昭和26年の敗戦2 不眠戦線、異常ナシ
その島は確かに重要拠点だった。だが、何がその島を重要拠点足らしめているのかを理解していた者は多くない。
学園青春MMO『めぐるめぐる17』プレイヤー・ヒロフミ
やれやれ、君には負けたよ。放課後の校門に可憐な少女のアバターで待たれたならお相手せざるを得ないね。まあ、主人公ヒロフミには幼馴染さえ知らない劇的な過去があったのだと思えば悪くないか。おっと、マジ惚れはよしてくれよ。ゲーム内では純愛キャラで通っているんだから(爽やかにウィンク)。
(近くの喫茶店に入店。窓際の席に座る)
さて、WW2・オンラインか。懐かしいね。僕がまだ懐古主義に浸らなくても良いくらいには若々しかった頃のゲームだ。うん?今も十分に若々しい?まったく、赤髭が惚れ込んだわけだ。彼があのゲームについて話すことなんて滅多にないんだよ!ふふふ、そろそろ僕の武勇伝を話そうか。あの頃、僕は沖縄の南部絶対死守要塞にいたんだ……(静かに目を閉じたかと思えば、突然叫ぶ)。ああ!注文を忘れていた!僕らしくもない。紅茶でいいかな?おごるよ!(どこか張り付いたような不自然な笑顔)
……何から話そうかな。ゲーム内で最後に赤髭に会ったのが北海道にいた頃だから、うん、所属していたギルドの連隊が台湾から奇跡的に撤退に成功して、沖縄死守の使命を帯びた時から話そう。僕は今はこんなボンヤリしたエンジョイゲーマーだけど、当時は廃人ギルドの幹部を務めるようなガチ勢だったんだ。ギルドの名前は悪いけど伏せさせてもらうよ。廃人でかつネトウヨな人が集まっていたとだけ、ね。(恥じ入るように顔を両手で隠す。しばしの静寂)
(注文した紅茶が届いたので飲む)
誓って言うのだけど、僕は人に話せないような悪事はやっていないし、見てもいない。民家のオブジェクトを壊すようなことはあったけど、NPCであっても助けを求める民間人を見捨てるようなことはしなかった。マスクデータが多かったあのゲームで日本軍があれだけ戦い続けられたのは、そういった気遣いを多くのPCが意識して行動に移したからだったと僕は信じているよ。現実の歴史についての引け目もあったのかもしれないけど……いや、今のは忘れて!歴史は歴史、ゲームはゲームさ!うんうん、そうとも!
それでね、まあ、米軍は大体歴史の通りに上陸してきたんだけと史実と違って日本軍の航空決戦を受けて消耗していたんだ。確実に。沿岸迎撃も効果的に行えたし、何より内陸部は数年かけて大要塞に作り変えられていた。牧港から和宇慶にいたる機動的迎撃ラインは最後まで大規模な突破を許さず、連合軍に出血を強い続けた、はずだ。南部絶対死守要塞は、僕たちの戦いは、無駄ではなかったはずだ!(興奮し、机を叩く)
……ごめんね、どうもこの話題になると熱くなっちゃってね。あー、店員さん!パフェ2つ追加で!(少し考え込むような仕草)ああ、そういえばギルドマスターが鰹節を振る舞ってくれたことがあったな。歴史に詳しい人だったから何か意味があったのかもしれないけど、なんだかよくわからなかった。そうそう、当時は必死だったからわからなかったけど、今思うとアレも酷かった。週末徹夜迎撃!日本側はさ、島での防衛戦は全滅するからって誰もやりたがらないわけ!で、うちのギルドだけで沖縄の陸軍約10万人を指揮していたんだけどもう人手が足りなくて足りなくて!米軍は勝ち戦だからもう順番待ちでPCが攻めてくるんだけど日本軍は交代してくれる人がいない。そうするとどうなるかって、隣でさっきまで戦っていたPCが突然動かなくなるんだ。でも、ダメージは受けていない。要するに、『寝落ち』してたんだね。今と違って当時の没入型は脳への負担が割と重かったから睡眠の代わりにゲームプレイ、なんてことはとてもできなかった。それが毎週末続いたから、だんだんおかしくなるPCも出てくる。わけのわからない歴史用語を叫ぶ者、泣き出す者、ログインとログアウトを繰り返す者、空飛ぶ円盤を見たとか言い出す者……ははは、思い出すぶんには笑い話にしかならないね。(ここでパフェが届いたのでありがたく頂く)今、こうして君と喫茶店でパフェを食べていることもいつか思い出になるのかな。ギルドのみんなでバカみたいに笑いながら埃っぽいの鰹節を削ってたことのように。(自然な笑み)
(今期のアニメなどについて雑談。お互いの趣味が合い話が弾む。)
おっと、僕はそろそろ行くよ。デートの約束があるんだ。相手はやきもち焼きだけど、素直で可愛い女の子さ。えっ、窓の外?あっ!あっ!えっと、じゃあ、お金は置いて行くからお釣りは気にしないで!またね!ああ、こんなイベントは想定外だよ!(急いで店を出て、女の子を追いかけていく)
(以上でヒロフミ氏へのインタビューは終了である。『WW2・オンライン』における沖縄戦は特に謎が多いが、サービス終了時まで日本側PCの組織的抵抗が維持されたことは確かなようである。)