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15.出会い(3/3)

「俺はカイ・アデル。出身はアデル村で、今日登録したばかりの新人だ」

「今日ですか!? それなのにあんなに強いなんて」

「相当いいカードを貰ったってことでしょ。やっぱり生まれは大事よね」


 素直に目を輝かせる金髪の少女に、どこか斜に構えた感じの黒髪の少女。二人の性格の違いが何となく掴めてきた。


「えっと……私はエステルといいます。冒険者としては駆け出しで、経験はカイさんとそんなに変わらないと思います」


 照れくさそうに自己紹介をする金髪の少女。黒髪の少女よりもやや背が高く、服の上からでも分かるくらいに立派な体付きをしている。

 そして何よりも特徴的だったのは、顔の横でぴこぴこと揺れている長くて尖った耳だった。


「……エルフ耳だ……」

「はい、(シティ)エルフなんです。お父様とお母様が人間の街に移り住んで、そこで生まれ育ちました」

「へぇ……」


 恥ずかしながら、カイ(おれ)は田舎者の部類に入る。エルフを見たのは生まれて初めてだし、シティエルフなんてものの存在を知ったのも初めてだ。


「最後は私ね。名前はレオナ。冒険者としてはエステルよりも少しだけ先輩。当然ランクはまだEランク。これでいい?」


 黒髪の少女は早口気味に自己紹介を済ませた。エステルと比べると背が低くて起伏に乏しい体型だが、決して小さすぎるわけではない。こちらの方が標準的な体格で、エステルが標準以上に大きいだけだ。


「ステータスも見せた方がいいですか?」

「そこまでしなくてもいいでしょ。手の内は気軽に明かしちゃ駄目だって教わったじゃない。さっきだって魔力残量を知られたせいでああなったんだから」

「うう、そうですけど……普段はあんなところに盗賊なんて出ないじゃないですか……先生もギルドの近くで暴れるのはただのお馬鹿さんだって……」

「馬鹿な盗賊ならやらかすってことでしょう。実際頭悪そうだったし」


 さっきというのは盗賊に囲まれていたときのことだろう。そういえば魔力を使い切っているのは確認済みとか何とか言っていた気がする。


「そうだ。さっきのお礼、まだちゃんとしてませんでしたよね。本当にありがとうございました」

「……ありがと」


 椅子に座ったまま深々と頭を下げるエステルと、簡潔に礼の言葉だけを口にするレオナ。二人は本当に好対照だ。

 そんなことを考えていると、受付嬢のマリーが書類のようなものを持ってやって来た。


「審査が終わりました。廃街道の『巨斧のガザン』の一団は壊滅扱いで満額支払いになりまして、アデル村の『飛斬のジョー』の一団は頭領のみ討伐として提示額の半分が支払われます。どちらも依頼を受けた冒険者はいませんでした」

「半額でもありがたいよ。宿代抜いたら四十ソリドしか持ってなくってさ」

「あんたのお陰で助かったわけだし、もちろん全額持っていっていいよ。で、いくら貰えそうなの?」


 レオナに促されて、書類に記載された合計賞金を確認する。

 一、十、百、千……


「三万ソリド!?」


 俺とレオナは同時に声を上げて驚いた。少し遅れてエステルも書類を覗き込み、両手で口元を押さえた。

 想像以上の金額だ。三万ソリドは日本円で百五十万円に相当する。

 明細によると、それぞれ二万ソリド、つまり賞金百万円の賞金首で、片方が半額になって合計三万ソリドということらしい。


「これより高額の討伐依頼もありますよ? Aランクの方が進行中の依頼には一千万ソリドの賞金首もいるそうですから」

「……凄ぇな」

「私、賞金稼ぎって仕事が成り立つ理由、初めて分かった……」


 二人揃ってテーブルに突っ伏す。月に二十万を稼ぐだけでもひぃひぃ言っていた人間に、たった数日で百五十万円の臨時収入は衝撃が強すぎる。


「普通は数人がかりで討伐しますから、一人あたりの受取金額は数分の一ですけどね。それでは、何かあったら受付までお願いします」


 マリーがぺこりと頭を下げて戻っていく。


 道理でギデオンが十万ソリドを気軽に持ってきたり、四十万ソリドを無利子無担保で貸したりできるはずだ。難易度は相当高いのだろうけど、仕事一回で五億円もありうるなんて。


 トップクラスの冒険者ともなると稼ぎの桁が違う。俺は驚きに脱力しながらも、胸が猛烈に高鳴るのを感じていた。


 これは凄い職業だ。すぐに借金を返せるというだけじゃない。生まれ変わる前にも生まれ変わった後にも夢見てきた『大きなことをする』という野望の最短ルートに違いない。

 新堂海の――カイ・アデルの『成り上がり』がここから始まるのだ。俺はそう確信した。

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