第七話「ゴブリン襲来」
リボルバーを完成させた二日後の午後の夕暮れ時。
オレたち二人はリボルバーの試射、ミーナの魔術の練習をこなしていつも通りの帰り道を歩いていた。
そして分かれ道に差し掛かかる。
右に曲がれば孤児院、左に曲がれば村長の家で毎日ここで別れる。
「じゃあ、また」
「うん、ねぇ、今度から静かに練習しようよ」
「え~と、ごめんね」
――――ん?
孤児院に向かう道の方から馬車が走って来るのが見えた。一人の初老の女性が凄いスピードでこっちに近付いてくる。
よく見ると荷車に小さな子供と赤ん坊が乗っていた。
死に物狂いで走ってきたので、ただ事ではないなと思った。
「医院長先生?どうかしたの?」
「おお!レイクード様、それにミーナも、無事だったのね」
「ええ。ぼくたちは何ともありませんが、どうしたんですか?」
「ゴブリンの群が襲ってきたのです!!これから村に知らせる所ですので、二人とも乗って下さい」
「な!?」
ゴブリンが!?そんな馬鹿な!
定期的に自警団の人が見回っているし、人が足りないときはサリサとレンヤが行っているんだぞ。
どうしてゴブリンが?しかも群れ単位で!?
「せんせー、シャーリアたちがいないよー?」
「なんですって!!?」「!!」
子供もがそう言って急いで荷車にいる子供の数を数え始めた。
数え終えると、顔を青ざめた。何人かの子供がいない様だ。
すると、ミーナが孤児院に向かって走り出した。
「ミーナ!!ええいっ!先生は早く村に知らせてください!ぼくはミーナを追います!」
「子供だけでは危険です!!数十体はいるんですよ!?」
「誰かが知らせなければなりません。ぼくより馬に乗っている先生の方が早い。当然ぼくは、何もせずにただ待っていたら爺様に顔向けできませんので、その子を助けに行きます」
「あ、お待ちを・・・っ!」
彼女がどのような心境かは理解できない訳でもない。
けど実戦を経験していないのに一人で戦うなんて無茶だ。
ええい、なぜこうなる。
そうさ!「友は大事にせよ」ってんだろ、分かっとる。破ればどうなるかもな!
そしてオレもミーナの後を追って孤児院に向かった。
◇
俺はミーナを追って走っているが彼女が全然見えてこない。さすが獣人、足を強化した俺より速い。
これ以上の増速は無理だし、このまま行くっきゃねーな。
ミーナが住む孤児院は村の外れの小高い丘にある。
この孤児院は使わなくなった民家を改装して病院にし、そこで身寄りのない子供を育てている。
資金は、医者でもある先生の往診と子供たちがある程度大きくなって村や大きな街に出稼ぎで、賄っているらしい。
村外れで森との距離が近いので魔物には注意していたはず、しかも自警団が何回か森を巡回している。
だからゴブリンが来るはずがない。
なのに、どうして・・・・・・。
色々考えていると孤児院らしき建物に着いた。
燃えていた。
もう日は暮れて暗くなっているのに、周りを照らすほどの大きな炎を上げていた。
そんな中、俺はミーナと置き去りにされた子供を探す。
だが、索敵しても家の周りにはいない。
もしかして、家の中に?もし、そうならミーナが飛び込んだのか!?
水の魔術は使えなかったから、火を消すこともできない。
まずいな・・・・・・。
「きゃぁぁぁッ!!」
「こッ来ないで!!」
複数の悲鳴が家の横の平原が広がっている方向から聞こえた。
そこへ向かうと、孤児院がある丘の脇の下った先にミーナたちが居た。だがゴブリンの集団がミーナと三人の女の子を囲っている。
まだ生きてはいるが完全に囲まれている。
ゴブリンはチンパンジーに毛を無くしたような小さい体格で、耳と鼻がでかく、ボロ雑巾みたいな布を羽織っていた。その手には弓、短刀、斧、片手剣などの武器を持っている。
ゴブリンなどの魔物の好物は子供の柔らかい肉だ。
このままではミーナ共々夕飯にされちまう。
この状況では村に知らせに行った先生も間に合わない。しかも、今日に限ってレンヤもサリサも砦にいる。
サリサは獣人だから、早めにここに来れるかもしれないが、いやムリか。
くそっ。本当に嫌なときに実戦に遭遇しちまうとはな。
(ホントに実戦になっちゃったね)
(他人事みたいに言うんじゃねぇ!)
