第四話「剣術の稽古」
俺は五歳になって、誕生日に小さなパーティが開かれた。
この世界には誕生日を毎年祝うという習慣はないらしいが、貴族は一定の年齢に家族で祝うことがある。
その一定の年齢とは、五歳、十歳、十五歳。そして成人の十七歳。
爺様からは小さな短刀をくれた。
五歳児の子供に刃物を贈るのはどうかと思うが、貴族は何かと危険なため護身用に持たせるらしい。
前世の法律上では考えられないことだ。
「今は短刀だが、成長したらお前に相応しい剣を与えてやろう!」
「はい、ありがとうございます」
「うむ!ついては剣を持つことへの自覚と覚悟をだな――――」
あ、これは話が長引きそうだな・・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・30分後。
爺様はニコニコ嬉しそうに話していたが、エレナ母さんが「長いから後にしましょう」と、窘めた。
爺様は苦笑して「う・・うむ!では今度話をしよう!」と締め括った。
「レドはよく書斎で本を読んでいたわよね。本が好きみたいだから」
エレナ母さんからは一冊の本をもらった。
手渡されたのは、錬金術に関しての本だ。
これを見た時に、思わず「おお」と声をあげてしまった。
この世界では本は高価な物だ。
製紙技術はあっても、コピー機など印刷技術が無い。
錬金術で模写しても文字の量が多い事と、魔力などが影響で文字化けする。
手間だが手書きの方が効率が良い。
その為手間が掛かるから、分厚い本は結構値が張る。
なのにこの本は相当厚くて、錬成陣も描かれていて丁寧に説明してある。書斎で本を読んでいたが、ここまで解りやすく、載っている資料も屋敷の本では見たことがない錬成陣が多い。
そこいらの店でも扱っていないような代物だ。
一体どれだけの値段がするものやら。
「ありがとうございます、母さん。大事に読ませていただきます」
そう言うと、母さんが抱き寄せて頭を優しく撫でてくれた。
メイド3人からはバックをもらった。
背中に背負うタイプのモノだ。
「バック?ですか?」
「マジックバックと言います。これは自身の魔力に影響され、入る量が決まっています。食べ物は入りますが、生き物を入れることができませんので注意してください」
ドラ〇もんの四次〇ポケットみたいなもんか?便利なものがあるもんだな。
これは良い物をもらった。
「サリサ、レンヤ、セディありがとう。大事に使いますね」
満面の笑みを込めてお礼を言うと、3人とも『どういたしまして』と言った。
サリサに至ってはフワモコの尻尾をパタパタさせている。
犬が嬉しいときに、尻尾をパタつかせるみたいだ。
◇
誕生日の翌日から、剣術の稽古がはじまった。
場所は中庭、領主の孫ならある程度戦えなければならないと半ば強制的にやらされていた。
別にそれ自体は問題じゃなかった。でもその“ある程度”がおかしい。
「・・カハッ!・・・・ハァ・・・ハァ・・・・」
「レド!この程度なのかっ!!ワシに触れてもいないぞ!」
「ハァ・・・も・・・もう・・・・無理です・・・・・・」
「お父様。もうこの辺にしておいては?」
「うむ・・・・そうだな。初日であるから、この辺にしておこう」
オレは大の字になって傷だらけで地面に転がっていた。
爺様に一歩的にボコボコにされたのだ。
すると、庭の隅で様子を見ていた母さんが治癒魔術で傷を治してくれた。
前世では剣道をしていたことがあるが、子供の身体の所為かもしれないが身体が思うように動かなかった。
でも子供に対してあんなにも厳しくする事ないと思う。
冷静にフェイントをかけながら爺様に対して木刀を打ち込んだのに、素手で止められ、思いっきり俺の腹に拳を打ち込みやがった。
腹を抱えて倒れているのに、「まだ来い!」などと言って止めてくれない。
結果オレが攻撃して返り討ち、のサイクルが何十回も繰り返されて結局体中ボロボロになるまでやらされた。
子供でもフェイントして攻撃する奴なんて、そうそういない筈なのに。
「レド様は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。まだ初日だし、お父様も無理はさせないでしょう」
母さんと一緒にいたサリサが心配してくれるのは嬉しいんだけど・・・・。
次は気絶させられそうだ。
こうなったら治癒魔術も習得しておかないと不味いかも。
