明けない夜はない
「そうねその前に、キヨタカを元に戻さないとね」
「え?元にってどういう意味ですか」
「そうね、こっちの椅子に座ってちょうだい」
「ああ、はい」
そばに置かれていた椅子に座ると、執事らしい人が縄で腕を縛り始めた。
その様子を見ていると、主がいう。
「あなた、暴れることになるから」
しっかりと足首まで縛られると、手足はピクリとも動かなかった。
「あ、あの、これからなにを」
不安になり問いかける。
「あなたを元に戻すのよ、愚者になる前にね」
「え、そうなんですか。まだ愚者だったんですか」
「ええ、そうよ。では、いいかしらね」
「はい」
目の前に突き出されたろうそくに明かりが灯される。
その向こうには柔和な主の顔が見える。
「キヨタカ、生まれたときのこと、思い出しなさい」
生まれたときのこと?
え?
生まれたときのことって、なんだ?
生れた時のことなんて、だれも覚えてなんかないじゃない。
「ゆっくりでいいわよ。生まれたときのこと、思い出しなさい」
母親から自分は生まれて、父親は…いたっけ?
それから幼稚園で、ブランコから落ちて怪我を…。
「あ…」
この世界に来る前のことから、この世界で起きたこのとの数々が一気に思い出されていく。
小学生から高校生の出来事。
会社に入ってからのこと。
この世界に来てからのこと。
アマンダを船で出てからのこと。
乗せてもらった商船の船員の中に、あのマルセがいた。
なんだ、あの船ってこの商会の持ち物だったのか。
だったら、売られてきたんじゃないのか。
最初から愚者にされるために…なのか?
記憶が一気に戻ってきたせいか、頭がぐらんぐらんしている。
喉から何かがでていった。
どこからか、男の絶叫が聞こえてきた。
何度も何度も響く絶叫が自分の声だと、ようやく気付いた。
目の前では、ろうそくが静かに灯っていた。
思い出すのだという誰かの声が聞こえる。
聞こえてきた声が、頭に響き渡る。
「……ああああああああああああっっっっっっっっっっ……」
うるさいよ、おまえ、少しは黙れよ…
誰のものともわからない声が響き渡り、頭の中の自分が醒めた意識で愚痴ごちる。
見開かれた眼には、醜悪な貌をした主と侮蔑の表情を向ける執事のような男の姿が映しこまれる。
そして、暗いところに落ちていった。
また少し間があく予定です。
たぶん20日ごろになりそうです。




