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ハーレムは目指さない!~異世界探訪記  作者: ウルカムイ
第六章 万物流転の常ならぬ世
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ドゥーン

クリストを発って100日ほどが経った。

僕はイコンに向かう道の途中で足止めにあっていた。

途中立ち寄った街で、何気に頼まれた仕事にてこずっているためだった。


「フンバルさん、なんですか」

「ここの厚みが気になるんだ。だからもう少し磨きなおしだ」

「またですか、いい加減にしないと穴が開きますよ」


紹介状を元に、ドゥーンという街の斡旋組合で仕事をもらった先で、金物製品の磨き上げという、一風変わったことをやらされていた。

フンバルという金物職人は、鋳出した金物を磨き上げては売るといった仕事をしていた。

刃物というよりは、生活用品や大掛かりな仕掛けの部品といったものを取り扱っている職人だ。


「このあたりなんて、もう薄くなっていて、また穴が開いちゃいますよ」

「中に明かりをともせば厚みが残っているところが分かるだろ」


大抵のものは簡単に磨きあげるだけだったが、丸灯籠と呼ばれる灯火器はとても薄く仕上げなくてはならなかった。

そのため、時間がかかる羽目になっていた。

仕事は日毎払いだったため、安くたたかれることはなかったが、代わりの請負人に来てもらうのも断られ、組合からも変わりを出せないといわれたため、続けて請け負うしかなかった。


「わかりました、灯をつけてみましょうよ」

「やってみろ」


明かりを点すとムラがあって、きれいな薄さは確かに出てなかった。

が、今まで仕上げたものと比べても遜色ないものではあった。


「んーむ、やっぱりここが暗く出てる」

「いままでのものと、そんなに変わらないじゃないですか」

「いや、ここは磨けばもっと明るくなる、まだ削り込んでももつから、やってくれ」

「じゃあ、このあたりを磨くことでいいですか」


少し暗くなっているところを示す。


「おう、そうだな、そのあたりやってくれ」


フンバルという人は、特に丸灯籠へのこだわりが強かった。

なんでこだわるのかを聞いたとき、皮じゃ燃えるんだよ、ということだった。

世間に出回っている丸灯籠は、動物の皮をなめしたものを薄く削って油に浸して乾かすを何回か繰り返したものが使われていた。

ただ、油を使っているだけあり、燃えやすかった。

だから、金物を使うことは理にかなったものであるけど、なにしろ薄く作り上げることが難しく、削っては磨くということを繰り返すしかなかった。

始めたころは、削り過ぎて穴を開けてしまうことが多かった。

削り屑やしくじったものは鉄火場にもどせば、また使えるのでだめにすることはなかったけども。


「穴が開きますよ、きっと」

「かまわん、また新しいのでやればいい」

「そうですかそうですか、わかりました」


最初のころは、しくじると申し訳ない気持ちが強かったけども、おまえしか頼めないんだと何度も言われると、すこし余裕というか、立場が強くなる感じがあったりもしたけど。

それから丸1日かけてなんとか仕上げて、次の丸灯籠に取り掛かるのだった。

そして、さらに40日ほどたったころ。


「これは終わりましたよ。次はどれですか」

「お、そうか。……もうないな、全部仕上がった」


どこまで続くかと思われた丸灯籠磨きだったがようやく終わったと、わかった。


「じゃあ、これで終わりですね」


寂しさなんてものはひとかけらもなかったが、なんか気が抜けた気がする。


「じゃあ、依頼表に認めを」

「なあ、お前さ。手の使い方がいいから、うちで働かないか。請負人なんてやってるより、よっぽど金になるぞ」

「え?いや、人探ししているんですって言ってたじゃないですか。それなのに、1年の半分以上も」

「ああ、そうだったな。ほかの請負人だと、満足な仕上げができなくてな。お前は、まじめにやってくれるからな」

「道端の明かりにするといわれたら、手を抜くわけに行かないじゃないですか。みんなのためになると聞けば、なおさらです」

「そういってくれるやつは、なかなかいねえよ」


あらためて依頼書を突き出すと、しぶしぶ認めを入れたフンバルだった。


「弟子とかいないんですか」

「滅多にこねぇし、きてもいつかねぇ」

「その口が悪いからですよ」

「そういうことをいうお前も、な」


身の回りを片付けて、自分の荷物をまとめる。


「じゃあ、いきますね」

「おう、世話になった。もし、ここに来ることがあれば、きてくれ」

「仕事はごめんですよ」

「やってもらうに決まってる。そんときは、出面として真っ当に払ってやるよ」


やっかいな人だった。

それでも、もってる技は確かなものを持っているから、習うことが多かった。

それは、ほかの仕事にも通じることだった。

それだけに、足止めにされて面白くないながら、断りきれないなにかを感じた。

それから久々に斡旋組合に顔を出し、仕事の報告をした。


「フンバルのところを逃げ出したと思っていたよ」

「そんなわけないじゃないですか。大変でしたけど」

「またドゥーンにきたら、顔出してくれな」

「なんでですか」

「そら、あのフンバルのところでやりきる奴がいないからな。あんたはドゥーンの宝だよ」


そんな笑いながらいわれてもな。

組合に一晩世話になってから、ようやくドゥーンの、いやフンバルの呪縛から解放されて、イコンに向かう。



晴れた空のもと、草の原のなか小さな丘を避けて曲がりがつづく道の途中。

開けた先に1台の引き車が横倒しになっていた。

3月に入りめっきりと春めいてきました。

次回は、3月19日の予定です。

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