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ハーレムは目指さない!~異世界探訪記  作者: ウルカムイ
第六章 万物流転の常ならぬ世
115/116

果たすべき努め

台風14号が猛威を振るっています。

被害に遭われた方に、お見舞い申し上げます。

なぜ?

としか思えなかった。

死んでしまったことが、わからなかった。

何かわかるかと思って、村長のところに向かった。

けれども、昨夜のうちにいつの間にかいなくなった、気がついたら村のはずれで死んでいた、としかわからなかった。


「それで、あんたはどうするんだい」

「ひとりだけになってしまったので、報告としてイコンの斡旋組合に行こうと思います」

「そうかね。それなら、あの死んだ女のものを持っていくといい。手ぶらで行くよりはいいだろうさ」

「ええと、それは…」

「あんたが仕事を投げ出したと思われんだろう」

「なるほど、そうですね」


斡旋組合は、そういうところは厳しい。

身許がわかりそうなものは少なかったが、依頼の写しがあったので助かった。

村長が、何かに襲われたと書付けをくれたので、あわせて出すことにした。

それから、家族の荷物からとサラサさんが身に着けていたものから、形見になりそうなものを少し集めて、イコンにある実家に持っていこうと思った。


「お世話になりました」

「ひとりだと不安だろう。これから山に行くという猟師がいるから、途中まではついていくといい」

「助かります、ありがとうございます」


猟師というのが、ここの村に来たときに入り口にいた人だった。


「途中までお願いします」

「ああ。イゴルだ」


あいさつもそこそこに出立した。

イコンに向かう先に罠が仕掛けてあって、獲物がかかっているか見て回るのだという。

そして、あの半端もののことも見て回るのだという。

もともと口数が少ないのか、道中は無言のままだった。

思ったよりも早足だったので、こちらから話しかけることもままならなかった。

そして、山の麓まで来たときだった。


「ここでいったん休むか」

「は、はい。いつもこんなところまで狩場にしているんですね」


日ごろの狩場にするには、少し遠いような気がしたからだ。


「ふむ、そうか」


イゴルさんがふらっとそばに来たかと思うと、腹に熱いものを感じた。

下を見ると、腹からなにかの得物の柄が突き出していた。


「少し勘がいいというのも、考えものだな」

「なん…痛い、なん…で」

「そうか、すこししたら痛くなくなる」


痛みで動けない僕を、森のほうへと引きずりはじめた。


「なにも知らないのかもしれんが。村長がな、あいつは臆病者でな」

「…うっ、はぁはぁ」

「ひとり身になったんだからいいだろうって、あの女に言い寄ったらしいが、たぶんそれだけですまなかったんだろうな」


いったい何を言っているのかわからなかった。

それでなんで、自分が刺されることになったのか。


「それで、ひとまとめになかったことにしようとしてな」

「……」

「そろそろ死んだか」


そこから無言になって、ただ引きずられていく。

そして、山肌にできた穴にたどり着く。


「ここで、さようならだな」


そういうと、腹に刺さっていたものを力任せに抜いてから、血のりを僕の服でぬぐう。

そして、振り返ることなく立ち去っていく。

痛みは感じなかったけど、指ひとつ動かすこともできなかった。

だんだんと辺りが暗くなっていく。

森のほうから何かがやってくる。


あの、半端ものだった。


近くまで寄ってくる。

すると、僕の腹に刺さっていた得物の柄が、半端ものの体から突き出していたのが見えた。

ああ、そして僕も…。

でも、気に入らなかったのか、通り過ぎていく。


目先がだんだん暗くなっていく。

いろいろと考えるのが億劫になってきた。

そんな中で、思い出すのはサランのことだった。

結局イコンまで行くことすらできなかった。

サランのことを探すことすらできなかった。

僕はなんでもできるようになってきたつもりだったけど、できないことのほうがさらに大きくなっていたんだなと思う。


サラン。


もう会うことはないだろう。


さようなら、だ。


2022/9/22 誤字修正

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