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39.胡散臭い遭遇

「トリクイソウ? その話、詳しく聞かせてくれないか」

「ココも知ってますし、とっくにパティさんにも伝えてありますけど……」


 俺はアルスランに、ブルック村の依頼で巨大なトリクイソウと戦った件について伝えた。


 魔物とただの植物という違いはあるが、本来有り得ない強さの個体がハイデン市の近くに現れたという点では一致している。偶然というには出来過ぎだ。共通の原因があるのかもしれない。


「なるほど。それは確かに興味深い。何かしらの関係があるのかもしれないな」

「ココからは聞いていないんですか?」

「ロックサンドはああ見えてプライドが高い。必要に迫られない限り、自分の失態を話そうとはしないのだ」


 アルスランのココ評は正直言って意外だった。猫のように気まぐれな性格(キャラクター)をしている印象だったのだが、それだけではなかったらしい。


「それはそうと、パティ嬢にもこのことを話しているのなら、既にギルドの方でも対策を練り始めていることだろう。君達は深入りをしない方がいい」


 諭すようにアルスランはそう言った。

 確かパティは、巨大トリクイソウの調査はCランク向けの特別依頼になると言っていた。それに続いて魔獣まで巨大化したとなると、いよいよ昇格したてのDランクごときが関われる案件ではなくなってくる。


 もっとも、俺は別に関わりたいとは思っていないのだが。


「分かってますよ。そこまで身の程知らずじゃありませんから」


 アルスランとの別れ際、俺達は当面の間は堅実にDランク向けの依頼をこなしていくことを約束した。


 俺の第一の目的は借金返済で、次の目的は成り上がることだが、どちらも命あっての物種である。いくら報酬が高かったとしても、いくら名誉な任務だったとしても、無理をして死んでしまったら意味がないのだから。


「最後にもう一つ助言をしておこう。魔石はギルドの貸金庫に預けておくべきだ。小さなものでも月額三百ソリド掛かるが、貴重品をギルドの責任で保管してもらえるのは大きい。本格的に冒険者として活動するならいずれ必要となるだろう」


 そう言い残して、アルスランは進行中の依頼を済ませるためにギルドハウスを出ていった。


 月額三百ソリド……日本円で一万五千円。貸金庫を利用したことはないので高いのか安いのかよく分からない。けれど、盗まれたり襲われたりする心配がなくなるなら、確かに必要になってくるかもしれない。


 料金を三人で割れば月に百ソリド(五千円)。一人あたりの支払額はあまり大きな負担にはならなさそうだ。俺達は相談の上で、貸金庫を一つ借りることにした。もちろん料金は三分割だ。


 手続きをしている間、何人かの冒険者が休憩エリアの方から俺達を見ていることに気が付いた。

 魔石の話を聞かれて注意を引いてしまったのだろうか。レオナとエステルは気付いていないようだったので、絡まれたりしないようさり気なく警戒しながら、ギルドハウスを後にした。


「思ったんだけど、魔獣を強化して魔石が増やす手段があるなら、牧場みたいにして儲けられるんじゃないかな」

「レオナってそういうこと考えるの早いですよね……」

「どうせ、強化するために収穫以上のコストが必要とかいうオチになると思うぞ。増えた分の魔石は移植された物だったー、とかな」


 俺も似たようなことを考えて、さっき言った理由で思い直したというのは伏せておく。

 そもそも俺達は魔石や魔物の発生メカニズムすら知らないわけだから、あれこれ想像したところでただの素人考えだ。


 雑談しながら山葡萄亭へ戻っている途中で、俺は後ろからついて来る何者かの気配に気が付いた。


「……そこのあんた。何してるんだ?」


 振り返って声をかける。レオナ達も驚いた様子でそちらを見やった。


 これで逃げてくれたら楽だったのだが、その人物は物陰から堂々と姿を現してきた。ひょろ長いという印象を受ける外見の男だ。

 長髪を後頭部で括って顎髭(あごひげ)を整えた身だしなみと服装のセンスからして、どうしても軟派(なんぱ)な男だという印象を受けてしまう。肌の色が濃いのは日焼けなのか、それとも生まれつきなのか。


