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藪の中のウォーゲーム  作者: オーメイヘン
5/6

最強軍団ポイポイ(前編)

ネトゲにおける精強なる兵士とは、より多く課金したプレイヤーが操る兵士である。しかし、再現された国家総力戦リアルは英雄のあり方を変えた。

オンライン人工知能『Hello!John!』

人工知脳・John と 語り部・ジョン


(起動音とともに古めかしいコンピュータのCGが現れる)


Hello!My name is John!Do you want to listen 『DAISY BELL』?


(ふたりして笑う)


ハハッ、いいだろう?このジョーク!僕の鉄板ネタさ。僕は古い映画が大好きなんだ。本物のジョンもそうだった。


(しばし、映画について談笑)


……ふむ、僕の分析したところでは君はいわゆるB級映画マニアであるようだ。誰もが称賛する作品にはケチをつけずにいられない。賛否両論ある作品には、捻りに捻った新解釈を突きつけてやりたくてたまらない。そして、おそるべき駄作には最大限の愛情を注ぐ‼︎(謎のエフェクト)……どうかな?合っている?やっぱり!自覚があるんだね!君はとてもジョンに似ている。僕は君が気に入った。だから、君の知りたいことへのアクセスを許可するよ。


(古めかしいコンピュータが消え、第二次世界大戦中のアメリカ陸軍の軍服を着た白人男性が現れる)


私は〈おっとと、私というのは語り部のジョンだよ。僕は僕で解説するよ。〉知っての通り革新的インターフェース『レオナルド』を開発したことで若くして巨万の富を得た。だが、月まで届きそうなドル札も、私の無限大の渇望を満たすためには静かの海にたらした液体メタンほどの役にも立たなかった。〈えっ、意味がわからない?うん、僕も理解できない。彼は意味不明なたとえ話が好きだったんだ。〉


私は渇望を満たす何かを求めてネットサーフィンを、いや、ネット遠洋漁業を繰り返した。〈彼は何日も何も食べずに様々な没入型オンラインゲームをプレイしていたんだ。主食は点滴!〉そんな時にたまたま『WW2・オンライン』に出会った。


初めは適当に札束を突っ込んで驚かしてやろうと思っていたのだが、100万ドルの札束は私に驚きを提供してくれた。リアルマネーは『WW2・オンライン』において戦略的価値をほとんど持たなかったのだ!私が得たものは無敵の兵士ひとりだけだった。



(力強い演出。勇ましい行進曲が流れ出す)


スペインの丘を、ポーランドの森を、フランスの街道をアメリカ人義勇兵となった私は駆け抜けた。だが、史実と同様にヨーロッパ大陸から民主的な勢力は追い出された。初めのうち、私はゲーム運営者がズルをしているのだと考えた。ドイツやイタリアに対してなんらかのボーナスが与えられており、ゲームが現実の歴史をなぞるように調整されているのだと。だが、それはバケツで作ったプディングのように馬鹿な考えだったのだ!愚かな私を嘲笑うかのように行われた敵の上陸作戦によって、私はアメリカへと帰ることになった。だが、スコットランドの山中で戦う戦友を見捨てて帰国する悔しさは私の闘争心に火をつけたのだ。必ずやこのゲームの勝者になってみせる。久しく忘れていた充実感を私は味わっていた。


(ミステリアスなBGMが流れ出す)


手始めに、私はログアウトして情報を集めた。開発したのは日本のそこそこ有名なゲームメーカー。一握りの良作を生み出すのと引き換えに数々の商品未満のゴミモドキを世に送り出してきたらしい。プログラマーも大した人物はいない。その前にも、その後にも有名になった者はいない。どうやら奇跡にも近い偶然が『WW2・オンライン』を生み出したように思われた。


次に、私は各種SNSを用いて誰かズルをしたプレイヤーがいないか探した。だが、SNS上の情報は恐ろしくなるほど少なかった。信用できる情報筋によると本作のプレイヤーは数万人を下らないはずなのだ。にもかかわらず、電子の海は沈黙するばかりだった。〈プレイヤーの口がひとり残らず固かった?そんな馬鹿な‼︎〉


