うたかたのあしあと
祠から抜け出したら、周りはすっかり明るくなっていた。
屋敷のほうを見ると、ちらほらと動く人たちがいた。
取り囲むような塀をたどるようにして、体ひとつ抜け出せるような隙間を見つける。
通りのようなところを出ると、山がある方向へと一目散に駆け出していた。
見知らぬ街を抜けるのは容易ではなかったけど、思い出した加護を駆使しつつ山に潜伏することができた。
ツッチーらしき土人形が再び動き出すことはなかったけども。
山の斜面を作り変えて、いつか作ったマンションのような規模にし、罠を張り巡らした奥に住処を確保した。
何度か捜索に来たと思われる冒険者のような風体の人間たちがきたけども、罠で埋め尽くされたエリアを超えてくることはなかった。
土人形も何度か作ったろうか。
自律で動こうとする土人形はできなかった。
石人形さえいれば、身の回りの補助は可能だったので、それほど作り出すことはなかった。
食べ物は、加護が効いているのか、大した耕すことをしなくても、人ひとりが暮らしていくのには十分すぎるほどだった。
山の斜面に亀裂をつくり、そこから太陽光を引き込んで作った地底の池みたいなところでうまく反射させると山の中に作った畑を照らすのに十分な光量を確保できた。
ガラスではばれるので、透光性のよい材質で壁を作るのには、かなり苦労したけども。
そういえば、何年か犬のような生き物が紛れ込んできたことがあった。
いつしかいなくなってしまったので、どこか隠れて寿命を迎えたんだと思った。
寂しさはまぎれたけど、いなくなったときは格段に寂しさが募った。
そのあと、たまに迷い込んでくることはあったけど、すぐに外の世界に逃がしてあげていた。
いくつ季節が廻ったかわからない。
もう長くはないと実感だけはあった。
死んだらどうなるんだろう、という不安はあった。
一人で死ぬのは嫌だと思ったのか、自分が寝ているベッドの周りには、何体もの石人形が取り囲んでいいる。
人間ではなくても、たとえ作りものでも、動いているのはなぜか安心できるものだった。
次に目が覚めることはないんだろう。
漠然と感じつつ目をつぶろうとしたとき、目に飛び込んできたのは、あの片腕が取れた土人形だった。
部屋の棚に置いておいたはずなのに、いま目の前に顔を覗き込むようにしている。
ツッチー。
声にならなかった。
ここしばらく、本当にしばらくの間、声をだすことがなかったからなおさらだった。
それでも、目の前のツッチーは優しいまなざしをしているかのように、見つめてきていた。
残った片腕を、額に当ててなでるようにさすってきた。
暖かい心地になりながら、目をつむる。
次回1月22日ごろになりそうです。