聖杖物語(セインステッキストーリーズ)黒の剣編+(プラス)Act6
あたしは、見つめる。太陽の光を浴びて。
あたしは掲げる、その右手を高く、高く。
ーあたしの中でもう一人の”あたし”が叫んでいる。-
「ねぇ、何て言ってるの?この頭の痛みに関係あるの?」
答えのない自問自答を、口に出してしまう。
ー答えて!もう一人の”あたし”。その叫びは、あたしに何を告げ様としているの?-
<ズキン、ズキン>
「い、痛い。頭が割れてしまいそうな位。」あたしは、額に手を置いて、
ー教えて、この痛みは何処から来てるの?何故あなたは、叫んでいるの?ー
あたしの目の前には、鎧を脱いだ少女が2人此方を見ている。
「あ、あの子の。あの子が持っている"光り”が、”あたし”は欲しい・・の。」
ーえ?今、あたし。あたしの口から、勝手に・・・もう一人の”あたし”の声?-
「お・・ね・・が・・・い。その・・光りを・・浴びさせて。」
ーえ?また?。その光りって・・なんなの?どうして、浴びたいの?-
あたしの意識が、徐々に霞んでいく。
ーあ、ああっ、そうか。もう一人の”あたし”の正体って。記憶を失う前の・・本当の”あたし”なんだよね。だったら、お帰り。・・さあ、あたしの中へと。あたしも、戻りたい。本当のあたしに!-
あたしの体に<水晶の光>が、差し込んだ。
「あっ、ああっ!光りだっ!光りが見える。」
暗く闇だけの世界に、初めて光りが見えた。
ーあの光りに辿り着きたい。あの光りを身体に浴びたい。そうすればきっと、きっと願いは叶う。この闇から解放される。-
あたしは走り出す。あの光に向かって。あの光りを求めて。
「どうか、消えないで!こっちに来て、お願い。」
どんなに走っても、その光りに届かない。近付いて来ない。
どんなに焦っても、こっちに来てくれない。
ーもっと早く、もっと急いで。走らなきゃ、あの光りが遠くに行ってしまわない内に。-
「お願いっ、あたしに、あたしにその光りを浴びさして。その光りをあたしに頂戴っ!」
暗闇の中、小さなピンク色の光りが、次第に近寄ってくる。
ーあと少し、あと少しで光りに届く。お願いっ、力を、力を貸してっ!マコォ!ヒナァ!虎ぉ牙ぁ!!-
「・・・ピ・ン・・ク・・水晶・・。」
その時、あたしの視力は失われ、光の中であたしは”あたし”自身と会っていた。
もう一人の”あたし”が、あたしの手を取って言う。
「ありがとう。もう一人のあたし。辛かったね、もう大丈夫だから。帰れたから。」
ー凄く懐かしく、温かい温もり。ああ、そうか。あたしは帰れたんだ。やっと、
やっと・・・そう!冴騎美琴に。-
光が消え、頭痛も止む。ゆっくりと目の前に少女がやって来る。
「あ、あの。」
ーはっ!目が醒めた。あたしだ、この感覚!この身体!-
あたしは、少女に答える。
「は・・い?」
目の前の少女、確かに獅騎導士のブレスレットを着けている。
ーそう、全て思い出した。いえ、<退魔の呪法>から解放されたんだ。-
「その、何か見ました?」
少女が訊く。
「見ましたね?アタシ達が鎧を脱ぐのを?」
少女が、あたしに問い掛ける。
ーそう、獅騎導士、聖導士、守りし者。みんなみんな、何もかも知っている。覚えているから・・・。-
少女に答える。
「見ました。白銀色の鎧を脱ぐのを。獅騎導士さんですよね。」
あたしは自分の思い出をかみ締めながら言う。
あたしの前の少女が強張った。あたしは堰を切ったように話す。溢れる想いを言葉にした。
「知っているんです。・・いいえ、あなた達のお蔭で、もう一人の方が持っておられる<水晶の光>のお蔭で、今、思い出せたのです。」
あたしの心は今、この青空の様に晴れ上がっていく。
「そう。・・知っているなら良いけど。他言は無用で、お願いしますね。でないと、記憶を消さないといけなくなりますから。」
あたしを睨みながら少女が言う。
ーうん、わかっているよ。-
あたしは少女に微笑みながら、
「はい。」と、答える。
少女は振り向きもせず、歩き出した。
あたしは嬉しさで涙が溢れるのを、堪えられない。
頬をつぅっと涙が零れ落ちるのを、そのままにして少女に訊いた。
「あの、お名前は?」
あたしの問い掛けに、片手を上げて、
「神童美姫、あっちのが真姫。姉妹なんだ、あんたは?」と、ぶっきらぼうに言った。
ーミキちゃんに、マキちゃん・・か。あたしより小さいのに頑張ってるんだ。忘れないから、
恩人の名前。-
あたしは両手を胸の前で握り締めて思った。そして、精一杯の笑顔で、
「これからも頑張ってね、守りし者さん。あたしは・・・。」
あたしは息をすうっと吸って、元気良く名乗った。
「あたしは、美琴!冴騎美琴!」
ーありがとう。若い獅騎導士さん、そしてあたしの後輩。水晶の巫女!!-
林の中へ消えていった美姫、真姫を見送って、あたしは右手を見る。
そこには薄っすらと光りの腕輪が、現れ始めている。
ーあたしにも、まだ力が残っているんだ。聖なる光りが。-
あたしは、右手をすうっと掲げる。太陽の陽の光りを浴びて、掲げた手を見詰める。
ーああ、あたしにもう一度力を。虎牙と一緒に居られる力を、ください。-
掲げた右手を見上げて、あたしは太陽の光に包まれた。
あたしは差し出す。その右手を。思いの丈を瞳に宿して。
あたしは思う。この体を想い人に捧げたいと。
あたしは帰れた。想い人の元へ。
次回黒の剣編+(プラス)最終話 お帰り・・ただいま。
次回も読んでくれなきゃ駄目よーん!




