた際……()()()()()()()が現場の方へ走って行くのを見掛けたそうです」

「男子高生?」

「制服からして、花札町はなふだちょう花札学園はなふだがくえんの生徒らしいです。その少年、何かを探すように必死な形相で全力疾走だったらしくて、呼び止める余裕もなかったそうですよ。でも、どうしてあんな遠い町から走ってきたんでしょうね?」

「――っ」


 花札町とは近年、自然との調和をテーマに再開発された東京郊外にあるニュータウンだ。

 だがその街の名を耳にした途端、真坂部は居ても立ってもいられず車へ向かった。


「先輩!? どうしたんです――」

「お前も付き合え」

「はい??」

「花札町を調べる」


 犯人に繋がる確証など無い。だが真坂部には調()()()()()があった。何故なら数日前から起きている通り魔殺人事件は、全てその花札町で起きているのだ。

 何かヒントがあるだろうという刑事の勘と、この奇怪な事件の真相を突き止めたいという探究心が、今の彼を突き動かしていた。



 * * *

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