表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藪の中のウォーゲーム  作者: オーメイヘン
4/6

昭和26年の敗戦4 大本営の苦悩

MMOにおける戦いは、常に思い通りにならないと言って良い。そして、その原因は多くの場合、敵ではなく味方に求められる。

オンライン集会所『ボードゲーム倶楽部』管理人・あごの大将


やあやあ、ようこそ我等の倶楽部へ!(満面の笑み)君が『WW2・オンライン』について調べていると小耳に挟んだものだから、ぜひ真実を知ってもらいたいと思って招待したんだ。ふむふむ、それは日本軍の軍装かな?いやー、いかんね、それは!その階級章はだねぇ〜


(アバターの設定を調整してもらう。その際、課金アクセサリーまで頂いた。恐縮である。)


良し、男前になったじゃないか。正に日本男児かくあるべしといったところだ。えっ、お代?いらないよ!こんなおっさんの話を聞いてくれるお礼さ。君は既に何人かあのゲームのプレイヤーに接触したと思うけど恐らく階級は良くて佐官だろう?前線で戦った彼らは確かに真実を目にした。だが、それはあのゲームの一面に過ぎない。その点、私は開戦以降、常に参謀本部に出入りしていた。すなわち、大東亜戦争を鳥瞰ちょうかんしうる立場にあったわけだ。階級は終戦時に少将で、既に形骸化していた役職だったが第1部の部長を務めていた。(誇らしげな表情)語ろうと思えば、あの完璧に統制された満洲事変から大きな賭けであった大陸電撃戦、さらに昭和15年のハワイ奇襲上陸でも何でも語れるのだが、いかんせん時間がかかる。だから、恐らく君が最も聞きたいであろう、そして最も大きな誤解を抱いているであろう昭和26年の戦況について説明しよう。ーーーああ、すまない。立ち話も何だからそこの椅子にかけたまえ。


(椅子に座り、卓を挟んで向き合う。卓上にはボードゲーム用の太平洋マップが置かれている。)


では、おおよその戦況を説明する。と、言ってもこの頃はかなりギルドの軍閥化が進んでいて中央の指示に逆らうことが増えていたから細かいところは間違っているかもわからん。


第1に大陸戦線。フィリピンと台湾が米軍に奪われたせいで支援を受けた国民党軍が息を吹き返したため、黄河まで撤退していた。(乱暴に地図上に駒を置く)さらにソ連軍も動きは鈍りながらも南下を続け、新京へと迫っていた。(苦々しい表情)大本営の総意としては何としてでも陸海軍の協働によって黄海沿岸部を維持し、大陸反攻の橋頭堡としたかったのだが一部の海軍ギルドが保身に走ってしまい修正を余儀なくされた。が、それでもなお反撃の可能性は残されていた。ーーー黄河から南満洲、朝鮮半島に至るこの地域だけで120万の将兵がいたからだ。PCだけでも数万人が。あのゲームにおける1人のPCはNPC100人に匹敵しうる戦力をもっていて、登録アカウント数は日本軍が圧倒的に多かったのだ。まだ充分に勝ち目があった。


第2に北海道戦線。南樺太と北方領土を不法に占拠したソ連軍は勢いに乗じて北海道に上陸したが、私たち中央の的確な指導により補給を断たれ孤立した。しかし、その戦力を完全に駆逐することは叶わず、抑えとして約10万の将兵が必要になった。津軽海峡の制海権は死守されなければならなかったからな。(地図上の津軽海峡を指でこする)それにしても、ソ連は何という戦力分散の愚を犯したものか。オホーツク海はソ連艦艇の残骸で埋め立てられる勢いだったな(笑みがこぼれる)


第3は南方。これは正直なところ把握しきれていなかった。ベトナムやマラヤ、ラバウルにインドネシアなどが未だ維持されていたが中央の指示をまともに聞くような状態ではなかった。現地のNPC独立勢力と結びついた軍閥ギルドが好き放題に戦っていたという感じだ。彼らが中央の指示に従ってくれたならフィリピンは健在だったろうに。(恨めしそうに下唇を噛む)


そして、本土。ーーーああ、別に沖縄や北海道を除け者にするつもりは無いのだがね、なにせ既に上陸されていたから防衛計画上では分けられていたんだ。大本営のPCにとって本土決戦と言えば内地……本州、四国、九州、それにその直近の島々での戦いのことだったんだ。(長い沈黙)ーーー今更だかゾッとしているよ。私はね、現実リアルでの生まれは旭川なんだよ。両親が亡くなってからは久しく帰っていないがね。そうか、俺もすっかり内地人きどりか。ところで、君は……すまん、現実リアルの話だなんてネチケット違反だったな。忘れてくれ。

ーーー大本営は連合軍の上陸地点を九十九里浜であるとほぼ確信していた。私はこの点について懐疑的だったが、どういうわけか他の将官はみな口をそろえて九十九里浜だ、九十九里浜で間違いないと言うから反対しようがなかった。上陸可能地点を全て守れるような余裕がなかった、という台所事情もあったんだがね。


あそこには一度だけ視察に行ったのだがあれは壮観だった。新砲塔の『四式中戦車』が少なくとも200両はあったし、半地下発射施設に収められた『秋水』や『雷鳥』といった迎撃機もまるで昔の漫画みたいでかっこよかったな。あれを見たなら誰だって日本はまだ戦えると強く感じたはずだ。サーバーが落ちなかったならば、米軍はいつか必ず上陸して来たに違いない。だが、ドイツの『大西洋岸長城線』の戦訓を参考にしたあの大要塞ならばどんな敵でも寄せ付けなかったさ。


(ピピピピピ、とタイマーが鳴る)


おっと、もうこんな時間か。これからここで非電源系ウォーゲームのオンラインセッションがあるんだが……その、良ければ参加していかないか?正直、初めは知りたがりのヒヨッコを教育してやるつもりだったんだが、私も丸くなったらしい。未来ある若者を、いや、君を、友人達に紹介したい。『WW2・オンライン』についての情報は集まらないかもしれないが、ウォーゲームは素晴らしいぞ!是非やろう!


(以上で、あごの大将氏へのインタビューは終了した。この後参加したセッションにおけるボードゲームプレイを見る限り、彼は慎重かつ論理的な人物であるように思われた。亀の甲より年の功。ダイスを振る時の「決断した後は常に賭けなのだ」という彼の言葉が印象的だった。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいるうちに世界観に引き込まれて、けれどその世界観は明確でないというもどかしさがたまらないです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