果たすべき努め
台風14号が猛威を振るっています。
被害に遭われた方に、お見舞い申し上げます。
なぜ?
としか思えなかった。
死んでしまったことが、わからなかった。
何かわかるかと思って、村長のところに向かった。
けれども、昨夜のうちにいつの間にかいなくなった、気がついたら村のはずれで死んでいた、としかわからなかった。
「それで、あんたはどうするんだい」
「ひとりだけになってしまったので、報告としてイコンの斡旋組合に行こうと思います」
「そうかね。それなら、あの死んだ女のものを持っていくといい。手ぶらで行くよりはいいだろうさ」
「ええと、それは…」
「あんたが仕事を投げ出したと思われんだろう」
「なるほど、そうですね」
斡旋組合は、そういうところは厳しい。
身許がわかりそうなものは少なかったが、依頼の写しがあったので助かった。
村長が、何かに襲われたと書付けをくれたので、あわせて出すことにした。
それから、家族の荷物からとサラサさんが身に着けていたものから、形見になりそうなものを少し集めて、イコンにある実家に持っていこうと思った。
「お世話になりました」
「ひとりだと不安だろう。これから山に行くという猟師がいるから、途中まではついていくといい」
「助かります、ありがとうございます」
猟師というのが、ここの村に来たときに入り口にいた人だった。
「途中までお願いします」
「ああ。イゴルだ」
あいさつもそこそこに出立した。
イコンに向かう先に罠が仕掛けてあって、獲物がかかっているか見て回るのだという。
そして、あの半端もののことも見て回るのだという。
もともと口数が少ないのか、道中は無言のままだった。
思ったよりも早足だったので、こちらから話しかけることもままならなかった。
そして、山の麓まで来たときだった。
「ここでいったん休むか」
「は、はい。いつもこんなところまで狩場にしているんですね」
日ごろの狩場にするには、少し遠いような気がしたからだ。
「ふむ、そうか」
イゴルさんがふらっとそばに来たかと思うと、腹に熱いものを感じた。
下を見ると、腹からなにかの得物の柄が突き出していた。
「少し勘がいいというのも、考えものだな」
「なん…痛い、なん…で」
「そうか、すこししたら痛くなくなる」
痛みで動けない僕を、森のほうへと引きずりはじめた。
「なにも知らないのかもしれんが。村長がな、あいつは臆病者でな」
「…うっ、はぁはぁ」
「ひとり身になったんだからいいだろうって、あの女に言い寄ったらしいが、たぶんそれだけですまなかったんだろうな」
いったい何を言っているのかわからなかった。
それでなんで、自分が刺されることになったのか。
「それで、ひとまとめになかったことにしようとしてな」
「……」
「そろそろ死んだか」
そこから無言になって、ただ引きずられていく。
そして、山肌にできた穴にたどり着く。
「ここで、さようならだな」
そういうと、腹に刺さっていたものを力任せに抜いてから、血のりを僕の服でぬぐう。
そして、振り返ることなく立ち去っていく。
痛みは感じなかったけど、指ひとつ動かすこともできなかった。
だんだんと辺りが暗くなっていく。
森のほうから何かがやってくる。
あの、半端ものだった。
近くまで寄ってくる。
すると、僕の腹に刺さっていた得物の柄が、半端ものの体から突き出していたのが見えた。
ああ、そして僕も…。
でも、気に入らなかったのか、通り過ぎていく。
目先がだんだん暗くなっていく。
いろいろと考えるのが億劫になってきた。
そんな中で、思い出すのはサランのことだった。
結局イコンまで行くことすらできなかった。
サランのことを探すことすらできなかった。
僕はなんでもできるようになってきたつもりだったけど、できないことのほうがさらに大きくなっていたんだなと思う。
サラン。
もう会うことはないだろう。
さようなら、だ。
2022/9/22 誤字修正