再会
「魔物らに襲われる前は、も少し高い塀だったんだがな」
ジーノさんがぽつりとつぶやいた。
センシュウの元の街並みはわからないけど、壊れているさまを見ると、手ひどくやられてしまったんだなと思った。
西門をくぐっていく。
西側にはもう一つ、船が出入りする門が作られていた。
大抵の人や物はそこを通るのだそうだ。
街の中に入ると、冒険者らしい人たちと兵士らしき人たちが瓦礫の片づけなどで動き回っていた。
あの津波被害が大きかった、あの街並みのように。
「ジーノさん、自分はなにをすればいいんですかね」
「何言ってる、お前さんは依頼をこなすんだよ」
「でも、何かしないと…」
「なにいってる、あいつらは依頼と仕事でやっているんだ。自分から何かしようとしているわけではないぞ」
「…でも」
「まあ、気持ちはわかるがな。そういう考えは、あいつらを追いつめるだけだし、それにだ。腹の足しにならねぇ」
「腹…ですか?」
「そうだ。腹が減ったやつは飯を食い、食ったやつが飯を作るんだ。それがまわりまわれば、みんなが助かるってもんじゃないか」
「なるほど、そういう考えもできるんですね」
「まあ、だからな。お前さんがいまやることは、ダニエラの依頼をこなすことだ。王立商業組合に行ってイルマってやつに手紙を渡すことだよ」
「はい、わかりました。で、その王立商業組合はどこにあるんでしょう?」
あたりを見回しても、建物らしいものは残っていなかった。
「さあな、これだけ崩れてりゃ、探すのもひと苦労だな」
通りらしい通りが見えなく、瓦礫が散乱しているところを、ひたすら乗り越えていくしかなかった。
もともとは、市街の真ん中あたりにあったらしいが、これだけ崩れていると目安になるものがなかった。
それでも、2時間ほどかけて王立商業組合があったところにたどり着くことができた。
瓦礫の中で動く影があったので、声をかけた。
「すみません。こちらにイルマさん、いますか?」
「イルマか?ん?お前はだれかな?」
「あ、アマンダの王立商業組合のダニエラさんからイルマさんに届け物を預かりました」
「そうか。じゃあ、それを預かろう」
「え、イルマさんですか?」
「違うが。問題あるかね?私は組合長をしているポール・マンチーニだ。その私が預かろうといっているのが信用できんか」
「冒険者組合を通しているのでね。依頼で本人に渡さないと、仕事が果たせないんですよ」
ジーノさんが助けてくれる。
「ふむ、組合の依頼では仕方ないのか。イルマなら塀の外に出ている。向こうのだ」
北側の崩れた塀を指さした。
「そうですか、ありがとうございます」
「それが終わったら、ここを片付けないか」
「冒険者組合を通してくれたら、やりましょう」
「ふん、高くつくわ」
ただでこき使おうとおもったのか、不満そうな顔をしていた。
そうして、ポール・マンチーニと別れると街の北側へと向かった。
壁の外側には、街の中から避難したらしき人たちが天幕を張っていた。
「すみません、王立商業組合のイルマさんはいませんか?」
ところどころ身を寄せるように固まっている人たちに声をかけていく。
みんな、というか大人たちは暗い目をしながらうつむいているだけだった。
そこにいたのは想像できない恐怖にさらされた人々の姿だった。
それを乗り越えたか、気にも留めない人が塀の中で復旧作業をしているんだろう。
もっとも、さっき会った組合長くらいしか見なかったけど。
もう落ち着いてから何日もたっているのに、立ち上がる気力が付かないのだろうか。
ところどころで冒険者や兵士が炊き出しをやっていたが、元気のいい子供たちが並ぶばかりだった。
その子供らが、座り込んでいる大人たちへと食事を運んでいる姿を見て、幾分気が晴れた気がする。
いくつかのグループを回っていくと、一人の女性が反応した。
「わたしが、イルマですが」
その女性は、20歳くらいの割と下町のOLさんといった雰囲気を出していた。
「王立商業組合のイルマさんで、間違いないですか?」
「はい、そうです」
「アマンダの冒険者組合から来たセーキといいます。こちらがジーノさんです。アマンダの王立商業組合のダニエラさんからイルマさんに届け物を預かりました」
「届け物…ですか?」
「はい。この手紙になります」
「それから、こっちの受取証に署名をもらいたい」
ジーノさんが受取証を示して、イルマさんがサインした。
「これで、いいですか?」
「確かに。それではこれで失礼します。大変なことでしたが、気をしっかり持ってください」
「ええ、ありがとうございます」
その場を離れようとすると、イルマさんが呼び止めた。
「ちょっと待ってください。いま封を開けて確認しますから」
「え?」
「受け渡しの場で開けるようにとの印がありましたので」
イルマさんが手紙の封を切り手紙を読み始める。
「あなた、セーキさんへの追加依頼が書かれていました。私を王都まで連れて行ってください」
「え?なんですって?」
このまま帰ると思ったところに、別の街へ行けという。
チェーンクエストか?
