遭遇
予告どおりに、なんとか滑り込み。
いつだったろうか、どこかの斡旋組合の請負人たちが話していた。
おかれたままになっている引き車にすぐに近寄ってはいけないと。
引き車を襲ったものが、次の獲物を待ち構えていると。
その場に動かずに、あたりの様子をうかがう。
風が吹き通る音しか聞こえてこない。
「いない、か?」
丘の先や引き車の向こう側をうかがいつつ、少しずつ近づいていく。
引き車の陰になったところに、倒れているなにかを見つけた。
「う」
請負人の仕事をしていても、死んでる人を見るのはそう少なくないけど、こればかりは何度見ても慣れない。
引き車の向こう側まで、ゆっくりと覗き込んでいく。
商人らしい恰好をしたのがひとつ、剣や槍をもったのがふたつ、よくわからないのがふたつ、横たわっているのを確認した。
引き車の中を確認すると、荷物が散乱していた。
少なくとも、襲ったなにかは見当たらなかった。
次に引き車を背にして、辺りを見渡す。
道の少し先に、何かを食い散らかしたような塊が残されていた。
何かが何かを襲って食ったのだろう。
何かなんてわかるようなものは残されてなかった。
襲われたほうは、おとなしい生き物だったのだろうというくらいしか想像できなかった。
襲ったほうは、何か集団で襲ったのだろうか、いや、それなら人も喰うだろうから、大きい寸法のなにかなのかもしれない。
「大丈夫、かな」
人が喰われてなく、動物だけが喰われていることを考えれば、すぐに襲われることはない、かもしれない。
襲うには十分な時間をかけているだろう。
うん、何かがいるという気配はなかった。
「さて、どうしようかな」
このまま放置するのも、心残りになる気がした。
「埋めてやるか」
道の脇の、少し斜面になっているあたりに穴を掘ることにした。
幸い、引き車の中に土堀りに使う道具もあったので借りた。
全部で5つの穴を掘る。
陽も天辺を過ぎ、力仕事だったので、荷物の中に水と食い物があったのを少しばかりいただくことにした。
「埋めてあげるんだし、報酬だと思って勘弁してな」
身元が分かるような品を確保し、他の荷物とまとめておく。
それぞれの穴に、それぞれの体を埋める。
少し大きめの石を、なんとなく土山の上に置いた。
「なんとなく、だな」
さて次に引き車を引いていた生き物の塊をどうしようと、考えていたときだった。
「おい、これどうしたんだ」
振り向くと一人の男が立っていた。
腰には山刀を下げ、手に弓を、いつでもこちらに向けられるような構えで。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
次回、早ければ4月5日ごろになりそうです。
私事都合ですが、引っ越しがあり投稿できるタイミングが少し飛びます。
来月以降は、投稿環境が良くなると思いますので、更新頻度は上がるかもしれません。
2022/3/21 一部修正しました。あらすじには影響しません。