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29.ギデオン再び

 冒険者になってから二週間が過ぎたある日のことだ。いつものように三人で依頼を終わらせて、報酬を受け取って帰ろうとしたところで、俺だけが受付嬢のマリーに呼び止められた。


「カイさんにお客様です。ギルドの応接室まで来て下さい」

「え、俺に?」


 レオナとエステルには先に宿へ戻ってもらって、言われたとおりに応接室に向かう。そこで待っていたのは、スカーフェイスの大男――


「久しいな、少年」

「ギデオンさん!」


 冒険者ギルドのサブマスター、ギデオン・シンフィールド。アデル村の復興に必要な四十万ソリドを融資して、見返りとして俺を冒険者にした人だ。


「上手くやっているそうじゃないか。三万ソリド獲得はこの東方支部のEランク冒険者としては最高記録だ」


 それはそうだ。Eランクには簡単で報酬の安い依頼しか回されないから、一度に多額の報酬を手に入れること自体がレアケースだ。

 俺が椅子に腰を下ろすのを待ってから、ギデオンは用件を切り出した。


「二組の盗賊団の討伐はEランクの枠を越えた功績といえる。実力ある冒険者には実力に見合ったランクが与えられるべきだ。従って、少々早いが君のDランク昇格を推薦したいと思う」

「本当ですか!?」

「Dランクへの昇格条件に経験の長さは関係ない。だが流石に半月となると難色を示す幹部もいてな。今回は昇格試験を用意させてもらうことになる」


 噂によると、EランクからDランクへの昇格には三ヶ月の経験が必要になるとされている。二週間での昇格はかなりペースが早いのではないだろうか。


 俺は心の中で思いっきり喜んだ。冒険者ランクの昇格は借金返済に向けた当面の目標だった。その機会がこんなに早く訪れるなんて。


 しかし今は真面目な話題の最中なので、喜びは表に出さず、冷静な態度で話を続ける。


「でも、いいんですか? あまり目立ち過ぎると動きにくくなるんじゃ……」

「この程度ならむしろ適切だ。最終的に『レジェンドレアのスキルを持つ冒険者』として広く知られるわけだからな。僅か半月で最初の昇格を果たしたという実績は前振りとして申し分ない」


 何となく思うのだが、ギデオンは芸能プロデューサーみたいな思考で動いているのかもしれない。となると俺はアイドルか何かか。キャラ的に心底似合わない。


「試験と言っても単純なものだ。我々が選んだCランク冒険者に同行し、共同でCランク相当の依頼を遂行してもらう」

「その人達が審査員ってことですか?」

「ああ。ギルドが信頼を置く冒険者を選ぶので、そこは安心して欲しい」


 ギデオンがそう言うなら信用するしかなさそうだ。もしものときには思いっきり苦情を言ってやろう。


「昇格試験を受けるのは俺一人なんですか?」

「正式な試験の対象となるのは君だけだ。しかしパーティのメンバーも二人までなら参加を認めよう。実力を認められれば()()らも昇格だ」


 『彼らも』ではなく『彼女らも』とギデオンは言った。やはりサブマスターだけあって、俺の普段の活動はお見通しのようだ。


「詳細は追って連絡する。準備を整えておいてくれたまえ」

「……そうだ。一つ聞いてもいいですか?」


 立ち去ろうとしたギデオンが足を止めて、身振りで発言を促す。


「今、俺の預金には四万ソリド近い残高があります。この全額を一度に返済に回すことはできますか」


 返済は報酬の三割。これがギデオンと交わした約束だったが、報酬の全額を返済に回せるかどうかの確認をしていない。あまり期待はしていないが、もし可能なら借金の一割を返済できる。


「駄目だ、それは許可できない。完済までの期間が短くなりすぎるとギルドの旨味が薄れるからな」


 返答は至って完結だった。

 落胆する俺に、ギデオンは諭すように言葉を続けた。


「だが、考えてもみろ。これはお前のためでもあるんだ」

「俺のため……?」

「報酬の全てを注ぎ込んで四十万ソリドを返したとして、その後に何が残る。村に戻って余生を過ごすならそれでもいいだろう。だがお前には野望があるはずだ」

「デッカイことをしてやる……ですね」


 ギデオンはワイルドな笑みを浮かべた。


「ならば余った金はそのために使え! ギルドでカードを買い漁って能力を高めるもよし! 土地と城を得て一国一城の主になるもよし! いっそ貴族の肩書でも買い取ってみるか!」


 豪快極まりないギデオンの語り口に煽られて思わず笑ってしまう。我ながら実にセコくてつまらないことを考えていたものだ。


 借金返済に一ソリド残らず注ぎ込んだところで、殺される直前の(おれ)と同じになるだけじゃないか。せっかく無利子無担保の好条件なのだから、フル活用して『次』に繋げるのが一番に決まっている。


「分かりました。思いっきりやってやりますよ」









 山葡萄亭に戻った俺は、真っ先に昇格試験についてレオナとエステルに伝えた。もちろん二人も参加できることも含めてだ。


「そ、それ本当!?」

「凄いです! 私達もまだ冒険者になって一ヶ月なのに、こんなチャンスがあるなんて!」


 二人とも凄い食いつきようだ。早く昇格したいという思いは二人も同じだったのだろう。


 俺は二人が冒険者になった動機を知らないし、まだ聞き出す気になれない。

 けれどあのギデオンが、俺の無計画な野望を聞いて喜んだ男が、二人も一緒に昇格させてもいいと言ったのだ。きっとギデオンを満足させられるだけの目的意識を抱いているに違いない。


「でも本当に大丈夫なんですか? 私が足を引っ張たりしたら……」

「二人にはいつも助けてもらってるんだ。むしろ俺一人でやる方が不安だよ」

「まったく。心にもないこと言っちゃって」


 レオナはからかうようにそう言いながらも、どこか嬉しそうだ。

 二人が試験への参加に同意してくれるなら話は早い。善は急げだ。さっそく準備を整えなければ。


「よし、ちょっと付き合ってくれ」

「どこにいくの?」

「決まってるだろ。ギルドハウスにカードを買いに行くんだよ」

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