奴の腕と引換にしたモノ
VR表示は、じつはAR表示じゃないかとの指摘がなされましたが、裁定の結果、そのままでいくこととなりました。
仮想現実の先に拡張現実が存在し得る、との一文からです。
出てきた鎌を見ると、いわゆる手持ちサイズの草刈鎌だった。
「これじゃないよね?」
石人形がコクリとうなずく。
柄の長い草刈鎌を強くイメージする。
一瞬、死神が持つような大ぶりの鎌を思い出したが、それはやりすぎだろう。
「土の加護、初級、土鎌、土の加護、中級、石鎌」
ぼこん。
おお、ちゃんと長いやつが出てきた。
石人形に手渡すと、ちょっと思案した様子で眺めている。
むう、まだ足りないのかな?
あああ、腕の先が丸くなっていることで、つかめないんだ。
んんん、蔦っぽいやつが生えているので、それで巻き付けてあげればいいのかなぁ。
「まてよ?」
もっと強いイメージで上書きしてあげればいいのか。
石人形の手を持つ。
「土の加護、中級、石人形」
ぐらりと、いままでにない疲労感を感じる。
「や、やばい」
目の前が暗くなり、そこに倒れこんでしまった。
幸いにして気を失うことはなかったが、頭を起こそうとするのがつらく感じる。
そうかぁ、石人形で300使うんだったなぁ。
手の平を見る。
竹中清貴
HP180(+420)/MP0(+2)
適正 土/火
スキル 異言語理解 土の加護 鑑定(VR表示) アイテムボックス
固有スキル サターンの加護
おう、すっからかんだよ。
「ちょっと、休ませてくれ。不調になっちゃった」
ツッチーがワキュワキュ動きながら心配そうにこちらをうかがっている、かわぇぇぇぇぇぇ。
石人形の両腕の部分は、それとなく人の腕になっていた。
ストッパーみたいのがかかったおかげで、中途半端な形になってしまったけど、作業にはなんとか支障ない感じではあるようだ。
「石人形君、それで作業できないかな?」
貸してみろって感じで長い鎌をもって振ってみた。
そのまま茂みのほうに向かっていき、草を刈っていった。
切れ味の保証はなかったけど、なんとか刈ることができているようだった。
石人形がこちらを向き、グッジョブ風に親指を立ててよこした。
しばらく頑張ってくれ、少し休むよ。
「ツッチー、なにか生き物が来たら起こしてくれ」
ツッチーがクンクンクンと何度もうなづく、かわぇぇぇぇぇ。
念のため、近くの樹によじ上り、太めの枝をまたぐようにし、幹に体をあずけて眠りにつく。
どのくらい回復できるかわからないけど、とりあえず眠るのが一番だろう。
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
気が付いたら、夜になっていた。
目を開けるとツッチーが枝の先に座り込んで、辺りを警戒している様子だ。
「ツッチー、ごくろうさま」
そう声をかけると、こちらを振り向きワキュワキュ駆けてくる、かわええええ。
どれ、どのくらい回復したかな。
手の平を見る。
竹中清貴
HP180(+420)/MP0(+490)
適正 土/火
スキル 異言語理解 土の加護 鑑定(VR表示) アイテムボックス
固有スキル サターンの加護
ふむ、いい感じで戻ってきたかな。
そういや、ツッチーも上書きしたら…。
いや、いまのままがかわいいから、いいか。
ん?
なんか、じっと見つめられている気がするけど…。
気のせい…だよね。
石人形はどうしたかな。
どこまでいっただろうか?
様子を見に行こうかな。
暗いからどこまで行ったか分からないけど。
草を刈る音は聞こえてこないから、少しは遠くに行ったんだろうと想像する。
そう思った時だった。
あの嫌な感じが広がる。
ツッチーをみると、心なしかおびえているような感じだ。
そして遠くから、ずるりずるりという音が聞こえてきた。
きたか。
今日こそは、その正体を見届けないと…。
そっと下をうかがう。
何かを引きずるような音は、まだ遠くに聞こえる。
何かをしなきゃならない感じがするのだけど、何をしていいかわからないまま、慌ててしまっている。
ふと、納期に遅れに遅れ、クライアントが会社に乗り込んでくるときのことを思い出した。
あの感じか。
これは、ダメなやつだ。
さて、逃げる、かな?
いろいろ修正していますが、大抵は誤字修正と文字下げに費やしています。
あと、◎◎◎の数は縦書きPDFに合わせて減らしています。