17.初パーティ結成(1/3)
朝食を終えた俺達は、軽く酔いを覚ましてから冒険者ギルドへ向かった。
ギルドは朝っぱらから仕事を求める冒険者で溢れ返っている。もしかしたら今が一番ギルドが賑わう時間帯なのかもしれない。
「こんなに人がいるなら、条件のいい依頼はもう取られてるかもな」
「昼過ぎまでは意外と残ってたりするよ。ほら、あった」
レオナは依頼票を取って受付カウンターに向かった。俺とエステルも後について行く。
「登録お願いします」
「はいはい。これは三人以上の依頼ね。パーティメンバーはそっちの二人?」
受付のパティが俺の方を見てくすりと笑った。
「あら、昨日の新人君。可愛い子と一緒だからってイタズラしちゃダメよ」
「しませんってば」
「冗談よ。依頼内容を登録するからギルドカードを出して」
具現化させた三人分のギルドカードに内容を記録して、依頼の受付手続きは全て完了。記録方法はギルドカードを専用の装置にかざすだけ。やっぱりとても便利なシステムだ。
間違いはないと分かっているのだが、念のためステータス画面を開いて依頼内容を確認しておく。
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【進行中の依頼】
[トリクイソウの駆除] ランクE
依頼主:ブルック村
期限:翌日日没まで
報酬:九百ソリド(総額)
条件:三人以上(上限なし)
内容:
ブルック村の麦畑付近の森に繁殖した
トリクイソウを駆除する。
充分に駆除したと依頼主が判断すれば
依頼は終了。
3/3
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「依頼の期限は明日の夕方までだけど、手際よく済ませれば今日中には終わらせられる内容ね」
一日で終わらせられれば日給三百ソリドとなかなかの効率だが、二日掛けると日給百五十ソリドで薬草集め並の効率でしかない。
出遅れたのにまだ掲示板に残っていた理由がよく分かる。一日で終わらせられる自信がなければ他の依頼を選んだ方が効率が良さそうだ。
だが、まぁ何とかなるだろう。俺には《ワイルドカード》があるのだから。
手続きを済ませた俺達は、さっそくブルック村へ向かうことにした。
「えっと、この道って地図のこれで合ってる?」
「あれ? そっちじゃないですか? さっきの曲がり角がこれですよね」
「……両方とも違うぞ」
どうやら二人とも地図を読むのは苦手なようだ。仕方がないので俺がパーティを先導することになった。
ブルック村はハイデン市に注ぐ小川の上流にある小さな農村だ。アデル村とハイデン市の中間あたりにあり、親父に連れられて何度も行ったことがある。
村に着いてすぐに、俺達は依頼主である村長に話を聞きに村役場へ向かった。
「ごめんください。ギルドの依頼を受けて来ました」
村役場に入るとすぐに村長が奥の部屋から姿を表した。
「お待ちしておりました……っと、君はアデル村の。そう言えば冒険者になったんだったね」
「はい。今は下積み中です」
「知り合いなの?」
「まぁ色々と」
レオナは不思議そうに首を傾げている。そういえば二人には俺が冒険者になった経緯を説明していなかった。
冒険者になると決めたあの日、ブルック村の村長もアデル村の支援の話し合いに参加していた。当然、俺が冒険者になった経緯も知っているわけだ。
「トリクイソウが繁殖しているのは畑の隣の森林です。季節外れな上に村始まって以来の大繁殖でして……男手の殆どが冬に備えての出稼ぎに行ってしまったので、自力では駆除しきれそうにないんです」
「確かに季節外れだ。普通トリクイソウは春先に動いて秋には枯れますよね」
アデル村の近くにもトリクイソウが生えることがあった。この時期に大量発生するのは凄く珍しい。
「分かりました。すぐに駆除してきます」
「あの……もうちょっと休憩……」
エステルはここまで歩いた疲労で既にくたくたになっていた。この程度の移動はウォーミングアップにもならないと思うのだが。
仕方がないので、村役場で休憩と軽い水分補給を済ませておくことにした。
休憩中に、俺が冒険者になった理由を簡潔に説明する。もちろん四十万ソリドの出処は適当に誤魔化した上で。
「へぇ、そんなことがあったんだ」
「分かります! お金を返すのって大変ですよね!」
何故かエステルは物凄く実感の篭った反応を返してきた。
「ということは、盗賊退治の賞金も返済に回す予定?」
「そのつもりだけど、依頼報酬の三割を返済に当てる約束だから、あの賞金も三割しか受け取って貰えないかも。最初にちゃんと確かめておくんだったな……とりあえず、しばらくは使わずに置いとくよ」
まさか初っ端からあんな大金が手に入るなんて、夢にも思っていなかった。報酬の三割を返済に回し続けるだけでもギリギリだろうと考えていたので、その辺の確認が甘くなってしまった。
契約内容の見落としなんて、俺としたことがうっかりしていた。次にギデオンに会ったときに、きちんと話をつけておこう。