自分の意見を持ち、発言しましょう。
どれほど時間が経っただろう。
あまりにも静かすぎて目が覚めた。目覚まし時計が深夜だと教えてくれる。時間の感覚はとうの昔に狂っていた。シンッとした空間がよそよそしく感じる。
窓の外は雨も風も収まっていて、月もないのにぼんやり明るい。これもまた夢なのだろうか。気付けば私は寝間着のまま外を歩いていた。目指すは星降りヶ丘。どうしてだろう。牧之がそこにいるという確信があるのだ。
辿る道は白く明るい。星の光が地面だけを照らしているようだ。ほわほわと足がついているのかいないのか分からない。振り返ると道の遠くに少し前の私の姿があって、逆に前方へ目を凝らすと少し先の私がいた。今の私は前後の私の視点から自分を見ていて、進んでいるようにも止まっているようにも戻っているようにも見えた。
けれど時間は進んでいる。いつの間にか山道に差し掛かっていた。
その時、聞こえるハズのない牧之の声がした。
「台風の目にちょうど差し掛かった見たいだね。星がこんなにも明るいや」
星? 見上げても何も見えない。白い靄がかかっていて、一つも見つからない。
牧之の声に重なって、誰かの声がした。よく聞き取れなかったけれど私の名前が出た気がする。すると牧之が一瞬、きょとんとした顔をしたのだ。見えるハズないのに、天体望遠鏡を覗いているみたいに見えるのだ。牧之が頬をかく。照れた時、本音を打ち明けようとする時の牧之の癖だ。
頬をかいた手が本人の無意識の内に、地球儀のペンダントを触れた。
「好きでないと言えば嘘になるけど……」
牧之がペンダントから指を離し、ギュッと拳を握った。照れもなく、ただ真剣に言葉を続ける。
「というか、好きだ。できるならずっと傍にいてほしい。それだけじゃないや、付き合いたい。手を握りたい。抱きしめたい。キスをしようものならその日を記念日にして一生祝い続けるよ。誰も知らない名もなき星を見つけて、彼女の名前をつけたい。たぶん呆れられるだろうけど、それくらいどうしようもないんだ。好きで好きでたまらない」
思い上がっていいのだろうか。うぬぼれてもいいのだろうか。
私がその言葉を受け取ってもいいのかな。欲しくてたまらない。掴んだら絶対離してやるもんか。
そう思って手を伸ばす。――けれど、
「けれど、それは俺の幸せでしかないんだ。俺の幸せが彼女を幸せとイコールじゃない」言葉を掴めない。
違うよ牧之。それは私にとっても幸せなんだよ。
大声で否定してやりたい。そんなんだから国語の勉強をしなきゃいけないんだ。難しく考えないで、もっと素直に言えるでしょ。
そんな風に言いたいけれど、言えない。自分のことを棚に上げてるから。
だからなんだよね。声が出ないの。足を動かしてるのに進んでいる気がしない。
「俺たちは常に孤独だ。生まれるときも死ぬときも。心や身体に寄り添って、傍にいる時だけ孤独を忘れられる。それを人は愛と呼ぶんだね。だから、彼女を置いて逃げ出すような俺が愛するなんてできないんだ」
泣きたいのに、涙が出ない。夏なのに月にいるみたいだ。
急がなきゃ、急がなきゃ。私、走ってるよね? もうすぐ丘の上だよね?
牧之、牧之――……。