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105.Cランク仮認定

 次の日、俺達はギルドハウスに足を運んで、受付のパティからCランク仮認定で受けられる依頼と正式な昇格の条件について話を聞くことになった。


「おめでとう、カイ・アデル君。東方支部で仮認定制度が適用されたのは君が初めてよ。Bランク以上の冒険者の推薦と相応の成果が必要で、申請されることすら滅多にないんだから」

「Bランク以上……ひょっとして……」


 俺が知り合った冒険者の中でランクがB以上なのは、サブマスター達を除けばクリスとストイシャの二人だけだ。どちらが推薦してくれたのかは分からないが、二人のどちらかであることは間違いない。


「とはいえ、正式な昇格じゃなくて仮認定に留まっているのには理由があるわけだけど、自覚はあるかしら?」

「分かってます。冒険者としての経験が足りてないからですよね」

「そういうこと。簡単に言えば実務経験の不足ね。今回評価されたのは、社会と組織への貢献度と対人戦闘能力の高さ。正式な昇格は魔獣討伐に必要な能力が備わっているかどうかを見極めてからになるわ」


 仮認定の件を教えられたときにギデオンから受けた指摘と同じだ。

 エノクとの戦いで見せた実力と、魔獣討伐に要求される能力は別種のもの。正式な昇格を目指すならば、後者の能力も充分に備わっていると証明しなければならない。


「正式昇格の条件は魔石を四十個集めること。パーティ全体ではなく個人に分配された個数でね。判定基準になるのは累計獲得数だから、途中で昇華してカードに変えてもいいわよ」

「四十個というと昇華十回分ですね。これまでに手に入れた分は数に加えていいんですか?」

「もちろん。冒険者になってからどれくらいの経験を積んだのかを確かめる基準だもの。これまでの経験も考慮されるわ」


 Dランク昇格試験の成果物として貰った魔石は三個。つまりこれから集めなければならないのは三十七個。それも俺が受け取る分け前の累計なので、この三人で集めるとしたら合計で百個以上の魔石を入手する必要がある。


 正確に計算すると、三十七個の三倍で百十一個。昇格試験のときに戦った化け物じみたナイトウルフが魔石十一個の魔物だったので、あいつ並の魔獣を十体討伐しなければならない計算だ。


 はっきり言ってかなり厳しい条件である。恐らくギルドとしては、じっくり時間を掛けて経験を積ませたいと考えているのだろう。


「……かなり大変そうですね」

「別に今の三人だけで挑戦する必要はないのよ。今回の功績を手土産にして売り込めば、魔獣討伐に積極的なパーティに好条件で迎えてもらえるでしょうね。優秀な新人はどこのパーティも喉から手が出るほど欲しがってるものよ」


 確かにそれは楽な手段かもしれない。経験豊富な冒険者と一緒に戦い、直に学びながら魔石を集める。誰が見ても健全で理想的な成長過程だろう。


 けれど、それでは時間が掛かり過ぎる。手に入れた石は討伐に参加した冒険者で分配されるので、参加人数が増えれば当然一人あたりの分配数は減少してしまう。あのナイトウルフも十人以上で討伐すれば貰える石はたったの一個になるのだから。


「分からないことがあったら、また聞きに来なさい」

「はい、頑張ってみます」


 パティと別れ、今度は休憩所に場所を移して三人だけで話し合う。

 議題はもちろん今後の方針について。今のパーティで比較的簡単な魔獣討伐に挑戦し続けるか、既存のパーティに加わるか、それとも他の冒険者に加わってもらって戦力の増強を図るか。


「別のパーティに加わるとしたら、正式に昇格するまでの期間限定でお願いすることになるだろうな」

「私達、全力疾走でランクアップを目指す方針のパーティだものね」

「結構ワガママなお願いになりますし、了承してくれるパーティを探すだけでも大変そうですね。やっぱり『クルーシブル』にお願いするしかなさそうです」


 『クルーシブル』の面々とは、協力の見返りとして俺達のランクアップに協力してもらう約束を取り付けてある。今はまさにそのときのように思われた。


「だけど、私達が『クルーシブル』に加わるのは難しいんじゃないかな。確かあのパーティって、大掛かりな依頼以外は少人数で行動してるんでしょ」

「ああ。だからどちらかと言うと、俺達のパーティに『クルーシブル』の誰かを招く形で頼むことになるな。Cランクの誰かに手を貸してもらって、四人で魔石集めに挑むのが一番安定すると思う」