「ちぃ!やるっきゃねぇか!!」
オレは腰のガンベルトからリボルバーを取り出し、弾を装填しながら足を強化し駆け出す。
ミーナが倒したと思われるゴブリンも何体かいるが、それでも敵の数が上だ。
そんな状況でも、魔術を使い続けて相手に一歩も引かないと態度で示していた。
すると背後にいるゴブリンが一人の女の子に飛び掛かった。
ミーナには【魔術防壁】は教えていない。例えできたとしても展開している時間はない。
ミーナが女の子の盾になろうと抱き寄せた。
このままじゃ、刃に、当たる。
「させるかってぇのっ!」
ゴブリンとの距離は約30。
「あッたれぇぇぇ!!」
魔術では到底間に合わないと判断し銃を使用する。
銃の弾丸は音速を超えるから十分に間に合いつつ、無力化できるはずだ。
足の強化を解除し、今度は視覚を強化して命中精度を向上さる。
ダンッ!
撃鉄を上げて発砲。
この世界では聞き慣れない音が響いた。
弾丸はゴブリンに当たり、弾の運動エネルギーに負けて小さな体が吹っ飛んで、転げ回った。
「いよッしゃぁぁ!」
飛んでいる目標に当てるなんて芸当をやって思わず大声を上げた。
初めて聞いた音とオレの登場にゴブリン達が警戒し、殺意に満ちた目でオレを見ている。
その迫力に思わず硬直しそうになった。
しかし、覚悟を決め言い放った。
「おい!こっちだ!!こっちに来い!」
俺を囮にしてミーナたちを逃がす。
遠距離から攻撃していけば必ずこっちに来るはず。
少しぐらい敵が残るだろうが、問題ないだろう。
実際、何体かのゴブリンを倒したのだから、自力で逃げられる。
相手が魔物とはいえ人型の生物だが、ミーナたちを守るためだ。
(ただのゴブリンだから、落ち着いて対処すれば勝てる相手だよ!)
「相手が魔物なら人間じゃないんだ!ぼくだって!」
撃鉄を上げ、さらに発砲。
弾丸はゴブリンの額に命中した。
映画みたいに血は飛ばず、糸が切れた人形みたいに地面に倒れるだけ。
今のリボルバーの弾丸なら頭部また体の真ん中に命中させれば一発で倒せる。
視覚強化で目標が目の前にいるかのように見える。
「見える。見えるぞ!わたしにも敵が見える!」
しかし残弾はあと6発。対して、敵はまだ数十体。ゴブリンたちにとっては一瞬で6体の仲間が倒されたことになる。
だが、まだ数的には敵の方が圧倒的。
すると彼らは殺気立ち、こっちに突撃して来た。
「ギギャァァァァァァァァ」
予想通り半数以上がこっちに向かっている。
肌を叩くほどの咆哮と殺意で硬直しそうになったが、必死に押さえ込んだ。
怖い・・・・・・だが、読み通り。
一発で一体。銃なら不足だが、今度は魔術で一掃すれば何とかなる。
でもミーナたちが近過ぎるから今はダメだ。
それにまだ狙う相手も残っている。
弓を持っているゴブリンだ。
一気に殲滅する為に効果範囲の大きい魔術一発で決める。その為にも、ミーナたちを巻き込まないような広い場所に移動する必要がある。
その移動中に弓を持ったゴブリンに後ろから狙い撃ちにされないようにする。
数は4体。
シリンダーから空薬莢を押し出し、手早く次弾を装填した。
この6発で最後。
4発撃ったところで弓を持ったゴブリンは全滅した。
これで、十分だ。
「オレの射撃は正確だぜ!」
(そろそろ敵が近いよ!?)
俺はリボルバーをガンベルトにしまって、再度足を強化し、ミーナがいる方向とは逆に逃げた。
少し走って後ろを見ると、ゴブリンが丘の上に上がって来くるのが見えた。
よし、作戦通り。
孤児院の近くには民家も小屋もない。ただの草が広がっているだけ、そこまで離れれば周りに被害を出さない。
俺はクルッと身体の方向を敵に向け、魔術を発動した。
「【爆閃光弾】!!」
この魔術は前にマナを打ち出す【光弾】を風の魔術で高速で発射する俺独自で編み出した魔術だ。
強力な爆発で広範囲の敵を倒すのに効果的だ。
確実に倒すため前より力を込めて、手に光の球をつくりマナを魔石になるギリギリまで圧縮、魔力限界チョイ手前まで溜めて、ゴブリンの群れ中心めがけて発射。
最悪、敵が混乱してくれればいいが-------。
バッドォォーーン!
