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42.Dランク初依頼(3/4)

 探索当日。事前の取り決めどおり、この依頼ではあちらのパーティと一緒に移動することになった。


 廃都市は犯罪者達の格好の隠れ家だ。

 定期的にハイデン市名義で討伐依頼が出され、その度に数を減らしては、またいつの間にか元に戻る。それこそ廃墟そのものを解体しない限り根絶できないと、前に受付のパティから聞いたことがある。


 犯罪者達も悪知恵は回るので、戦闘スキルを持つ冒険者達がひしめき合うハイデン市の近くでは滅多に悪さをしない。レオナとエステルを襲った盗賊はこの辺りの常識に疎い余所者(よそもの)だ。


 緊張した様子のエステルに、アビゲイルがクールな態度で声を掛けた。


「怖がらなくても大丈夫。つい先週、Bランクまで動員した掃討依頼が終わったばかりだから。当分の間、廃都市はもぬけの殻。犯罪者の楽園に戻るまで半年は掛かるでしょうね」


 実を言うと、その掃討作戦が計画されたのは、レオナとエステルが盗賊に襲われたからだったりする。


 あの辺りはまだ安全だと思われていた場所だったので、そこまで盗賊があふれ返っていると判断された結果、久し振りに廃都市を『徹底洗浄』しようということになったそうだ。


 結果、アビゲイルの言うとおり廃都市はほぼ無人に近くなり、探索任務も前より安全に進められるようになっていた。

 Dランク初依頼としてこの依頼を選んだ理由の一つがこれだった。


 やがて無人の廃都市の入り口が見えてきた。城門の扉は壊れたまま修復すらされていない。


「にしてもよぉ、何で依頼主は二つもパーティを雇ったのかね。どちらか片方でも充分だったんじゃないか?」


 向こうのパーティの少年、ザックは俺達を横目に眺めながらそう言った。自分達だけで充分だった、という思いが暗に込められているのが分かる。

 リーダー格のウィリアムはそれを無言の圧力で制してから、丁寧な口調で仕事の話を始めた。


「恐らく依頼主は二つの地図を分担させて探させるつもりだったのでしょう。しかし指示内容に別行動は明記されていませんので、安全策として一緒に行動するようにしたいのですが。どうでしょう」

「俺も、それがいいと思います」


 Dランクで初めての依頼だ。安全に進めるに越したことはない。俺達は総勢六人の臨時パーティを組んで廃墟の都市を進むことにした。


 まずは一つ目の地図に記されたポイントに向かう。場所の特定自体は割と簡単にできたのだが、困ったことに工房らしきものは見つからなかった。

 手分けして建物のあちこちを探索しても、短気なザックが壁や床を破壊してみても、手がかりどころか隠し通路の(たぐい)も現れない。


「ここは外れかな……」


 皆で話し合った結果、一枚目は外れの地図だったと仮定して、二枚目の地図の場所を探してみることになった。


 廃墟には人っ子一人いない。野犬や狼も住み着いてはいないようだ。そのせいか、あちらのパーティにほんの少しだが緩んだ空気が流れつつあった。ザックに至っては、緊張感の欠片もない顔であくびまでしている。


 一方でレオナとエステルは慎重に辺りを見渡しながら歩いている。慣れてきた中級者と常にびくびくしている初心者の構図だ。


「ちょっと、やる気なくなったの?」

「悪ぃ、暇だとついこうなっちまうんだ」

「俺もまさかここまで何もないとは思わなかったけどさ……」


 レオナは信じられない者を見る目でザックを見たが、当の本人は全く気にしていないようだった。


「ここだけの話、アビゲイルは《気配探知》スキルを持ってんだ。アビゲイルが何も言わねぇなら絶対に安全なんだよ」

「人のスキルをぺらぺら喋るんじゃないの」


 アビゲイルの拳がザックの後頭部を軽く叩いた。

 それなら気が緩むのも分からなくもないが、さすがに少し緩み過ぎな気がする。それほど《気配探知》スキルを信頼しているのだろうか。


 探知範囲がどれくらいかは知らないが、範囲外から弓矢や速度の速い呪文で狙撃されることだって有り得るはずだ。俺は念のため、ノーモーションで《遠見》スキルをコピーして、背の高い建物の屋上を順番にチェックした。


