半端もの
2022/9/13改稿 筋に変更はありませんが、表現を変えています
野営で休息していたとき、ネモが小声で話しかけてきた。
「おい、起きろ。様子が変だ」
シュガンはすでに遠くを警戒しながら家族を起こしにかかっていた。
「なにがあったんですか」
「森の様子が変だ」
街道から少し離れたあたりから森となっていた。
「生き物の気配が薄い。こんなことは、あまりない。暗いが出立する。用意しろ」
「は、はい」
そうして身支度をすると、家族の用意を手伝い始めた。
子供たちが眠そうな顔をしつつ不安な表情でいた。
「嫌な感じがするので、皆さん、申し訳ないがついてきてもらいたい」
「なにがあったんですか」
父親が当然の疑問を告げる。
「何かはわからないが、よくないものが来る感じがする」
「旦那、こいつのこういう読みはよく当たる。信じていい。おれもそれで助かったことが多い」
「そうですか、わかりました」
荷物をまとめ終えると、暗い夜道を歩き始めた。
どうしても闇のように暗くなるところがあるので、持ち火が欠かせない。
先頭をシュガンが歩き、家族、自分、ネモの順で進んでいた。
少しするとネモが焦るような口調で呼びかけた。
「まずい、追ってきているようだ」
時折、道の脇に迫っていた森から、なにかが動いている音がするようになってきた。
「ユーリ、男の子を抱えて走れ」
「は、はい」
そういうと、ネモは女の子を抱えて走り出した。
そうして全員が走り出し始めた。
しかし、走り出して間もなく、奥さんが転んでしまう。
「ああっ」
ネモが立ち止まり話しかける。
「奥さん立って、走って」
「は、はい」
「置いていける荷物があるなら…」
そう言いかけた時だった。
嫌な気配をした何かが姿を現した。
暗がりから少しだけ見せた姿は、今まで見たことがない不快なものだった。
「な、なんだあれ」
シュガンの声が聞こえた。
「半端もの、か」
と、ネモが漏らす。
「それって、なんですか」
「人でもねぇ、生き物でもねぇ、なりそこないってやつでっせ」
シュガンが、持ち火を増やすと半端ものに向けて投げつけた。
半端ものは火にひるむ様子を見せずに、少しずつ近づいてくる。
「こいつ」
シュガンが、最後の持ち火を投げつけると、剣を抜いた。
「シュガン、よせ。刃は効かないはずだ、そこらの石でぶつけてみろ」
街道脇に捨て置かれた石などがぶつけられると、少しばかりひるんだような感じがする。
「効いてるな」
ネモがつぶやく。
半端ものが少し縮んだかといえば、さらに縮んでいった。
「食らいやがれ、半端ものめっ!」
シュガンが叫びながら、あたりに転がっている石ころなどを投げつけていた。
次の瞬間一気に膨れ上がり、前にいたシュガンに覆いかぶさっていった。
「コイツ・・・」
シュガンが叫ぶ声は聞こえなくなった。
「シュガン!」
ネモがこちらを向く。
「逃げろ」
自分と家族は後ろを振り返ることなく走り出した。
そしてひたすら、ひたすたまっすぐ走り続けた。
おそらく恐怖を感じていたのだろう、気が付くと周りにはネモや家族はいなかった。
暗がりの林の中に、自分一人だった。
息を整え山刀を構えると、元来た道をゆっくり戻った。
思いのほか走りすぎたのか、誰とも出会わないままに街道まで出てしまった。
そのころには、少し明るくなってきたためか、うすぼんやりと周りが見えてきた。
道なりに戻っていく。
家族が持っていた荷物が捨て置かれていたので、手に取りつつ歩いた。