夢と現実の境界線とは
子供の頃に夢を見たんだ、鏡のトンネルを抜けた先に、突然広がる美しい草原と、その中央に天まで伸びる一本の大木。
その大木の根元には大きな穴が開いていて人が住めるようになっている。
そして、大木の太く畝る根っこには美しい妖精が座っていて会話をしなくても、お互いに意思の疎通が取れるのだ。
1人の少年と美しい妖精は、星降る夜空を見つめて愛を誓い別れた…。
その夢は四日間続けて僕を草原に導いたが、それ以来、妖精の夢は見ていない…。
(おい須藤!おめぇなーに、ぼーっと突っ立てるんだ!?危ねーぞ!)
突然耳に重機の音が突き刺さり、目の前で一本の大木が倒された。
その大きな音で我に帰った俺は、重機の運転手、新岡さんに右手で合図をして謝った。
(あ。新岡さんすんません!大丈夫です!)
新岡さんはベテラン鳶職の親方で、口は悪いけどとても良い人だ。
(まったく、社長も何で学生なんて雇っちまうんだろうなぁ?危なくてしょうがねぜ)
新岡さんは、スキンヘッドの頭に巻いた ねじり鉢巻を直しながらブツブツと何かを話すと、重機のエンジンを切り、こちらに歩いてきた。
(おめぇ!この木が当たったら死んじまうだぞ!馬鹿野郎!大丈夫です!じゃねーんだよ)
新岡さんは、そう言うと俺のヘルメットのツバを掴み左右に揺らしながら顎紐をきつく締めた。
(んじゃ!須藤、お前がこのクソ暑い日でブッ倒れられてもコマっからょ!いっぷくすんぞ〜)
怒り顔から一変して笑顔になった新岡さんは、さっき倒した大木に座ると煙草を吸い始めて俺を手招いた。
(あ。はい!すみません)
俺も倒された大木に腰を下ろした。