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05.新たな借金(1/2)

 盗賊の襲撃から数日。村は総力を上げて復興に取り組んでいた。


 もちろん俺も進んで作業に協力している。《ワイルドカード》はこういうときにも便利なもので、他の人のカードを見せてもらってコピーすることで、どんな作業でも手伝うことができた。


「おーい、カイ! 今度はこっちを手伝ってくれ!」

「はいはい、今行きますよっと」


 次の作業は半焼した家屋の解体だ。《瞬間強化》のスキルをコピーして、柱に結び付けられたロープを握る。


「せーの……!」


 ガタイのいいオッサンと息を合わせてロープを引っ張る。瞬間的に強化された筋力のおかげで、大きな柱があっさりと倒れた。


「いやぁ本当助かるよ。村の一大事に、村長の一人息子がこんな才能を持って帰るなんてな。まさに神様の思し召しだ」

「はは……偶然ですって」


 転生するときにたまたまガチャで引き当てました、なんて説明しても信じてもらえないだろう。逆に『それこそが神様のご意志』だと解釈して、信仰心を更に深める結果になるかもしれないけど。


「よし! 昼飯の前に解体も済ませちまおう」

「そうですね」


 次にコピーするのは《建築》スキルだ。いわゆる大工仕事全般に恩恵を与えるスキルで、建物の解体や廃材の加工にも効果を発揮する。

 家の残骸から焼けていない部分を切り出して、他の家の修復に使う木材に加工する。小さい木材は燃料に使える。この貧しい村では焼け残りも貴重な資源だ。


 作業を一段落させて休憩していると、ルースが水筒を持ってやってきた。


「お疲れ様。カイはこっちで、ジョセフおじさんはこっちの水筒ね」

「ありがとな。ちょうど喉が乾いてたんだ」

「やっぱり力仕事の後はこれがねぇとな!」


 水筒の水でありがたく喉を潤す。

 ……隣から何故かアルコールの匂いがした。そうか、あっちの水筒の中身は酒なのか。


 水道事情の良くなかった昔は、腹を壊すかもしれない真水の代わりに(エール)を飲んでいたという。今はそんなことをする必要はないので、純粋に酒が飲みたかっただけだろう。


「……ねぇ、カイ。身体は大丈夫? 変な感じとかしない?」

「何だよいきなり……熱でもあるのか?」


 いつも奔放なルースにしおらしく心配されると、逆に不安になってしまう。


「《前世記憶》のカード、使っちゃったんでしょ? 心配してるわけじゃないんだけど、その……」

「ああ、そういうこと。別に何ともねぇよ。今の俺も前の俺も似たような性格だから、記憶が増えただけで違和感ゼロ。変わってるようには全然見えないだろ?」

「んー……少し大人びたように見える、かな」

「そうなのか?」


 自覚はまるでないのだが、他人から見ると変わっているように見えるらしい。

 考えてみれば、前の俺(新堂海)今の俺(カイ・アデル)の間には十歳以上の年齢差がある。精神年齢が変化してもおかしくはない。


 逆に言えば、(おれ)からカイ(おれ)の間で十歳以上若返っていることになるので、(おれ)を知る人間が見れば「身体に釣られて中身まで子供っぽくなっている」と映るのかもしれない。


 そんなことを考えていると、遠くから俺を呼ぶ声がした。


「いたいた! カイ、村長さんが呼んでるぞ!」

「親父が? 分かった、すぐ行く!」

「あ、待って、私も行く!」


 俺は何故かついて来たルースと一緒に、村役場を兼ねた自宅に戻った。

 集会場にも使える一階の大広間で、数人の男達が険しい顔でテーブルを囲んでいた。どれも見覚えのある顔だ。


「初めまして。カイ・アデル君だな」


 ……唯一、不敵な笑顔を浮かべるスカーフェイスの男を除いて。


「親父、じゃなくて、父上。他の村の村長を集めてどうしたんですか。それとあの鎧姿の人は?」

「順番に説明する。まずは座りなさい」


 とりあえず言われるまま椅子に腰を下ろす。ルースも俺の隣の席に座った。

 テーブルを囲む面々、近隣の村の村長達はみんな硬い表情で重苦しい雰囲気を漂わせていた。


「この村は有形無形の財産の殆どを失った。貯めていた貨幣は持ち去られ、家も、畑も、倉庫の食料も焼けてしまった。このままでは、村を解体して別の場所に移り住まない限り、冬を越えることもできないだろう」


 想像していたとはいえ、実際に聞かされるとつくづく絶望的な状況だ。

 アデル村は親父が開拓した村だ。人生を懸けて村を育て上げ、それが一段落してから結婚し子供をもうけたので、カイ(おれ)と親父は他の親子よりも三十年ほど多く歳が開いている。そのせいで祖父と孫に間違われることも少なくない。


 我が子同然の村を捨てる決断は本当に辛いはずだ――と、思いきや。


「しかし、私はこの村を捨てようとは思わない。食料をかき集め、家を建て直し、畑を元に戻し、必ず蘇らせてみせる」

「親父――」

「そのために必要なのは……金だ。こればかりはどうしようもない」


 問題を突き詰めると、やはり金銭的な問題に直面してしまう。何をするにも金が必要。世知辛いかもしれないがこれが現実だ。(おれ)もそれでずっと苦しんできたのだから。


「具体的にどれくらいの金が必要なんだ?」

「収穫が戻るまでの食料を買う資金も含めて、おおよそ二十万ソリドを集める必要がある。それも冬が来るまでにな」

「二十万も……」

「そんなの、無理に決まってるじゃない……」


 ルースが絶望的な表情で呟いた。俺も顔には出さないがルースと同感だ。


 一ソリドは日本円で五十円程度に相当する。つまり二十万ソリドは約一千万円。両親の死後に(おれ)が背負った借金の二倍もある。

 しかも俺のときと違って、何年も時間を掛けることはできない。猶予期間はたったの数ヶ月。冬までに資金を集められなければ、凍死か離散のどちらかを選ばなければならないのだ。


 他村の村長達も深く溜息を吐いた。


「我々はアデル村に対する援助の相談のために集まったのだがね」

「二十万ソリドとは、こちらからの支援を足してもまだ足りない分なのだよ」

「食料や金銭の余裕は我々にもあまりなく、できる限りかき集めても必要な額の半分が精一杯だ」

「村民の受け入れも同様。一度に全員を預かれる村はない」

「実に悩ましい問題だ」


 村長達が口々に苦境を口にする。この村のために力を尽くそうとしてくれているのは伝わるが、彼らも自分の村を第一に考える必要がある。


 ……ふと、(おれ)の親戚達のことを思い出す。


 彼らは親の借金を背負った(おれ)に同情し、可能な限りの手助けをしてくれた。しかしそれは自分達の家族に負担を強いない範疇の援助だった。

 当時の(おれ)も当然の判断だと思っていたし、知らんぷりして逃げられないだけまだマシだとも考えていた。もちろん感謝だってしていた。

 けれどその一方で、本当に頼れるのは自分だけだと諦める原因になったのも否めない。


 やはり世界が変わってもそれは同じなのだ。赤の他人を助けるために、大金を融通してくれる都合のいい人間なんているはずがない。

 そんな諦め混じりの思いを、鎧姿の男の大声が吹き飛ばした。


「よって、この私が無利子での資金提供を申し出たわけだ! 実に単純明快な展開だな!」

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