失敗と失敗
野営していた跡が残るところまで戻ってきた。
昨夜、自分たちがしていたかは自信はないけど。
辺りを見渡しても人の気配はなかった。
あの家族やネモの姿も見当たらなかった。
残された荷物は多くはなかったが、この先のことを考えると、必要なものだけをもって進むのがいいかもしれないと考えた。
衣服は置いておく、とりあえず。
野営跡に置いたあと、街道筋を歩き始める。
イコンに向かいながら、会えたらいいな。
しばらく歩き進めると、村に行き着いた。
たしか、3日めに泊まる予定だったところだ。
村の入り口には囲いが重ねられていて、村人らしき人が立っていた。
「どこからきた」
「ドゥーンからきました」
「途中、何もなかったか?」
「なにかよくわからないものに、昨夜襲われました」
「サラサという人は知っているか」
「たしか護衛していた人のひとりです」
「いまこの村にいるが、ほかの者はどうなった」
「請負人のひとりは襲われてからはわかりません。もうひとりの請負人と他の家族は皆で逃げたあとはわかりません」
「そうか、大変だったな。中に入ったらまっすぐ進んで村長のところに行ってくれ」
「はい」
中に通されて、村の中を進む。
なんとなくこちらを伺う目線を感じる。
村長の家の前には、あの家族の奥さんが立っていた。
「あなた、守人よね。私の家族は、ノワルとヘルメ、トーゴはどうしたの?」
「逃げたとき、街道をはずれてしまって見失いました」
「そう。街道の途中まではいっしょだったの。トーゴがノワルを抱いていたところまでは見たんだけど、ヘルメが森に入り込んだからあとを追ったんだけど、見失ってね」
「そうだったんですか。気がついたら僕も森に入り込んでしまっていて、朝方までに野営したところまで戻ったんですが、誰とも会いませんでした」
「それで、あれはなんだったの」
「わかりません。ネモさんは半端ものといってましたが、僕は見たことがありません。あ、この中に集めた荷物があります、全部ではないですが」
荷物から家族の荷物を取り出しはじめた。
「服とか持ちきれないのは野営したところに置いてきました」
「そうね、まだいるかもしれないからね」
「はい」
すべてを出し終えると、サラサさんは黙ったまま建物の中へと入っていった。
入れ替わりに、村長らしい人がやってきた。
「君が護衛の仕事をしていた請負人かな」
「はい」
「少し話しをしてもらえるかな」
「もちろんです」
半端ものが現れてからの話しを村長にした。
「そうか、少なくともひとりは喰われたようだね」
「喰われる、ですか?」
「ああ、10日前くらいから村人3人がいなくなった。どうやらこのあたりをうろついているらしい」
「それは…」
「それで、君はどうするんだい」
「請負人のひとりと、護衛していた家族を待ちます」
「そうか。じゃあ、宿を紹介しよう」
「……あの、すみません。あまり路銀がなくて」
「ふむ、そのあたりは頼み込んでおこう。なにか手伝いでもしてくれればよい」
「ありがとうございます」
それから紹介された宿に行き、とりあえずの寝床を得ることができた。
サラサさんは村長宅に泊まるそうだ。
手伝いは、宿の下仕事と夜回りだった。
それから2日たった明けた朝にサラサさんがやってきた。
「野営したところまで行きたいの」
「わかりました、いきましょう」
宿の人と村長に立ち寄り、ドゥーンへの街道を歩き始めた。
陽が天辺になる前に野営跡に着くことができた。
残してきた荷物は、少し荒らされていたけど、だいたいは揃っていた。
サラサさんはそれからは何も言わずに、村まで戻った。
また宿に世話になり、下仕事をして眠った。
そして次の朝。
サラサさんが、村のはずれで亡くなっていたと、村人から伝えられた。