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21.デミキャット(2/4)

「強化スペルの《バーサーク・ビースト》はデメリットとして最大HPが0になる。一定時間ごとにセットコストの余剰分だけ回復するはずだったんだけど、この子はコストオーバーを起こしていたから……」

「HPの上限値がいつまでたっても0のままで回復しなかった!」


 ゲーム的な表現を避けるなら、デメリットとして身体が動かなくなって、身体の余裕に応じて早く回復していくということだろう。カードのセットは身体に負担を掛けるそうだから、負担の少ない方が回復しやすくてもおかしくない。


「このカードを取り除いてやれば解決だな」


 原因が分かれば一件落着だ。そう思って安心したのだが、レオナとエステルの反応は正反対で、とても難しそうな顔をしていた。


「……どうしたんだ?」

「どうしたも何も。普通、セットしたカードは取り除けないのよ」

「ええっ!?」


 《ワイルドカード》は何度も取り出して書き換えているし、現物を提示することが多い《ギルドカード》だって立派にカードの一種だ。なのにカードを取り除けないなんて不自然だ。


「知らなかったのね。《ギルドカード》みたいに具現化させるのは、カードの現物じゃなくてあくまで()()()、一時的な複製みたいなものなのよ」


 そう言って、レオナは実際に一枚のカードを具現化してみせた。レアリティRの装備カード《フレイムスピア》だ。


「こんな風に取り出しても、そのカードが身体にセットされ続けてることは変わらない。効果は継続するしセットコストは減らないの。複製は本体から離れたら消えちゃうしね」


 窓の外に投げ捨てられたカードが弾けて消える。


「じゃあどうしたらいいんだ?」

「ギルドに連れて行くしかないわね。ギルドの祭壇を使えば、カードを生み出すだけじゃなくて人体から取り出すこともできるから」

「けど背負って帰るの、物凄く大変ですよね……」


 どうやら、二人はココをギルドまで連れて帰る労力に頭を悩ませているらしい。確かに背負って帰るのは一苦労だろう。

 俺に言わせれば、どうして悩んでいるのか分からないくらい単純な問題だ。


「何だそんなことか。ちょっと村長に頼んでみるよ。あ、すいませーん」


 たまたま近くに来た村長を呼び止める。


「この子をギルドまで運びたいんで、荷車か何か貸してもらえませんか」

「いいよ。暇してるロバがいたはずだから、そいつも使うといい」

「ありがとうございます」


 二つ返事で問題解決。昔からの顔なじみなので、こういう貸し借りはいつものことだ。

 ぽかんとしている二人を促して、荷車にココを乗せて帰る準備をする。


 持つべきものは人の繋がり。借金返済生活で痛いほどに分かったことだが、人と人の繋がりというのは、困ったときに何よりも役に立ってくれる。アデル村の復興のために村長達が集まってくれたのもその一例だ。


 《前世記憶》を手に入れた一番の恩恵は、そういう実感を改めて思い出せたことかもしれない。ふとそんなことを思った。


「よし、ギルドに戻るか」


 準備を終えたので急いで出発する。前回みたいに途中で盗賊に襲われるといったトラブルもなく、あっという間にギルドまで帰り着くことができた。


 ロバが牽く荷車でココをギルドへ持ち帰った俺達を、受付のパティが驚いた顔で出迎えた。

 事情を話したらすぐに理解してくれて、例の祭壇がある部屋へと案内された。

 付き添うのは俺だけで、レオナとエステルには討伐依頼の報告をしておいてもらう。村長は駆除の結果に満足していたので、間違いなく満額貰えるはずだ。


「Dランクなのにコストオーバーで担ぎ込まれるなんて、滅多にないことなんだけどね。当分はギルドの語り草になりそう」


 パティは軽い口調でそう言いながら、テキパキと準備を進めている。

 祭壇の前にココを寝かせ、祭壇にパティのギルドカードをセット。すると空中にステータス画面に似た半透明のウィンドウが浮かび上がった。


「カードのセット解除は特別な許可を受けた職員にしかできないの。いわゆる国家資格ってヤツね。私これでもけっこう偉いのよ?」


 パティは半透明のウィンドウを素早く操作して、あっという間に全ての準備を終わらせてしまった。


「準備は完了。それじゃ行くわよ? ――リセット!」


 それが起動の呪文だった。ココの身体から溢れ出た金色の光が祭壇の上に集まっていき、金色のカードに姿を変える。


 SRスペル《バーサーク・ビースト》


 このカードがココを弱らせていた原因だ。パティは実体化したそれを金属の箱に入れ、封で閉じた。


「これでよし。三十分くらい待ってから回復呪文でもかけてあげれば、会話できる程度には回復するわ。全快までは四時間ちょっとってところかな」

「ありがとうございます」

「律儀ねぇ。あなたがお礼を言うことじゃないでしょうに」


 パティは微笑とも苦笑ともとれる笑顔を浮かべた。


「後でまた来てね。この子から話を聞くときに、発見者にも立ち会ってもらいたいの。パーティの子達もできればお願いね」

「分かりました」

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