 男は自主的に両手を肩の高さまで挙げて、にこやかに口を開いた。


「いやぁ、すまん。話しかける機会が掴めなくてな」

「あんた確か……ギルドハウスでも俺達を見てたよな」

「そうそう。あの後すぐに声をかけようと思ってたんだが、うっかりタイミングを逃してずるずると来ちまったんだ」


 俺は一歩前に出て、レオナとエステルを男の視界から遮った。

 もしものときは容赦なく斬るつもりで、いつでも双剣を呼び出せる心の準備をした。念には念を入れて《ワイルドカード》をノーモーションで《瞬間強化》に切り替えておく。


「話なら俺が聞くけど」

「おいおい殺気立たないでくれよ。俺はただ儲け話に興味はないかって聞きたいだけなんだ」


 男は完全に腰の引けた様子で頬を引きつらせている。警戒する意味を疑いそうになる弱気っぷりだ。


「そ、そうだ! まずは自己紹介だよな! 知らない奴からこんなこと言われても怪しいよな! ステータス見せるよ!」





― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


【基本情報】

 ロベルト・アッカルド

 レベル:2 冒険者ランク:D


 基礎能力値

 【心】100(100)

 【技】105( 95)

 【体】 90( 90)


 パラメータ

  HP:29/29(29)

  MP:32/32(32)

  攻撃力:31(31)

  防御力:32(32)

  魔法力:33(33)

  技術力:33(33)


                1/2

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―





「ほら、全然強くないだろ? ああでも、スキルの方は勘弁してくれ。あんまり人様(ひとさま)には知られたくない商売道具も仕込んであるんだ」


 率直に言って、ロベルトのステータスは普通だった。

 基礎能力値は一〇〇を一般人の平均とした相対評価で表されていて、全てが平均値ならパラメータは三十から三十一が普通の値になる。基礎能力値の変化を見る限りステータスアップも【技】が一枚だけのようだ。


 本人の言うとおりステータスはあまり高くない。問題はスキルの内容だが、見られたくないスキルがあると馬鹿正直に告げているあたり、こちらを騙し討ちにしようという意図は感じにくい。


 騙す気があるなら、こんなあからさまな疑いの余地は残さないだろう。普通ならもっと上手く誤魔化すはずだ。


「悪いけど、そういう話に乗る気はないんだ」


 それでも俺は、まだロベルトを信用するつもりになれなかった。

 前の(おれ)が借金を背負った理由は、両親が詐欺師に騙されたからだ。ギデオンのように社会的地位がはっきりした人間ならまだしも、素性も分からない相手に儲け話を持ちかけられて、はいそうですかと信用できるはずがない。


「まぁそうだよな。そりゃあ無理もない」


 ロベルトはしきりに頷いている。


「それなら、俺の顔と名前だけでも覚えておいてくれ。俺は見ての通り雑魚だが、儲け話を考える才能がある。そのアイディアをあんた達みたいな実力のある冒険者に売って、ちょっぴり分け前を頂くのが俺の商売だ。じゃあな!」


 一方的に言いたいことを言ってから、ロベルトは妙に爽やかな態度で走り去っていった。

 強盗じゃないのは良かったが、何だか珍妙な奴に目をつけられてしまった。


「何だったの、アレ」

「さぁ? 商売相手を増やしたくて顔を売りに来たんじゃないか? こういう仕事をしてる人間がいるんですよっていうアピールだよ」


 恐らく、ロベルトは今ここで契約を成立させるつもりなんて、最初から無かったのだ。俺達に顔と名前と商売内容を覚えさせればそれで成功。顧客を増やすための営業のようなものだ。


 そう考えると、見事に目的を達成されてしまったと言えなくもない。


「……あの」


 後ろにいたエステルが恐る恐る口を開く。


「私、さっきの話、ちょっと興味があったり……すいません」

「えっ……?」

「詳しくは言えないんですけど、私、お金がたくさん必要なんです。借金とかじゃなくて、焦る必要もないけど……それでもやっぱり、興味があったりして」


 エステルは何だか申し訳なさそうにしている。俺がきっぱり断ってしまった手前、実は興味がありましたと言いづらい状況になってしまったようだ。


 俺も少しエステルに申し訳なくなった。冒険者になる事情は人それぞれだ。金が必要で冒険者になった者も俺だけではないに決まっている。


「まったくもう。あんな胡散(うさん)臭い奴に頼らなくてもいいでしょ。私達三人で稼げるだけ稼いで、それでも足りなかったら話だけでも聞けばいいのよ。ね、カイもそう思うでしょ?」

「……ああ、そうだな。たくさん稼ぎたいのは俺も同じだ」


 レオナのさり気ないフォローがありがたかった。

 もっとレオナやエステル達のことを知って、二人のことも考えて動かないと――俺は内心で深く反省した。

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