その日は晴れだった
振り返ると、そこにはひとりの男が立っていた。
人が近づいてくる様子を感じなかったので、思わず息をのんだ。
叫ばなかったのは、自分をほめたいと思う。
驚いた様子は隠すことなく、男の様子をうかがう。
山刀を腰につるし、手には弓を下げている。
狩人を生業としている、そのように感じた。
そして、弓がいつでもこちらに向けられるようにしているのがわかった。
「なにかに襲われたらしいんだ。だから道の脇に埋めたよ」
「そうか」
男はそういうと、辺りを見回していた。
「5人、か」
「そうだね、そこにいるよ」
小さな山のようになったところを指差していった。
「引いてた何かまでは、まだ手が回ってなくて、あそこに残っているけど」
男が、少し離れたところにある食い残しをみる。
ようやく目線をはずしてあたりを見回している。
「おれは、ゲンローという。商隊の護衛をやっているんだが」
商隊の、これか。
「この商隊が、そう?」
「いや、うちの商隊は、これからやってくる。それに、もっと引き車の数が多い」
「仲間じゃないんですね」
「ああ。そして、おれはミサキだ」
「みさき?」
「ああ、難避けだな。商隊が通る前に、害になる獣や野盗を取り除くのが俺の仕事だ」
「へえ、そんな言い方をするんですね。守人の仕事はほとんど縁がなかったので、よく知らないんです」
「なんだ、お前も請負人だったか」
「ええ、クリストの出です」
「俺はドゥーンの出だ」
いままでいた街の出、ならば知らないはずはない。
「昨日までフンバルって人のところで仕事してました」
「金物屋のフンバルか。あいつ、まだ生きてるのか」
「やっぱり知ってますか、あの人」
「金物磨きをひたすらやらされたな」
「昨日まで、年の半分以上やらされていました」
「そりゃ、同情するわ」
あの人のことを知っているなら、本物の請負人だろう。
そんな話しをしていると、丘の向こうから何台かの引き車が現れた。
「あ、うちの商隊が来たな。ところであれ、手伝うか」
食い残しを指していう。
「いえ、行きがかりなので、やりますよ」
「そうか、俺は先にでないとならないから、ここでな」
「はい、お元気で」
「お前もな」
ゲンローはそういうと、引き車になにか合図を出すと、ドゥーンに向かって走り出した。
少し遅れて引き車が通りすがると、中から商人らしい男が顔を出した。
「こんにちわ、大変ですね、なにかお手伝いしましょうか」
人が死んだ場所には似つかわしくない軽い感じで話しかけてきた。
「いいえ、大丈夫です」
「ああ、そちらの引き車の荷物、引き取りましょうか。引く動物もいないようですし、どうですか。少し上乗せしますが」
「その荷物は、僕のものではなく、殺された人たちのものですから、次の町で引き取ってもらおうかと思ってます」
「ああ、そうだったんですね」
「あれの始末もやるところなので、先に進んでください」
「そうですか、でもせっかくなのでね」
男の表情が変わった、ように思った。
なにか、右手が振られたとき、なにかが眼の端に黒いものを感じた瞬間、気を失った。
次に目を覚ましたとき、ひどく低く感じる知らない天井が目に入ってきた。
「…いっつ…」
首の付け根がひどく痛い。
「ここ、どこだ?」
辺りを見回すが、誰もいなかった。
引き車の中と思ったけども、動いてはいないようだ。
小さな小屋に入れられているような。
そんな感じがした。
よく見渡すと、出入りできるような扉や引き戸はなかった。
雑に作られた壁に、気持ちばかりの明り取りが作られていて、薄暗くとも真っ暗闇ではなかったのは、少しうれしかった。
体を見ると、持っていた荷物はなかった。
思い出した。
商人に襲われたんだ。
商人本人ではないだろうけど、商人の仲間だ。
でも、ゲンローだっけか、あの人からは悪意は感じなかったのだけど。
ああ、こんなときは変に騒がないほうがいいと、たまり場での会話を聞いたことがあった。
慌てて騒ぎを起こしても、いいことはなさそうだ。
こうして置かれているということは、すぐに殺されるということもないだろう。
変に気が抜けてしまい、いつの間にか寝入ってしまっていた。
ちょっとイレギュラーがありまして。
投稿できる間ができたので、繰り上げしました。
なので、次回は4月9日ごろになりそうです。