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03.プロローグ カイ・アデル(1/2)

 神聖帝国東方地域――

 ハイデン市で最大の集会所で、毎年恒例の儀式が執り行われようとしていた。


「えー、新成人の皆様。本日はよくお集まりいただきました」


 進行役の老神官が、集会場に集まった十六歳の少年少女をぐるりと見渡す。

 この国では十六歳で一応の成人を迎えることになっている。厳密には二年間は大人見習いという扱いだが、法的には立派な成人だ。


「今年は五十一名が成人を迎えました。アデル村から二名、ブルック村から十名、バイナル村から十二名……」


 老神官が参加者の出身地と人数をのんびり読み上げる。

 この成人式は、周辺の町や村から十六歳の男女を集めて行われる、いわゆる合同成人式という奴だ。人口の多い大都市以外では、だいたいこのスタイルでされているらしい。


「やっぱりうちの村が一番少ないのか」


 俺が呟いた独り言に、隣に座っていたルースが相槌を打つ。


「アデル村の十六歳って私とカイしかいないからね」

「まぁ、歴史が浅い上に片田舎の村だからな」


 新成人の読み上げが終わる頃合いを見計らって、助手の若い神官が大量の小箱を乗せた手押し車を持ってきた。

 会場のみんなが息を呑む気配がする。あの箱こそが式典の本命。俺達はあれを貰うためにここへ来たようなものだ。


「皆様は神より祝福を授かって生まれました。しかし、神の与えし才能は幼い身体には荷が重すぎる。そこで我々が責任を持って神の祝福をお預かりし、栄えあるこの日をもってお返しすることになっているのです」


 老神官が一番上の小箱を手に取る。


「エイベル・ラーキンズ君」


 名前の順番に一人ずつ呼ばれ、仰々しい祝いの言葉と一緒に小箱を渡される。受け取った連中の行動は様々で、すぐに開封して中身を確かめる奴もいれば、大事そうに抱え込んだまま離さない奴もいる。

 一人、また一人と小箱を受け取っていき、ようやく俺の順番が回ってくる。


「カイ・アデル君」

「はいっ!」


 待ちわびた『才能』の小箱はずっしりと重みが詰まっていた。

 俺は席に戻るなり、躊躇うことなく封を開けた。


 箱の中身は十枚の金属製のカード。これは全員共通で変わらない。重要なのはカードの種類。具体的にはカードに込められた祝福の種類だ。

 俺に割り振られた祝福は……


 コモンカード《ステータスアップ:心》が二枚。

 コモンカード《ステータスアップ:技》が三枚。

 コモンカード《ステータスアップ:体》が三枚。


 ……正直言ってがっかりした。八枚目まで確認した時点で、自分の『才能』の貧弱さに絶望しそうになる。


 カードには色々な技能(スキル)呪文(スペル)が封じられていると聞いていたが、俺の小箱に入っていたのは基本的な能力を上げるものばかり。特別な才能は特に無いと言われているようで、本当にがっかりだ。


「はぁ。何かでっかいことしてぇのに、肝心の手札がこれじゃあな」


 何でもいいから大きなことをしたい――子供の頃から漠然と抱いている、俺の夢だ。親からは『具体性がない』とダメ出しされっぱなしだったが。


 小箱を受け取った奴が増えるにつれて、集会場がどんどん騒がしくなっていく。他の連中は『才能』と呼ぶに相応しいカードを引き当てていて、カードを見せ合ったり自慢したりしているのだ。

 ざっと辺りを見渡しただけでも、本当に色々なカードが目に映る。


 《剣術》《潜伏》《遠見》《投擲》《鍛冶》

 《農耕》《伐採》《採掘》《追跡》《狩猟》

 《ファイアボール》《ライトニングボルト》


 真っ当なスキルやスペルを手に入れた連中は、自分達の将来を想像してわいわいと騒ぎ、楽しんでいた。正直、羨ましい。八枚連続で《ステータスアップ》を押し付けられた俺とは立場が違い過ぎる。