「――ん?」


 この都市で一番の高層建築――見張り塔の屋上に人影があった。

 ローブで全身を隠しているせいで容姿は分からない。そんな怪しすぎる外見よりも更に不思議だったのは、人影の周りに大量の鳥がはばたいて滞空していることだった。


 数羽の鳥がこちらに向かって飛んでくる。しかも急に全身から炎を発生させ、燃え盛る火の鳥と化して突っ込んできた。

 目測だがかなり大型の鳥だ。最大級の(ワシ)くらいはある。


「まずい! 何か来るぞ!」


 速度もとんでもなく速い。俺が声を上げた頃には、既に全員の視界にその姿が収まっていた。


「へっ、ようやく暇潰しの相手が来たか!」


 ザックは自身に満ちた顔で笑うと、両手足に装備カードを展開させた。メタリックグレーのブーツとガントレットだ。


「アビゲイルもそっちの面子(メンツ)も手ぇ出すなよ! 全部俺がやる!」


 ブーツが地面を蹴った瞬間、ザックの体が猛烈に加速した。その勢いのまま宙を蹴り、坂道を駆け上がるかのように空中を走る。


「オラァ!」


 砲弾のような拳が火の鳥の胴体を貫通する。

 ウィリアムとアビゲイルは信頼に満ちた表情でザックを見上げ、レオナとエステルは驚きのあまり口を開けたままになってしまっていた。


 次の瞬間、全員の顔が驚愕に染まった。


「なっ――!」


 倒された火の鳥が急に膨れ上がったかと思うと、まるで爆弾のように炸裂し、炎と爆風を撒き散らした。


 至近距離で爆発を食らったザックが、身動き一つせず地面に落下する。


「ザック!」


 ウィリアムがザックに駆け寄って《ヒーリング》のスペルを掛ける。その隙を見逃さずに襲い掛かる火の鳥の群れに、アビゲイルが装備カードを展開して弓矢の連射を浴びせる。


 迫り来る火の鳥の大半は撃ち落とされ、地面に落ちて爆発したが、仕留めきれなかった一群がウィリアムとザックに殺到する。


 寸前、二人の前に割り込んだエステルがスペルを唱えた。


「《アイスシールド》!」


 火の鳥の群れが氷壁に激突し、次々に爆発する。氷の盾の表面が砕かれ、破片が蒸発していくが、それでも爆発のダメージを盾の向こうに通すことはなかった。


「《フロストガントレット》のおかげで頑丈になってるんです!」


 襲撃はこれだけでは終わらなかった。火の鳥の群れの第二波が飛来し、俺達めがけて襲い掛かってくる。


 誰がどうしてこんなことを――


 何もかも分からないままだが、頭を悩ませている暇なんてない。今は文字通り、飛んでくる火の粉を振り払うだけだ。


「ふっ――!」

「《アイスショット》!」


 アビゲイルの猛烈な矢の連射とエステルの氷の散弾が、火の鳥を次々に撃ち落とすも、それでも数羽が弾幕をくぐり抜けてくる。


 俺は先頭の一羽の体当たりを回避して、すれ違い様に双剣で翼を斬り落とした。翼を失った火の鳥は地面に落ち、しばらく暴れてから自爆した。


「レオナ! 翼を狙え!」

「分かった!」


 矢を受けた奴の爆発の違いを見て気付いた。致命傷を与えればその場で爆発され、ザックのように至近距離で巻き込まれてしまう。しかし飛行不能になったら少し間を置いて自爆するので、死なない程度のダメージを与えれば爆発から離れる余裕が生まれるのだ。


「そこっ!」


 レオナのフレイムランスが的確に火の鳥の翼を斬り落とす。燃えている相手に炎は通じないので、レオナはただの槍として使いこなしている。


 遠距離攻撃と近距離攻撃の二段構えで迎撃し、止めきれない分はエステルのアイスシールドが防ぐ。

 万全にも思える布陣だが、エステルの魔力(MP)が尽きたら途端に苦しくなってしまうという致命的な欠点がある。それは分かっているのだが、今はこうするしか方法がない。


 エステルの魔力が切れる前に、ザックの治療が終わってウィリアムと一緒に戦線復帰してくれれば。あるいはその前に敵の物量が尽きてくれれば――


「……カイ、レオナ。提案があるの」


 アビゲイルが焦りを押し殺した様子で話しかけてきた。


「こいつらをけしかけている奴が見張り塔にいるんでしょう? どんな手段でもいいから、そいつを撃退できる方法があるなら、それを試して。私もずっと頑張ってはいるんだけど……」


 アビゲイルは連射の合間に狙い澄ました一矢を見張り塔に放っている。しかし距離のせいで着弾まで時間が掛かり、途中で鳥が盾になって防がれてしまっていた。


 エステルは《アイスショット》と《アイスシールド》の連発で精一杯で、他の手段を試す余裕なんて無い。何かできるのは俺かレオナしかいないわけだ。


「俺が行きます。直接ぶった斬ってやれば片がつく」

「カイ!」


 レオナが驚いた声を上げる。提案をしたアビゲイルも目を丸くしている。

 ヤケになったわけでも、適当に言ったわけでもない。考えた末の結論だ。


 このまま消耗戦に持ち込んだとして、勝てないと分かってから別の手段を取るのでは遅すぎる。その頃にはもう余力は残っていないだろう。だから今のうちにできることは試しておきたかった。


「なぁに、近付いただけでビビって逃げてくれるかもしれないだろ」


 レオナを安心させるためにそんなことを言ってみたが、正直その可能性は薄いと自分でも思っている。


「でも、あの二人が復帰してからの方が……」

「大丈夫よ。私に任せて」


 アビゲイルが引き絞った弓から放たれた矢が、空中で十数本の光の矢に分裂して火の鳥を次々に撃ち落とした。


「魔力消費があるから無限には撃てないけど、ザックが治るまでは持たせてみせるわ。あなたの覚悟に答えないと、冒険者の先輩としての沽券(こけん)に関わるものね」


 その技能(スキル)が決め手になったのか、レオナも遂に折れた。


「……無理だけはしないで」

「ああ、分かってる」


 絞り出すような言葉に背中を押され、俺は見張り塔に向かって走り出した。

 《スプリンター》――短距離疾走の速度を跳ね上げるUC(アンコモン)スキルをコピーし、塔へと肉薄する。


 道中で襲ってくる火の鳥は全て無視。見張り塔に着いても、馬鹿正直に塔を昇っている暇はない。俺は迷うことなく《スプリンター》を《軽業》に切り替え、見張り塔の外壁を瞬く間に駆け上がった。


「ま……来るよな、迎撃!」


 塔の屋上から大きな火の鳥が現れ、直滑降で突っ込んでくる。

 俺は窓枠の下辺に足を置き、上辺を片手で掴んで停止し、空いた手で《軽業》を銀色のスペルカードに切り替えた。


「《ライトニングボルト》!」


 空に向かって放たれた雷が火の鳥を打ち据え、見張り塔を揺るがす大爆発を引き起こす。

 俺は即座に《ワイルドカード》を《軽業》に戻し、炎と煙を突っ切って一気に屋上まで踏破した。


「――――」

「やっと会えたな。あんたが元凶か」

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