20.デミキャット(1/4)
「おかえりなさい! 大丈夫でしたか!」
「ああ、このとおり。それよりさっきの子はどうしてる?」
「さっきよりは落ち着いたけど、まだ意識は戻らないみたい」
村役人が討伐結果を確かめに行っている間に、少女の手当を続行する。
ああでもないこうでもないと頭を捻っても、少女が回復しない理由が全く分からない。外傷はなく、体力も回復させたし、解毒薬も役場から貰って飲ませたが、それでも良くならなかった。
とにかく意識を取り戻させようと声を掛けているうちに、少女がうっすらと目を開けた。
「う……ん……」
「気がついたか? 何があったんだ?」
少女は周りの様子を確認するかのように、猫目石のような眼をゆっくり動かしている。ここが安全な場所なのか確かめようとしているのだろう。
「……依頼の帰りに、急に襲われて……」
「襲われた? あの馬鹿でっかいトリクイソウにか」
「新しいカードを、セットして……戦ったんだけど……」
力及ばず捕まってしまったというところか。依頼の帰りという一言からこの子も冒険者だと判明したが、回復しない理由の手がかりは得られなかった。
「待った。今、新しいカードをセットしたって言ったよな? ちょっとステータス見せてみろ」
「ス……ステータス……」
少女の視線に合わせて半透明のステータス画面が現れる。
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【基本情報】
ココ・ロックサンド
レベル:7 冒険者ランク:D
基礎能力値
【心】114(95)
【技】137(105)
【体】110(100)
パラメータ
HP:0/0(39)
MP:13/35(37)
攻撃力:40(42)
防御力:43(45)
魔法力:41(43)
技術力:44(46)
1/3
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「あっ……」
レオナが小さく驚きの声を漏らす。
ステータス画面の見方は、括弧の中が基本値でその左隣が様々な変動を計算した現在の数値だ。つまりネコミミ少女ことココは何らかの理由でステータスが大幅に下がっている。
そして何よりもおかしいのは体力の表示だ。バグったゲームのような数値になってしまっている。最大HPがゼロなのだから、いくら手当てをしたり回復魔法を掛けても効果がないのも当然だ。
「どうしてこんなことになってるんでしょう……」
「それをこれから調べるんだろ。心当たりってほどじゃないけど、何となくこれが原因じゃないかってのは思い浮かんでるんだ」
元気にならない理由は分かった。後はこうなった原因さえ分かればいい。そう言葉にしてしまえば単純な理屈だが、言うは易し行うは難しともいう。俺達の手に追える原因かどうかも、まだ分からない。
「二枚目、スキルの方を見せてくれ。手、動かせるか」
「……にゃんとか……」
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【カード一覧】
レアリティ/名称/枚数/コスト
[スキルカード]
UC《軽業》Lv1 1 4
C《投擲》Lv1 1 2
C《探索》Lv1 1 1
C《ステータスアップ:心》Lv1 2 2
C《ステータスアップ:技》Lv1 3 2
C《ステータスアップ:体》Lv1 1 2
[スペルカード]
R 《スリープミスト》Lv1 1 5
SR 《バーサーク・ビースト》Lv1 1 8
[装備カード]
UC 《メタルクロー》Lv1 1 4
R 《サイレントブーツ》Lv1 1 6
合計セットコスト 41/39
2/3
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「セットコストの限界値が39なのに合計値は41、つまり2ポイント分のコストオーバー……ひょっとしてこれが原因か?」
「まさか。一桁程度のコストオーバーで、HPがゼロになるなんてありえないよ」
レオナと話し合いながら原因を考える。
一番怪しいのはここだ。コストオーバー状態か、新しくセットしたスキルが悪さをしているんだろう。
試しに《バーサーク・ビースト》の表示を指で押してみるが、何の反応も起こらなかった。
「ステータス画面を操作できるのは本人だけでしょ」
「あ、そうなのか。じゃあこれで」
ぐったりしたままのココの手を取って《バーサーク・ビースト》の表示を押させる。ステータス画面が切り替わり、スキル詳細が表示された。
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SR 《バーサーク・ビースト》
種別:スペルカード(強化)
装備コスト:5
詠唱コスト:MP10消費、重複不可
【効果】
一定時間、自身の基礎能力値の【体】を
5倍にアップさせ、HPを全回復させる。
(セットコスト限界値は変化しない)
効果が終了した瞬間にHPの現在値と
最大値が0になる(デメリット効果)
HP最大値は三十分ごとにセットコストの
余剰と等しい数値分だけ回復する。
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「分かった、これだ!」
「え、なになに?」
レオナが俺と画面の間に体をねじ込んでくる。しょうがないので、この密着状態のまま原因について説明することにした。