おぼろなるままに
あらゆるものが輪郭を失い、おぼろげに歪む景色。
白く、淡く、なにものもが溶けていくように思えた。
ふいに黒い影が目の前を覆いつくす。
そして、持ち上げられる感じがし、いびつな音が拡がる。
だからといって、不安よりも安心を感じる、不思議な気持ちになる。
くすぐったい感じが満ちていくと、声が漏れる。
その声は声に聞こえず、やはりいびつな音になる。
口元に何かが押し付けられる。
どうするかは、わかっている。
ひたすら吸い込む。
口になにか暖かいものが拡がる。
それを飲み下していく。
いつしか満足すると、ひたすら眠くなる。
心地よい世界へと還っていく。
白く淡い世界に還ると、無性に空腹を覚え、口からはいびつな、大きな音が拡がる。
そして、また黒い影が目の前を覆い、何かが押し付けられると、吸い込む。
満足して心地よい世界へと還っていく。
何度目だろうか。
失った輪郭を世界が取り戻し、形を成してきた。
黒い影だったものは、人の形をしていた。
泣くと寄ってきては何かと話しかけてくる。
音だけが並ぶばかりで、何もわからない。
それでも、おなかは空いていく。
いつだろうか。
気が付くと何か小さいものが近くにいることがわかった。
いびつな音がもう一つ聞こえてくるのだ。
ようやくその方をみることができた。
小さな人の形をしたものだった。
その形も、やっぱりいびつな音を出すと黒い影が寄ってきては、なにかしていた。
いつしか、その小さなものの面をみることができた。
サラン。
そうか、サランと僕は本当の兄弟だったんだ。
同じところで育った子供でなく、血の分けた兄弟だったんだ。
はじめて僕は、サランとのつながりを強く感じた。
だから、探し続けているんだ、僕は。
そして、あの黒い影は母親か。
顔が思い出せないのは、覚えてない、からなのか。
目を覚ますと、僕は泣いていた。
暗い中でひとり、僕は泣いていた。
そしていつしか、また眠っていた。
遅くなったうえに文字数が少なくすみません。
思いのほか書く環境が作れなくて。
なるべく日曜までには、もう1話あげたいと思います。