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165.ミーティング・タイム(1/2)

 旅館での騒動から逃げ切り、ハイデン市に到着した翌日。俺達はギルドハウスの小さな会議室をレンタルして話し合いの場を持つことになった。主な議題はもちろん今後の方針についてで、それ以外にもいくつか話し合っておきたい事柄がある。


 これまではメンバーの誰かの部屋に集まっていたが、七人ともなると流石に手狭過ぎる。それに無関係の人間に聞かれたくない内容も話し合いつもりなので、一時間五十ソリド(二千五百円)程度のレンタル代を惜しむ理由はなかった。


「それじゃあ、クリス。進行頼む」

「任せて」


 クリスは壁に備え付けの黒石板に白墨(チョーク)で最初の議題を書き込んでいく。


「まずギルドへの報告の結果からだね。問題はなかったかい?」


 皆の視線が俺に集まる。やはり皆、一番の関心事はこれのようだ。

 ギルドへの諸々の報告は話し合いの前に俺一人で済ませてきた。遠征狩猟の一部始終と帰還中に巻き込まれた騒動、そして右腕のこと――


 空っぽの右袖の付け根を左手で押さえる。


 右腕については取り戻す目処(めど)が付くまで誤魔化しておくことも考えたが、バレたときのリスクが計り知れないので、そういう小手先の誤魔化しは止めておくことにしていた。


「ああ。一連の件に関してはギルドが引き受けてくれることになったよ。それとCランク正式昇格のことだけど……」


 最悪の場合、Cランクの依頼をこなせくなったと判断されて、昇格自体が取り消しになってしまうかもしれない。そう覚悟はしていたのだが。


「予定通りに昇格できるそうだ。書類上は明日からCランクってことになるな」


 わあっと場が盛り上がって会議室に拍手が鳴り響く。予定通りに事が進むとはっきりしただけなのに、こんな風に祝われると気恥ずかしくなってしまう。


「ただし、降格基準の緩和とかは無しだ。Cランク向けの依頼を失敗し続けたり、Dランク向け以下の依頼ばかり受けていたらギルドから警告が来て、それでも改善できなかったらDランクに逆戻りだ」

「それは他の冒険者も同じだから仕方がないね」


 クリスの言う通り、降格については他の冒険者も同じ条件だそうだ。身体の一部を失ってもCランクに相応しい働きができるなら問題はなく、五体満足でもついて行けなくなれば降格されてしまう。


 間違いなく公平だがそれ故に容赦がない。もっとも、ランク制度は各々の実力と信頼に合わせた仕事を割り振るためのものなので、能力が落ちればランクも落ちるのは当然と言えば当然だ。


「祝福も済んだところで、次の議題に移ろうか。最初に決めなきゃいけないのは魔石の配分だね」

「念のため数え直しておきましょうか」


 エステルは大きな荷物袋から取り出した魔石を会議室のテーブルに積み上げた。遠征狩猟で魔物を倒して得た魔石と、巨大な鳥の魔物を治療して貰った魔石。そしてナーガ撃退の礼としてデミライオン達がくれた魔石。全部合わせると相当な数が集まっている。


 まず、倒した魔物から得た分と、鳥の魔物から貰った分を合計した百二十五個のうち、俺達六人――ここにいる面子からルースを除いて――の取り分として持ち帰ったのが八十個。他の皆は十三個ずつで鳥の魔物を治療した俺が二個多い十五個もらう分配だ。


 こちらについては問題ない。辺境要塞を離れる前に決めておいた配分である。この時点で、俺が持っている魔石は合計二十九個で、レオナとエステルは二十六個となっている。


「問題はこっちをどうするか、だな」


 俺は別の袋をテーブルの上でひっくり返し、更に大量の魔石をぶちまけた。先ほどの八十個を優に超え、おおよそ二倍以上の数がある魔石の山だ。


「つくづく凄い量よね、これ……」

「魔石って普通の石より軽いものですけど、それでも運ぶの大変でしたよね」


 レオナとエステルもしみじみと魔石に見入っている。


「ザファル将軍がお礼に何が欲しいか言ってくれとか言うから、せっかくだし魔石を頼んだんだけどな……まさか狩猟に参加してたデミライオン全員が二、三個ずつ出してくれるとは……」