「うわっ!?――――――――」
球がゴブリンに着弾すると、もの凄い威力の爆熱と光が生じた。
その凄まじい爆風でオレも吹っ飛ばされて地面を転がった。
「痛ッたた。ちっと威力がありすぎたか?」
(さすがにやりすぎだね。見て見なよ)
ハルーツに言われ、爆心地を見るとクレーターができていた。
周りの草はクレーターの出来た穴とは逆の方に折れ曲がっている。
ゴブリンはいない。全滅・・・・・いや、消滅した、が正しい。
武器はその辺に転がっているが、ゴブリンの死体はおろか腕一本残っていなかった。爆風で吹き飛ばされたのかは解らない。
殺気だったゴブリンから逃げながらだったので、威力の調整をミスったかもしれない。
今後の課題に追加しておく必要があるな。それよりミーナたちは大丈夫か?
俺は元来た道を戻ろうと後ろを振り返る。
「レドーーっ!!」
女の子が走ってきた。
ミーナだ。
走って来たところではケガなどは無さそうだな。
「ミーナ。良かった。みんな無事・・・・うわ!」
「レドー。怖かったニャー、グスッ、ホントに怖かったんだニャー、えぐ・・・・・ふえぇ~ん!」
ミーナが泣き出してしまった。
すごい勢で飛びついてきたので俺もその場に倒れ込んだ。
彼女の子供らしい身体と、暖かい体温が体に染み込んでくる。
俺も生きていることを自覚することができた。
他の子も後から付いてきて泣きながら俺に抱きついてきた。
みんな怖い目に合ったんだよな・・・・・・生きててよかった。
無事なんだと確認でき安心したからか、ゴブリンの殺意で怖かったのか、俺も軽く涙がこぼれた。
俺は抱き付いてきた女の子やミーナの頭を優しく撫でた。
「みんな無事みたいだね。良かった・・・(グッ!)・・・あれ?」
起き上がろうとしたが、力が入らなかった。
この疲労感、魔力切れか。
無理もない。別れ道から身体強化で足を速くしたり、視力を上げたりしたし、オーバーキルの【爆閃光弾】まで使ったんだからな。
練習では思い通り魔力コントロールできていたが、実戦では雑になってしまった。
そのせいで無駄に魔力を消費してしまたみたいだ。はは、これではミーナに何も言えなくなっちまうな。やっぱり、実戦経験不足かな・・・・・。
俺は村の人たちがこっちに来たことを確認すると、経験したことのない睡魔が俺の身体から意識を奪い去った。
◇
ゴブリン襲撃のその夜、村長の家にサリサとレンヤが帰ってきて会議が開かれた。
爺様は砦から離れられないからサリサとレンヤが代行した。
議題は当然。ゴブリンについてだ。
単独で人や家畜を襲うことは何度かあったが、集団で襲ってきたのは今回が初めて。
第一、森を見回っているのに村近くに出現したこと自体おかしいことだった。
村始まって以来の大事件だったのだ。
幸い、気絶した俺を含めた全員無事だった。これはかなり幸運な結果らしい。
そして会議の結果、森の巡回を一か月に二回から四回に増やすことが決まり年に一度の祭りも見合わせになった。
自警団の数が少ないので、サリサかレンヤが定期的に見て回ることになった。
そして、この二か月間、魔物の発見は無い。
だが、魔物より面倒なことになった。
「ゴブリン襲撃事件」の時に助けた3人の女の子からは、俺が作ったリボルバーや詠唱無しの魔術に興味を示し、何度もやって来るのだ。
最初は必要が無いので断っていたが、何度もまとわりついて来るし、ミーナもこの三人に教えて欲しいと頼んできたので仕方なく教える事になった。
今ではミーナの他に3人も教える事になってしまっている。
それ故、師匠なんて言われるようになった。
当然リボルバーの件と無詠唱の事を秘密にするように厳命した。
人を殺すための兵器を作って言うのもおかしいが、目的は自分や家族を守るために作ったものだ。彼女たちにはできるだけ使用しないで、自分が必要だと思った時に使うことを約束させた。
今後、周りから言い寄る奴らは増えるだろうが、まだ先の話。
今の内に彼女達を強くしなければ、自分で身を守れるくらいに。
「師匠。できました」
「どれ?見て見ましょう・・・・・・・・・・」
この水色の短髪の女の子がシャーリア。
彼女は銃に興味を示したが、女の子で子供だから今はまだ扱えない。
と、言っても二つ年上だけどな。だからまず身体強化の魔術を教えて、魔力の限界になったらリボルバーの構造の説明、整備の仕方や、俺と基礎鍛錬をしている。