 Cランク以上の『クルーシブル』のメンバーは、デミライオンのアルスランと、デミウルフのルイソン、そしてデミドッグのプリムローズの三人だ。デミリザードのストイシャは更に上のBランクだが、リーダーの一時移籍は流石に無理だろう。


 と、ここでエステルが一切の他意もなく素朴な一言を口にした。


「クリスも加えて五人ですよね」

「……ああ、クリスが戻ってきたらな」


 実のところ、俺はクリスがパーティに戻ってくることはないかもしれないと考えていた。だからこそ、本当はBランクのクリスを加えた四人で挑むのではなく、他のパーティに協力を要請することを考えていたのだ。


 帝都に滞在している間、クリスは今後の去就(きょしゅう)は未定だと言っていた。


 ハイデン市でDランク冒険者の振りを続けるのか、それとも中央に戻ってBランク冒険者として活動するのか、あるいは特務調査員としてまた別の場所に派遣されるのか。どれもまだ決まっていないと。


 けれど俺は、クリスがここに帰ってくることはないだろうと考えている。あくまで調査のために俺達のパーティに加わったのだから、役目が終われば元の立場と肩書に戻るのが当然だ。


「この三人で討伐に挑むっていうのはナシなの? 魔物討伐の依頼には、Cランク以上最低一人とDランク二、三人で募集を掛けてるのもあるでしょ。そういう簡単なのを狙っていけばこのままでもいけると思うんだけど」


 レオナの提案は俺も考えていたことだ。人数が少なければ少ないほど一人当たりの取り分は増える。俺達の都合で動けるのでフットワークも軽くなるはずだ。


「それも考えたんだけどな。簡単な依頼だと魔石の数そのものが少ないと思うんだ。移動時間も考えたら逆に効率が悪くなりそうじゃないか?」

「むぅ……それもそうよね」


 倒した魔物から取れる魔石の個数。討伐に参加する冒険者の人数。戦闘自体の難易度。現地までの移動時間。効率を高めたければ、これらのバランスを事細かに考えなければならない。


 だが、悲しいことに俺達は魔獣討伐の経験がまるでない。ナイトウルフのときはアルスランに導かれるままに動いただけで、独自の判断ができるほどの経験は得ていないのだ。


 やはり『クルーシブル』に頼るのがベストだろうか。三人で考え込んでいると、頭越しに聞き慣れた声が投げかけられた。


「経験豊富な冒険者に手を貸してもらうべきだね。Cランク冒険者の二百人に一人は、昇格直後の魔獣討伐で無茶をして命を落とすんだ」

「やっぱりそうだよなぁ……ん?」


 レオナの声でもエステルの声でもない。長椅子に座ったまま振り返ると、椅子のすぐ後ろに立っていたクリスと目が合った。


「クリス! お前、いつ戻ってきたんだ!」

「さっき着いたところだよ。君が帝都を出てすぐに野暮用を片付けて、一日遅れで出発したんだ」


 クリスは平然とした態度で長椅子に腰を下ろした。

 レオナとエステルは普通に再会を喜んでいるが、驚いているのは俺だけだ。当然といえば当然である。二人にしてみればクリスは少し長くパーティを離れているだけで、戻ってこない理由など最初からなかったのだから。


 そういうわけで、レオナ達は動揺を静めようとしている俺を尻目に、あっさりと話し合いを再開させていた。


「四人でもやっぱり難しいかな」

「お勧めはしないね。ボクだって一介のD()()()()だから、あまり戦力の足しにはならないよ。それに、せっかくBランクが率いるパーティと繋がりがあるんだ。最大限活用させてもらって、効率的な魔石集めの方法も教わればいい」


 レオナと会話しながら、クリスはさり気なく俺にアイコンタクトを送ってきた。

 Bランク冒険者クリス・シンフィールドではなく、Dランク冒険者クリス・テイラーとしてここにいる――クリスの眼差しはそう語っていた。


「カイさんはどう思います?」

「そうだな……」


 突然のクリスとの再会に動揺した気持ちがようやく落ち着いてきた。

 名目上のパーティのリーダーとして、ベストだと思う選択を口にする。


「ひとまず『クルーシブル』のメンバーに会いに行こう。話を聞いてもらって、協力してもらえるならそれで行く。スケジュールの都合がつかないなら、最初の依頼は四人で受けよう。これでいいか?」


 誰も反対はしなかった。俺は深く頷いて席を立ち、ギルドハウスのメインホールへ向かうことにした。

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