情けは人の為ならず、とは
目が覚めると、そこは少し暗い小部屋の中だった。
おなかが減ってしまい、ひどくひもじい。
あらためて小部屋の中を探し回る。
食べ物は見つからなかった。
ほんとうに何もない。
出口になりそうな扉も窓もなかった。
どこから入ったのだろう。
そんな謎に迷い込もうとした時だった。
頭の上のほうから、なにか足音が聞こえた。
すると、天井の一角があいた。
「相変わらずここは臭いな」
聞き覚えのある声が響いた。
「クリストの、大丈夫か」
「…ええと、ゲンローさんでしたっけ」
「そう構えるなよ、こうなると思わなかったんだから。まあ、あがってこい」
天井から縄梯子がたらされた。
それを頼りに上がっていくと、そこにはゲンローと知らない男が立っていた。
辺りを見渡すと、小屋だと思っていたのは地面に半分埋まっている箱のように思えた。
少し離れたところには、天幕と呼ばれる、野宿をするなかでは贅沢なものがいくつか並んでいた。
「これって、なんですか」
「まあ、知らん方がいいさ。知ったら、ここで働くか死ぬかの、どっちしかない」
知らない男は周りをうかがっていた。
「ゲンロー、そろそろ来るぞ」
「クリストの、ああ、名前は言わなくていい。知ったところで変わらんからな」
つくりの悪い網袋をよこしてきた。
「たぶんお前さんの荷物だ。申し訳程度だが、食い物を足してある。これで、ここから逃げろ」
「え?」
「ちょっとな、あいつらのことが面白くなくてな」
「おい」
「わかった。着替えるのは、あの森に入ってからにしろ。このあたり、魔物は少ない。朝までには、森の向こう側まで抜けてしまえ。そしたら、ドゥーンが見えてくるはずだ。いけ」
「……はい」
「商隊を引いている奴らなんて、あまり信じるなよ」
その言葉で、森に向かって走り出していた。
森の際まできてふりかえると、ゲンローと男の姿は見えなくなっていた。
暗い森を見る。
まっすぐに突っ込んでいく。
幸い、夜の陽が差し込むほどに明るかったので、木の根にさえ気を付ければ走れないほどではなかった。
少し入ると、袋の中の荷物を確認する。
使っていた道具や得物には間違いなかった。
それらを身に着け、袋に入っていた何かの果物を口にした。
少しだけ腹の減りが収まると、また駆け出す。
そうして、夜明け前には森を抜けることができた。
森を抜けてしまうと遠くには、ついこの間までいた、見覚えのある街並みが見えてきた。
そして日の出過ぎには、斡旋組合ではなくフンバルの店にたどり着いた。
店の裏口に立つと扉をたたく。
「なんだ、朝っぱらからうるさいぞ」
「助けて下さい、フンバルさん」
「ああ?」
扉があく。
「おー、ユーリじゃねぇか。それにしても、助けてくださいって尋常じゃねぇな」
「イコンに向かう途中で、商隊に襲われたんです」
「商隊、だと?」
「はい、でも。ここで働いたことがある、ゲンローって人が逃がしてくれました。知ってますか?」
「知ってるも何も」
フンバルはひとつため息をつく。
「おれの息子だからな」
なんとか、なんとか。
それにしても、筆が滑りまくるのは、どうしてでしょうか?
謎です。