彼女はいつも孤児院の掃除をしたり、料理の手伝いから大きくなった子の服のサイズ調整までしている。みんなをまとめるお姉さん的存在だ。
手先が器用だと思い、今では自分の力で銃を整備できる様に教えている。
「・・・・・・・問題なく作動します。完璧」
「ありがとうございます」
「見て!見て!強化してこんなに高く跳べたよ」
「おお、高く跳んだね。でもあまり高く跳ぶと木にぶつかるぞ?」
シャーリアの次に、元気で活発な頭にウサギ耳のを付けた女の子がヘーレン。
赤に近いピンク色の髪、その頭にウサギのような長い耳が特徴の獣人で、遠くの音を判別する能力を持っている。狩りなどに役立つため孤児院の食糧調達の時によく連れていくらしい。
ヘーレンもミーナと同じく、小さいときに捨てられた過去がある。
明るい性格なので友達も多かった。
彼女は教えた事をすぐに吸収して実行する天才型かもしれない。
無詠唱を、ミーナでも一日なのに、ヘーレンは数時間でマスターする程だ。
これなら銃も難なく扱えそうだ。
ゴッツン!「きゃわ!」
「はあ・・・・・(汗)」
だが、ちょっと抜けてる部分がある。
こうやって、褒めるとすぐ調子に乗って足を踏み外す傾向がある。
今回だって注意したのに高く跳びすぎて木の枝に頭をぶつけた。
落下していく彼女に、俺が風の魔術で受け止めようとした。
が、必要なかった。
次第に落下していくヘーレンがゆっくりになって、そっと着地した。
ヘーレンは涙目で、ぶつけた頭を押さえている。
「ふう~。ヘーレンが調子に乗って頭をぶつけたみたいですね」
「ゼミル、いつも通りヘーレンで治癒魔術の訓練をして。それと、見事な風の魔術だったね。上手く調整したみたいだし」
「はい~♪」
木の枝に頭をぶつけたヘーレンを治癒魔術で治しているのが、紫色の髪で日常は「ボケー」としているが実は冷静沈着な頭脳系の女の子ゼミル。
年は俺より一つ下。
彼女は銃より詠唱無しの魔術に興味を示した。特に治癒や強化などのサポート系の魔術を知りたがった。
本人は体力に自信が無いから状況を分析して戦況を考える軍師的立場だ。
冷静沈着で、掴みどころがわからない性格の彼女にとっては適材適所かな。
でも実は陰で努力している頑張り屋な一面を持っている。今では簡単な治癒や風の魔術も詠唱無しで発動できる。
この3人は仲良しで、最初はミーナとは関わらないようにしていた。彼女の目もあるが、レオルやイジメたちの影響で話しかけるのが怖かったらしい。
でも、俺がレオルたちを何とかしたから、話しかける様になり少しずつ友達になって前より楽しく暮らせるようになった。
だからゴブリンの襲撃の際、ミーナは真っ先に駆け付けたのだ。
当のミーナは―――。
「れ~ど♡」
「うは!おい、ミーナ!!作業中に突然抱きつくなっていつもいっているだろ」
「えへへ♪---------ゴロゴロゴロ」
「えへへ、じゃない!褒めてないから。こら、くすぐったい」
「だって落ち着くんだもん♡」
ミーナが俺の後ろから抱き付いてきて自分の顔をこすり合わせている。
彼女に耳が柔らかく顔を左右に振るたび耳が当たりくすぐったい。羽箒でくすぐられているような感じだ。
自分にかまって欲しい小動物みたいにアプローチしてくる。
俺は「ハァ」と、ため息をついて手を止め、顎のあたりをなでてやった。
すると彼女は気持ちよさそうに「みゃふ~」と言って草むらにゴロンと転がった。
前は友達ぐらい距離感だったのに、今ではベッタリだ。
このように抱き付いてくるのは当たり前で、俺が油断していると顔をなめまわす程になった。これには参った。
分かれ道の時は必ず正面から抱き付いて、匂いを嗅いでくるし。
ゴブリン騒動から三人も負けず付きまとって来る。
「ねー、今日は何を作っているの?」
変な姿勢でミーナが聞いてきた。
彼女の言葉で三人も興味津々らしく「私も聞きたい」と言って近寄ってきた。
「ああ、アサルトライフルだよ」
「「あさるとらいふる?」」
(なにそれ?)
4人の他に、ハルーツまで聞いてきた。
俺は「出来てからのお楽しみ」と言って、マジックバックから制作中の試作品の部品を取り出した。
そして、まだ作っていない部品を錬成するためにゴミの山から資材を探し始める。
俺自身も完成が楽しみだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