手紙の内容はこうだった。
このままセーキを王都の組合本部に連れていくようにと。
その際にはイルマさんが同伴するとして、一緒に来ているだろうジーノはアマンダに帰しても構わないとも。
「王都の組合に連れていかれて、なにをさせられるんでしょうね?」
「本を解読させよと書いてありました」
「本の解読、ですか?」
「おそらく所蔵庫に収められている本のことだと思います。長らく読めるものはいなかったと聞いています」
「そうですか。ジーノさんはどうします?できればついてきてもらいたいんですが」
「そうだなぁ…。わかった。ついていこう」
「ありがとうございます」
「で、イルマさんとやら、あんたはすぐに王都にいけるのかい」
「そうですね。少し待ってもらえるのであれば」
「じゃあ、南門で待っている」
「わかりました」
イルマさんといったん分かれて北門と反対側にある南門に向かおうとしたが、瓦礫の山を越えていくことを考えると壁の外側を歩いたほうが速いだろうということで、街の東側を回ることにした。
門と門の間となると人はまばらになった。
兵士たちが中心になって死んだ人たちを埋葬しているからだ。
家族がなくなったんだろうか、盛られた土を抱くようにして泣いている人たちがいた。
その中に見覚えのある人がいた。
あの村の、たしかガリオンといっただろうか。
祭りで一緒に挨拶した人だ。
たしか奥さんと子供がいたはずだけど。
土盛りのところにいるってことは、だれか亡くなったということか。
あのことを思い出した。サリバンさんを見た最後のこと。
声をかける勇気が持てずに、通り過ぎるしかできなかった。
南門は完全につぶれていた。
おそらくここから魔物たちが街になだれ込んだんだろう。
兵士たちの姿がまばらだった。
魔物たちの運び出しが終わったのだろうか。
遠くからガラガラと音がするので、そちらを見ると土煙が立っていた。
「ああ、あれは王都からの荷馬車だな。食料とか運んできているんだろう」
ジーノさんがいう。
「いちおう考えているんですね。王様も」
「センシュウはヒノモト時代の王都だったといわれているからな。なにか見捨てることもできない何かがあるんだろう」
そういえば、名前を変えたりしなかったんだろうか?
なかったことにしたいくらいなことをしているんだったら、街の名前も変えるんじゃないだろうか?
考えながら眺めていると荷馬車の集団が迫ってきたので、道を開けるようにしてやり過ごした。
イルマさんを待つために、崩れた石の上に腰掛けて待つことにした。
ここから王都までほぼ3日かかるらしい。
イルマさんの足を考えると、もう2日は必要とのことだった。
途中に村があるらしいけど、魔物に襲われていなければ心配ないだろうとのことだった。
それでも、1、2度くらいは野営が必要とのことだった。
そんなことを話していると、後ろから声をかけられた。
「あなた、セーキさんよね」
振り返ると、一人の女性が立っていた。
その顔はよく覚えている。
アメリア・ウィンストンだった。




