縁は異なもの味なもの
眠いです。
そこに生まれた、まあ、生まれただろう、土人形はこちらをうかがうような仕種をすると、手を振った。
か、かわええ。
きめた!お前の名前は!
いやいや、魔力が切れると崩れるだろう土人形に名前を付けてしまうのは、まずいだろう。
変に懐かれるとしたら、別れが厳しくなる。。。
「ツッチー、おいで!」
土人形が、ワキャワキャ向かってくる。
か、かわええええ。
小一時間ほどかまって遊んでしまった。
そろそろ、本来の目的に戻らなくては。
さて、どのくらいのことをやれるんだろうか?
この大きさだと、夜に寝ているときに、なにか大きな動物が来たら起こしてもらうとか。
大イノシシくらいのだと身の危険があるからね。
それに、いつまで形を成しているのかも、調べないと。
ツッチーを胸ポケットに入れると、また歩き始めた。
しばらく上りが続いた後、下り坂が続いていた。
「あまり下りたくないんだけどなぁ。まあ、水場に出られるなら、それはそれでいいか。なあ、ツッチー」
相当会話に飢えていたらしい。
会社で話す以上にツッチーに話しかけている。
そんなに寂しんぼうだったかな、自分。
食べられそうな草や果実などないか探しながらも、おそらく西だと思われる方向に進んでいる。
そのつもりだったが、どうもおかしい。
傾きかけた太陽が前にではなく、左斜め前に傾いているように感じる。
樹が高く生い茂っているおかげで、正確なところはわからないが、日が差す方向が左斜め前からのような気がする。
少しずつ北に向かっている感じだ。
獣道がゆえにそういうこともあるだろうと考えていた。
そのことが甘い考えだった気付くには、まだ数日がかかった。
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土人形、ツッチーはまだ健在だった。
簡単な命令なら、5個くらいまでは覚えてくれる。
ちょっと難しくなると、1、2個でいっぱいいっぱいになり、ほかのことを忘れてしまう。
たとえて言うなら、昔のフロッピーディスクのような感じか。
夜中には、必ず起こされる。
そして、あの行列のような気配を感じる。
恐ろしくて、見ることはできないけど、そこには確かに存在を感じる、何かがいる。
土魔法は初級なら全部使えたけど、中級は石槍だけが使えた。
なんでだろう?
なにか足りないものがあるんだろうなぁ。
そして、赤イノシシも大イノシシもあの日以来見かけることはなかった。
そもそも、地上の生き物自体、見かけることがなかった。
鳥のような、そんな生き物が飛んでいるのは見ることはあっても、枝に鳥が止まるってことがない。
ある意味、森が閑かなのだ。
極端に動物の生息数が少ないだけなんだろうか。
水場は、いままでで3か所、水が湧いているところがあった。
もちろん、体の汚れを流したのは言うまでもない。
食べるものは、とりあえずコシ草がたくさん生えているおかげで、極端におなかがすくということはなかった。
ほかにヨンド草とウィドという果実を見つけた。
「ううむ、これだけ歩いてもまだ変化がないとは。なあ、ツッチー、これはどうしたものかなぁ」
胸ポケットから取り出したツッチーに話しかけると、小首をかしげる仕種をする。
かわえぇぇぇぇぇぇぇぇ。
そこから少し歩いただろうか、すこし開けたところに出た。
そこはかとなく見覚えのあるような景色・・・。
まんじゅう盛り土がないだけで、大イノシシに出会った、あの広場に似ている。
いや、あの広場だ!
大イノシシがぶつかった樹の、へこんだ跡が残っているのを呆然と見ていた。
「一回りしてきたのか」
ヨンド草はセロリっぽいです
ウィドは、梨のような感じです