「すげぇ、金色のカードなんて初めて見た!」

「俺知ってる! それスーパーレアだろ!」


 集会場の一画がにわかに盛り上がっている。どうやらどこかの誰かが希少な才能を手に入れたらしい。


「参ったなぁ。親の商売を継ごうと思ってたのに、《上級武術》なんて授かったら武の道に進むしかないよねぇ」


 当の本人は全く困っていない態度で金色のカードを見せびらかしている。

 服装からして市内の金持ちの息子らしい。あんな風に何もかも手に入れられる奴がいるというのに、どうして俺みたいな奴がいるのだろう。信心深い親父には叱られそうだが、神様を少し恨みたくなってしまう。


「残り二枚に凄いカード入ってねぇかな……あれ? 何だこりゃ」

「ねぇねぇ、カイ。どんなの入ってた? 私はねー……」


 戻ってきたルースがすぐに自分の箱をひっくり返す。

 銅が九枚に銀が一枚。親父は銅九銀一が標準的な組み合わせだと言っていた。つまりルースの才能は標準レベルということだろう。


「レアスペル《ヒーリング》にアンコモンスキル《調合》かぁ。これはもう癒し手になるしかないね! 優しい私にピッタリ!」

「とか言いつつ《瞬間強化》が二枚も。こりゃ自分でぶん殴って自分で治すヤブ医者コースだな……ぐえっ」


 ルースの腕に首を締められて、潰れた蛙のような声が漏れる。胸が当たっているとか気にする余裕なんて全くない。


「そういうカイはどうなの。ちょっと見せなさいよ。……あ」


 俺のカードを見たルースが何とも言えない表情になる。ひどい手札だけど笑いものにするのも気が引ける……そんな感じの顔だ。


「えっと、凄い身体能力になりそうね」

「そりゃどうも。実質スキル無しのカイ君ですよ」

「ちょっと拗ねないでよ。あと二枚あるんでしょ。そっちも見せて」


 少し躊躇ったが、二枚ともルースに手渡す。一枚はほぼ間違いなく入っている銀のカード。もう一枚は――


「銀のレアスキルは……《前世記憶》? 凄いカード引いてるじゃない。他の誰も知らない知識を持ってたりして、当てたら出世間違いなしってウワサの!」

「んでもって、前世が極悪人だったせいで悪の道に走る奴も少なくないとかいうカードだろ? ギャンブル過ぎて使いたくねぇよ」


 《前世記憶》は色んな意味で曰く付きのカードだ。この世のものとは思えない知識と技術を振るったという伝説があるかと思えば、急に性格が変わって犯罪に手を染めたという噂もある。


 聞いた話だと、手に入れた奴の三分の二以上が一生これを使うことなく終わるのだとか。使われないレアカードランキングのぶっち切りトップ間違いなしだ。


「で、残り一枚がそれ」

「何これ。無地のカードなんて聞いたことないわよ」


 俺の箱に入っていた最後の一枚。それは表面に何も描かれていない白紙のカードだった。色合いは銀色のようで銀色じゃない。前に一度だけ見た、海で採れるという宝石の真珠とよく似た輝きを帯びている。


 裏面には全カード共通のデザインが施されているが、表面は笑えるくらいに白一色だ。


「でも綺麗ね……」

「普通は珍しい順に金、銀、銅なんだろ。白いカードなんてありか?」

「ありだから入ってたんでしょ。分かんないなら神官長に聞いてきたらいいじゃない。あの人が一番詳しいんだし」

「それもそうか。ちょっと聞いてくる」


 俺が席を立った直後、集会所の扉が勢い良く開け放たれた。

 全員の視線が一点に集まる。扉のところから、汗だくの男が肩で息をしながら集会所を見渡していた。


「アデル村の者はいるか!」

「あ、はい!」

「私もです!」


 ルースも慌てて席を立つ。男は俺達の方に目を向けると、絶望的な顔で声を張り上げた。


「村の方角から煙が上がっている! 村が燃えているぞ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 村人なのに名字もあるんですか? しかも全員? この世界では貴族や中級以上の人でも名字がもてるのかな。
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