(衝撃を表現するエフェクト。BGMが軽快なのものに変わる)


最後に私は再びゲームにログインして、アメリカ国防省を訪ねた。私はこのゲームに驚いてばかりだった。国防省もペンタゴンも史実では存在しないはずの時期に存在していたのに、ソロプレイヤーだった私はずっと気がついていなかったのだ。時に、ゲーム内時間1939年。空を舞うパンケーキに私はこころときめいた。〈この部分の詳細は不明。パンケーキを投げ合う乱闘があったのか、XF5Uの試作機を見たのか、それとも彼の好きな婉曲な感情表現なのかな?〉


高い階級を持つPC達は私のヨーロッパでの戦いについて噛みつくように聞き入り、時にしゃぶるように質問した。〈気持ち悪いくらい熱心なPCがたくさんいたみたい〉そして、彼らは私を新設の教導部隊の指揮官に任命した。部隊名は私のアカウントにちなんで『poi-poi Instructor troops〈ポイポイ教導隊〉』と名付けられた。アカウント名を適当に登録したことは私の人生における数少ない失敗のひとつだ。〈この名前のせいで初対面の海軍PCに絡まれることがあったらしいよ。なんでだろうね?〉


ポイポイ教導隊の顔合わせでも、何度目かわからない驚愕が私を襲った。私の部下たちはひとり残らずゲームに対して金を払いたがらない人種だったのだ!信じられなかった。対価を支払わずに楽しみを得ようという人間がこんなにも多かったなんて‼︎〈ジョンは変なところで頭が固くて、当時既に一般的だった基本料無料というビジネスモデルが嫌いだったんだ。『レオナルド』を開発した後で自分の会社から追い出されたのは、経営方針の違いのためだったことは有名だよね。〉私は彼ら彼女らに、勝利のためにはリアルマネーを惜しんではならないことを訴えようとして副官に止められた。彼女は言った。「軍はあなたに兵士を育てることを望んでいる。リアルマネーを1セント足りとも使うこと無しに。」


(謎の効果音が響く)


私はログアウトしてやろうかと思ったが、この小柄な女性士官に圧倒されて頭をひねることになった。〈この副官は後に現実の世界でジョンの生涯の伴侶になったよ。現実世界での2人の間には様々な障害があったけれどふたりはそれを乗り越え続けたんだ。ゲーム世界でそうしたようにね!〉


私は数日のうちに徹底した効率主義では無課金の羊たちを獅子にすることはできないと悟った。彼らは私と同じく楽しむためにゲームをプレイしていた。現実世界のような厳しい反復練習はステータスを伸ばすことはできても喜びはもたらしてくれない。もちろん、金を惜しむなら努力を惜しむな!と言うこともできたはずだ。だが、私は楽しんでいたのだ。リアルマネーが価値をなさない世界を。


(彼は懐かしむように軍帽に触れた)


日本軍が卑劣にも1941年を待たずに戦線布告してきた時、私はポイポイ教導隊を率いてペンタゴンのペンキ塗り替えをしていた。上げて、下げて、上げて、下げて……やっていることは反復練習だったが、ペンタゴンをカラフルに染め上げているという喜びが部隊をひとつにしていた。〈童心に帰っていたのかな?人間って面白いね。〉


ラジオでハワイに日本軍が上陸したという悲痛に満ちた声が絞り出されるのを聞いた後、すぐに軍上層部は新たな命令を下した。ポイポイ教導隊の実力を測る演習をするというのだ。相手は、ほぼ同期間をクソ真面目な訓練に費やしたガチ勢PCとNPCの混成部隊だった。〈勝つのはどっちだ⁈〉


(筆者はただ、このふたり?の人工人格の掛け合いに聞き入っていた。後半につづく)


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