「嬉しい悲鳴だね。デミライオンは誇りを重んじる一族だそうだから、自分自身の懐を傷めずに済ませるのは我慢がならなかったんだろう」


 クリスの言葉に深々と頷く。一人一円貰えば一億人で一億円、という子供染みた冗談があるが、まさにその状態だ。


 遠征狩猟に参加していたデミライオンはおおよそ百人前後。その全員が『自分を助けてくれた礼』として魔石を差し出してくれた結果、積もりに積もって二百十一個にまで膨れ上がっていた。レア以上確定の十回同時昇華(十連ガチャ)が七回もできる数だ。


「では。カイはこれも配分の対象にしたいと考えているそうだけど、何か意見のある人はいるかな?」

「それじゃ、いいかな」


 最初に手を挙げたのはレオナだった。


「別に分配しなくてもいいんじゃない? 全部カイが貰っちゃえば」

「そういうわけにはいかないだろ。俺一人で戦ったわけじゃないんだからさ。それに俺だけ強くなるよりパーティ全体を底上げする方が戦力も上がるじゃないか」


 あの戦いではかなり駆けずり回らされたが、俺だけで勝つことができたわけではない。他の皆もそれぞれの場所で戦い、役割を果たしていたからこそだ。見返りを独占するなんていくら何でも気が(はばか)られる。


「でも私、何も役に立ててませんから!」


 今度はルビィが声を上げた。

 報酬の取り分を主張し合うのではなく譲り合うというこの展開。冒険者として健全なのか不健全なのか悩ましいところだ。


「分け合うなら私以外の人達でお願いします!」

「僕もそう思います」


 ベリルが小さく手を挙げる。


「だから、普通に魔物を倒して手に入れた魔石と同じように、あの戦いでの貢献度に応じて分配するのが手っ取り早いんじゃないですか? そうしたら普通にカイさんの取り分が多くなって、僕達の分は相応に少なくなりますし」

「そうだね。ボクも普段のやり方の配分なら全員が納得できると思うよ。それで異存はないかい?」


 クリスの確認を誰も否定しなかった。

 方向性が決まれば後はそれに沿って決めるだけだ。皆でああでもないこうでもないと意見を出し合って、大量の魔石の配分を考えていく。


 ――誰が最初に言い出したかは忘れたが、いつの間にかルースも魔石の配分対象として当たり前のように議論に加えられていた。俺も異存は全くない。ルースも事態の収拾に奔走していたのだから、ちゃんと報酬を受け取るべきだ。


 しかし、それならアルスランやココにもと話が広がるのは当然の話であり、話し合いが纏まる頃にはとっくに昼飯時を過ぎていた。


「それじゃあ、配分はこれでいいかな」


 クリスが白墨(チョーク)で黒板に分配数を書き記していく。

 まずはレオナとエステルに十四個。これは二人の所持魔石数が二十六個だったので、切りよく十回昇華をさせて戦力アップに繋げたいからだ。


 残りの配分比率は、二人に十四個を割り振った配分を基準に決まった。クリスは二人と同じ個数で、癒し手として奮闘したルースは二十個の配分。ルビィとベリルの姉弟は、本人達の希望もあって一人四個ずつとなった。


 ここまでで合計七十個。まだ向こうに残っているアルスラン達には五十個を取り置いて、後で分け方を決めてもらうことにした。


 そして俺の取り分は残りの全て――九十一個ということになった。


 貰いすぎな気がしないでもないが、右腕を犠牲にしたのだからこれくらいは当然だと、皆に押し切られる形での大量配分となった。百個は持って行けとも言われたが、この数字だと()()()()()のでこうさせてもらった。


「気持ちいいくらい綺麗に分けられたね。カイの持っている魔石はこれで百二十個で、レオナとエステルは四十個。本当にちょうどいい」


 こういう調整がピタッと(はま)ると本当に気持ちがいい。それに十連三回分というのも心が躍る。話し合いが終わったらすぐにでも全部()()()しまいたいくらいだ。レアカード三枚なら必ず何かしらの役に立つに違いない。


 だが、いつまでもそれに浸っているわけにもいかない。ここまでの話し合いの内容は、いわば前座。次の内容こそが最も重要な議題なのだから。


「それじゃあ、次の――最後の議題に移ろうか」


 進行役のクリスが会議室の面々をぐるりと見渡す。


「カイの右腕を取り戻す手段について。どんなに小さな心当たりでもいいから、思い浮かんだことは何でも話してくれないか」

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