14.出会い(2/3)
盗賊の討伐や賞金と言えば冒険者ギルドだろうということで、俺達は縛り上げたサイモンをギルドハウスまで連れて帰った。
そんな俺の姿を見るなり、受付嬢のマリーがカウンターから飛び出してきた。
「ど、どうしたんですかその人!」
「ちょっと色々あってね。とりあえずこっちが依頼の満月草。で、こっちはついでに捕まえた盗賊だから、どこかに閉じ込めておけないかな」
「……! 警備員さーん!」
すぐに受付の奥から屈強な男達が現れて、サイモンをギルドハウスのどこかに連れていった。男達の中にライオンみたいな頭をした人物がいたのだが、あれは一体何だったのだろう。
「えっと、それでは改めて……収集依頼の達成と、依頼外での盗賊の討伐報告でよろしいですか?」
「討伐の依頼を受けてなくても、賞金って貰えるのか?」
気になるのはそこだ。俺が受けた依頼は薬草収集だけで、盗賊の討伐依頼は受けていないし、そもそもランク的に受けられるのかも分からない。
「依頼が取り下げられていなければ、達成後の事後申請でも報奨金をお支払いできます。この場合は冒険者ランクに見合わない依頼でも問題ありません。ただし、既に依頼を受けられている方がいた場合は、そちらの進行度合いに応じて分配されることになります」
横入りする形になるのだから、正規に依頼を受けた冒険者と山分けになるのは仕方ない。賞金を受け取れるだけありがたいと思おう。
「だったら、アデル村を襲った連中にも賞金が掛かってないか確認してくれ。そっちの件についても、さっきの奴が証言できると思うから」
「分かりました。ではまず依頼の結果の確認からしますね」
マリーは俺から籠いっぱいの満月草を受け取ると、一つ一つ手にとってチェックし始めた。
「見ただけで分かるのか。毒草とそっくりなのに」
「はい。私、《鑑定》スキルを持ってますから」
言われてみれば当然だ。ギルドの受付で依頼達成の報告をするのなら、受付担当はきちんと達成できたか確認できるスキルを持っていなければ務まらない。
「これは……凄いです! 全部満月草ですよ!」
「当たり前だろ。当たりだけ持って帰ってきたんだから」
「スキルもないのにどうやったんですか?」
「んー……企業秘密、ってことで」
ギルドカードへの書き込みなどの手続きを済ませ、俺は満額の二百ソリドを手に入れた。百ソリド銀貨が二枚。日本円にして一万円相当。指でつまめる程度の枚数のコインに過ぎないが、冒険者になって初めて得た報酬だ。
口の端が勝手に持ち上がって、にやけ笑いを浮かべてしまう。
何度経験しても、給料とはいいものだ。眺めているだけで気分が良くなる。
三割は返済に回すので、六十ソリドが返済分で百四十ソリドが今後の生活費と活動資金になる。一般的な宿は一泊と食事付きで百ソリドが相場だから、今夜の宿代を差し引いて残り四十ソリド。二千円ほど余る。
更に宿泊費の安い格安宿もあるにはあるのだが、ああいうところは治安が悪い上に食事が付かないので、食事代を考えるとあまり得にはならない。雨風をしのげる寝床があれば事足りる旅人向けの宿だ。
「お金はあちらの預金受付カウンターで預かってます。失くしたり盗まれたりしないように、ある程度のお金は預けておくことをオススメしますよ」
「分かった、そうするよ」
俺は六十ソリドを預けておくことにした。預け入れと引き出しの手続きにはギルドカードを使うらしい。冒険者用の施設を利用するには、とにかくギルドカードの提示を要求されるようだ。
銀貨を受付の人に一枚渡し、余剰分の四十ソリドを受け取る。十ソリド銅貨が四枚でぴったり四十ソリドだ。
帝国通貨は全部で五種類が一般に流通している。一ソリド銅貨と十ソリド銅貨。五十ソリド銀貨と百ソリド銀貨。そして千ソリド金貨。更に高額な金貨もあるのだが、一般人が目にすることは殆どない。
日本人の感覚で言うと、銅貨が小銭で銀貨がお札、金貨は一万円札を何枚も出すような感じだ。
「さてと、後は待つだけか」
薬草の引き渡しと違って、賞金首の討伐の審査には少し時間が掛かるらしい。時間を潰すために休憩エリアに行くと、入口で別れた二人の少女が席を取って待っていてくれた。
「あっ、おかえりなさい」
「報酬はどうだった?」
「薬草の方は受け取ったけど、討伐報酬はまだ審査中だってさ」
テーブルを挟んで二人と向かい合う席に座る。会話を続けようとして、少女達の名前を知らなかったことを思い出した。
そういえば、何だかんだで名乗る機会を逃していた。改めて自己紹介くらいはしておいた方が良さそうだ。
加筆していたら長くなったので予定外の分割追加。




