忘れ物には気をつけましょう。
ピピピピピ――。
目覚まし時計が鳴っている。最近はずっと起こしてもらってばっかりだ。たぶん台風が過ぎた頃からだったと思う。ついでに言えば、夏休みも過ぎた。
だから私は制服を着て学校に行く。答えなんて見つからなくても進んでいく。どんなに怖くても所詮通学路。立ち止まることなんて許されない。
アイツはこれが苦しかったのかなって思ったりする。未来を考えれば考えるほど自由がなくなっていくのがよく見える。逸脱すればするほど幸せが見あたらなくて、自分で選んでるはずなのに選ばされている感覚が苦しい。
用水路の向こう側へジャンプする勇気は無かった。自分の重さに苛まれ、暴風雨に殴られたひまわりは根元の方からぽっきりと折れている。じきに腐って土に還るだろう。嫌気がさすほど私にそっくりだ。はやく学校に行かなくちゃ。
坂の上まで走ってくる潮風は日を追うごとにひんやりとして、心の隙間に吹き込んでくる。少し泣きたくなって目を閉じる。違う、泣きたいなんて嘘だよ。ちょっと目に染みたから涙が零れるんだ。だから平気。
ゆっくりと坂を下ればいい。少しずつ少しずつ進めばいい。
「六月うさぎ、七月うさぎ、八月うさぎ」
歌が聞こえた。それだけを理解して走り出す。
「風待ちうさぎ、七夕うさぎ、八月らーびっとー」
坂道を全速力で駆け降りる。転びそうだけど転んでられないって意地を張ってスピードを上げた。だってこれは本当に、最期のチャンスなんだ。アイツが優しいってこと、誰よりも私が知っている。
「八月うさぎ。さそりの心臓アンタレス。命を燃やせば星月夜」
海へと続く一本道のその途中。買い食いして、喋って、たくさん笑った駄菓子屋さん。
海を一望できるさび付いたベンチに、白い何かがいた。もこもこした生き物は、飲みかけのラムネを一息に飲み干して、くわぁっと欠伸を一つする。
パチン。泡が弾けるように姿が消える。悲しいくらいあっけない。
残ったラムネ瓶の中には私がプレゼントしたハズのガラス細工が入っていた。




