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藪の中のウォーゲーム  作者: オーメイヘン
1/6

昭和26年の敗戦1 最後の海戦

その時、無数の『もしも』と『だが』があった。しかし、今遺されているのは雑多で不確かな真実だけなのだ。

冒険MMO『エルドラド1492』プレイヤー・赤髭


あんたも物好きだな。あんな糞ゲーのことを聞きたいなんて。俺のことを探すのはずいぶん骨だったろう?ご苦労さん。えっ、有名人⁈俺が⁈へえ、嬉しいね。だが大した話はできないぜ。俺は終戦の時でさえ、一海防艦の艦長に過ぎなかったからな。


……あの日の海は穏やかだった。ちょうどこのメキシコ湾のように(本インタビューは『エルドラド1492』内にある赤髭氏の海賊ギルドの秘密拠点で行われた)。今でこそそんな事はないが、当時の没入型オンラインゲームは技術的に未熟でな、アクティブユーザーが増えて回線が混雑すると負担軽減のためにどんなに荒れた海もパッとおとなしくなったもんだ。昭和26年のあの日、米国の大艦隊が房総半島沖に集結したときもそうだ。天気晴朗ナレドモ、ラグ酷シ。決戦の日はいつもそうだった。


日本人ミリオタが頑張ったこともあって6年も長く続いていた太平洋戦争だったが、着実に日本海軍はすり減っていた。サイパンが落ち、硫黄島が落ち、沖縄が事実上陥落していた。ああなっては廃課金がいくらいたところでどうにもならない。最後に残された艦隊もネトゲーマーお得意の内ゲバで各地の海軍系ギルドに分散されていた。俺の所属ギルド『楠の木フリート』も……おい、笑うなよ!こんな感じのギルド名が流行ってたんだよ。当時は!……でだ、その『楠の木』は、青森の大湊鎮守府でソ連の北海道軍団とにらみ合っていたんだ。ギルドの誇る改大和級戦艦『紀伊』が、必死こいてドイツから導入された石炭液化技術で精製された油をバカみたいに浪費しながらソ連の輸送船団を吹っ飛ばしたのが、確か昭和24年の夏だった。俺はその時に砲雷長をやっていた駆逐艦を体当たりで沈められて、しばらく陸で戦っていた。ソ連プレイヤーはしぶとくてな。モスクワ急行……潜水艦や駆逐艦を使ってまで北海道軍団へ物資を送って粘りやがった。陸軍連中のウラジオ攻略作戦が成功していりゃもっと……(暗い表情を見せ、押し黙る)……いや、悪い悪い。ははは、それに比べてこのゲーム(エルドラド1492)はいいぞ!俺みたいに海賊をやれば、陸でも海でも自分の好きなように戦える。お前さんもどうだ?一緒にカリブ海の王を目指さないか?


(しばし雑談)


ああ、そうだった。初めて艦長を、自分以外のプレイヤーキャラ(以下、PC)を任されたのが、あの時だった。忘れもしない、海防艦『大湊28号艦』。俺の、最初の女さ(照れながら)。大湊造船所で建造された最後の丁型海防艦で物資不足のせいで主砲が積めなくて、ちょっとばかり不細工だったが可愛い娘だった。俺は艦長として3人のPCを指揮した。確か、うるんじ砲雷長、バサラ機関長、ZERO通信士の3人で、他の船員はみんなNPCだった。ふざけたハンドルネームばかりで雰囲気ぶち壊しだったが、どいつもこいつも歴戦の勇者さ。何度かソ連潜水艦と殴り合ってるうちに仲良くなっちまった。特にうるんじの奴とは同じ砲雷長だったのもあって暇さえあれば話し込んだもんだ。今、どうしているかな(遠くを見るような瞳)。それであの日が来た。大湊艦隊最後の出撃、『東京湾殴り込み作戦』だ!……そんな顔するなよ。そうさ、あれは俺たちの、『楠の木フリート』の菊水作戦さ!まったく、見栄っ張りのご先祖様と同じことをやったと散々馬鹿にされたよ。でもな、もう油も石炭もなかったんだ。


(沈み込んだのち、突如キレ始める。石炭液化施設が失われたことにも触れているが、主に陸軍批判と海軍上層部プレイヤーへの個人攻撃のため掲載自粛)


はあ、はあ、俺があの時、米国海兵隊一個師団と同等の戦力を指揮できたなら……いや、やめよう。あのゲームは終わったんだ。『紀伊』と『大湊28号艦』ともにな。ああ、作戦自体は上手く行った。千葉の沖合いでアメリカのウスノロ戦艦4隻と一戦交えてボコボコにしてやった。後から、戦艦同士で戦いたかったから飛行機を使わなかったなんて言い出す奴もいたが嘘だ。俺たちは空を黒く染め上げるような数の敵機を見た!その直後にサーバーが落ちさえしなければ、戦艦4隻を屠った俺たちは戦艦大和と同じ運命を辿っただろうな。もちろん、最後まで対空機銃を撃ちまくってやるつもりだったがな。俺が話せるのはそのくらいだ。戦争に勝っていたころの話?まあ、それはまた今度な。昔の話をするのは疲れる。それに比べて今は本当に楽しい。もう油の残量を気にしなくていい。真水と食料と気まぐれな風さえあれば、俺は7つの海のどこへだって行けるのさ!


(以上で赤髭氏へのインタビューは終了した。だが、彼の海賊王にふさわしい秘密基地に、時代考証的にありえない鉄製軍艦のタペストリーが飾られていたことを追記する)


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