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19.初パーティ結成(3/3)

「エステル!?」


 真っ先に駆け出したレオナの後を追って、エステルのところへ駆けつける。

 そこにあったものは、見上げるほどの大樹とそれに巻き付いた大株のトリクイソウだった。


「……でっけぇ……」


 こんなに育った奴を見たのは初めてだ。ツタも異様に太く、獲物も小鳥や小動物じゃ済みそうにない。


「見てください、あれ!」

「あれ?」


 エステルが指差す先に目をやると、大樹の枝の上に小さく盛り上がった部分が見えた。それなりに大きな何かが巨大トリクイソウのツタに捕まっているようだ。ツタの隙間からはみ出しているアレは――


「――腕? 人間が捕まってんのか!」

「嘘っ! そんなことあるの!?」


 俺も嘘だと思いたいが、あれはどう見ても腕に違いない。

 血色からするとまだ死体にはなっていないはずだ。まだ救助が間に合うことを信じて、俺は大樹に向かって走り出した。


 どういうわけか、自分の身の安全を気にする考えは浮かばなかった。俺なら――《ワイルドカード》を持つ俺なら助けられる。そんな思いが思考回路を埋め尽くしていた。


 次の瞬間、大樹の幹に巻き付いていたツタの一本が動き出し、俺めがけて鞭のように振り下ろされた。


「のわぁ!」


 咄嗟に横に転がって不意打ちを回避する。


「冗談だろ! 何だよ今の!」


 あんなことができるトリクイソウなんて見たことも聞いたこともない。(おれ)の知識で表現するなら、ハエトリソウが地面を走って大ジャンプして獲物に噛み付いたのと同レベルの怪奇現象だ。


「これ本当にトリクイソウなの!?」

「知らねぇよ、そっくりな魔物でも現れたってか?」


 追いついてきたレオナが槍を構える。

 目も耳もないくせに俺達の動きが分かっているのか、巨大トリクイソウは極太のツタを何本も一斉に振り下ろした。


「任せてください! アイスシールド!」


 エステルが呪文を唱えると、円形の氷の塊が空中に現れて、振り下ろされたツタを受け止め瞬く間に凍結させた。


「カイさん、これ返します! 今のうちに!」


 投げ渡された双剣の片割れをキャッチし、今度こそ大樹に肉薄する。

 少し遅れて追いついたレオナの槍が、幹に絡みついたツタを切り払う。切断面が赤く光ったかと思うと、広い範囲のツタが一気に燃え上がった。


「凄いなそれ。俺も負けてらんねぇな」


 《ワイルドカード》をUC(アンコモン)スキルの《軽業》に切り替えて、襲いかかるツタを双剣で切り払いながら、誰かが捕まっている枝まで一気に駆け上がる。

 巻きついたツタに斬りつけ、隙間に刀身を捩じ込みこじ開けて、捕らわれていた人を引っ張り出す。


「大丈夫か!」


 薄着の少女だ。意識は虚ろなようだが息はある。青み掛かった灰色の頭から、髪の束のようなものが二つ突き出していて――


「――これ、ネコ耳か? あっ、尻尾もある!」


 まさかのネコミミ少女に驚きつつも、手当の準備を隙なく進める。外傷は見当たらないが体力を回復させる必要がありそうだ。まずは《ワイルドカード》でスペル《ヒーリング》をコピーする。


「すぐに治してやるからな……ヒーリング!」


 魔力の光がネコミミ少女の体に吸い込まれていく。外傷だけでなく体力の消耗も癒せるこの呪文ならすぐに良くなるはずだ。

 そう思っていたのだが、少女は苦しそうに呻くばかりで、一向に回復する様子がなかった。


「あれ……? どういうことだ?」

「カイさん危ない! 後ろ!」

「くそっ!」


 振り下ろされたツタを除けて、少女を抱えたまま枝から飛び降りる。

 落下しながら《ワイルドカード》を再び《軽業》に切り替え、《ステータスアップ》で上昇した身体能力に物を言わせて着地する。


 それでも追ってくるツタめがけ、俺は双剣の一本を投げつけた。空中で切断されたツタが地面に落ち、それっきり巨大トリクイソウ全体が動かなくなった。三人がかりで与え続けたダメージが遂に限界に達したようだ。


「カイさん!」

「その子、大丈夫?」

「ああ、ちゃんと息はしてる。けど捕まって弱ってるだけじゃないみたいだ」


 少女の顔を覗き込んだレオナが意外そうに声を上げた。


「デミキャットじゃない。こんなところにいるなんて珍しい」

「何だそれ?」

「ずっと西の方に住んでる種族よ。見ての通り耳と尻尾が生えてて……」


 そのとき、大樹の根本で異変が起こった。生き残っていたツタが一斉に持ち上がり、縄を編むように絡み合って大蛇にも似た形状に姿を変えていく。


「きゃあ!」

「う、嘘でしょ!」


 とんでもない、信じられない光景だ。俺は少女をレオナとエステルに任せて、先に逃げるように言って二人の背を押した。


「ここは俺に任せろ。その子は頼んだ」

「でも……」

「適当にどうにかして追いつく。だからほら、行った行った!」


 渋る二人を無理やり先に帰らせて、ツタの大蛇と対峙する。捨て身になんてなっちゃいない。勝算があるからこそ残ったのだ。


「ったく。どう見てもいEランクで戦う相手じゃねぇよな」


 愚痴りながらも《ワイルドカード》を具現化し、その表面をなぞって金色のカードを変化させる。コピーするのはレアスペル――


「ライトニングボルト!」


 俺の手から稲妻が迸り、迫り来るツタの大蛇を撃ち貫く。一瞬のうちに、ツタの塊は落雷を受けた木のように引き裂かれ、火の粉を撒き散らす焦げ臭い残骸に姿を変えた。


「ま、さすがにこれで終わりだろ」


 決着は一瞬でついた。ここまでやって動くようなら、流石に手の施しようがない。

 巨大トリクイソウが完全に沈黙したことと、山火事の心配がなくなったことを最後まで見届けてから、俺はようやくブルック村に引き返したのだった。


 大袈裟かもしれないが、害草駆除で村ごと森を焼き払うなんてことになったら、三百ソリドの借金が霞んで見えるくらいの賠償金を課されてしまう。火の始末の確認はとてつもなく重要なのだ。切実に。

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