「母さん。今度でいいので、治癒魔術を教えてください」
「治癒魔術を?」
「もしもの事があった時に必要になるかもしれませんから」
「いいわよ。私でよければ教えてあげる。他にも催眠魔術が使えるから、隙を作る意味でそっちも教えててあげるわ」
「ありがとうございます」
これで何かあった時は回復できる。ゲームでもヒーラーは結構使うからな。
明日からはセディに算数、歴史などを教えてもらう予定だ。
読み書きの勉強は無しになった。
言葉も自由に話せるし本が読めるなら文字も大丈夫と言っていたから。
まあ、歴史以外なら必要ないと思う。
前世では小学校では成績上位だったし、爺ちゃんの所に来てから家庭教師を頼んでもらったから。
◇
聖暦536年。8歳になった。
この3年間の一日は、ほとんどが学びだった。
まず午前中は座学になっている。
基礎勉強に加えて、今度はサリサに戦闘の座学を学んでいる。
「今日は魔物の討伐ランク、つまり強さについて学んでもらいますね」
「ハーイ」
そう言うと俺の座っている机の上に一冊の本が置かれた。
オレが読んだ〈バルケット領の魔物の生体〉の本だ。
「レド様はこの本をお読みになられたのですか?」
「一応は」
「そうですか。では先にランクについて説明します」
魔物とは、人や獣人関係なく襲う魔訶不思議な生物。
一論では古代の遺跡から出てくるとも言われているが、真意は定かではない。
世界中どこにでも生息していて、この街の近くの森にも数種が生息している。
「ゴブリン」「ウルフ」「マッド・ラビット」「トレント」など。
ギルドの討伐ランクは最低ランクのDからC、B、A、S、そして最高ランクはWS(ダブルS)にランク付けされている。そして、それぞれのランクに+・-が付けられる場合もある。
「どうして+・-が付いたんすか?」
「はい。近年、世界で突然変異が多発しているのですが、その変異体の数が多いので、判りやすいくするためランクが付けられました」
「へー」
「+は突然変異で、-は突然変異体がさらに強く変異してランクアップしたものです」
つまりゴブリン【D】~ホフゴブリン【D+】~ゴブリンオーガ【C-】と言う感じになるらしい。
しかし、魔物の他にも厄介な存在が居る。
正体不明で、魔物とは全く違って人の言葉を話す存在。
魔族。
何より厄介なのは実体が無い個体も存在し、剣などの物理攻撃が効きにくく、四属性に加え精神攻撃までしてくる奴もいる。人の天敵とも言っていい存在だ。
以前話に出した、魔族だ。
魔族の場合、大抵高ランクではあるが、数百年前の戦争でほとんどが姿を消した。
数種類の魔族が生き残っているが、大抵は魔術でも倒せる。低レベルの魔族には、剣による物理ダメージもある程度効果がある。
そして、小一時間経過してサリサの座学は終わった。次はレンヤから礼儀作法を習う。
領主の孫だから貴族との交流に困るからと、数日前から教えてもらっている。
テーブルマナーとか王族に対しての挨拶の仕方、ダンスまで習うのだが、面倒な事この上ない。
「こう・・・・ですか?」
「もう少し腰を曲げて、腕の力を抜いてください。・・・・あと顔が引きつっていますよ」
前世ではダンスなんて学校の授業でもしたことがないんだぞ。
テーブルマナーなどは大丈夫だったが、前世の歳を加算しても生まれてダンスなんて一度もしたことない。
いくら練習しても、これだけはダメだった。
指導が下手な訳ではない。むしろ理解しやすい。
しかし、レンヤの手を掴んで一緒にダンスのレッスンをしてはいるが、こんな風に何度も指摘されている。
「うわっ!・・・・と」ポフッ!
足がもつれてコケてしまった。
最初にレンヤが倒れてその上に俺が乗っかる形になった。
ワザと倒れてくれたんだ。
オレは柔らかいクッション(胸)に受け止めてもらって痛くなかった。
「ごッごめん。レンヤ。大丈夫?」
「はい、何ともありません・・・・・」
そして、何事も無かったように立ち上がり、練習を続けた。
大変だが嬉しかった。
こんなラッキースケベ的展開もそうだが、前世では女の子に触った事もないのに、こんな背の高い美人とダンスのレッスンは俺にとっては夢のようだった。
だが、上達していく感じが全く無い。
どのような顔をしていいのか分からずさらに顔が引きつってしまうし。
これも小一時間経過して終了した。
その後に食事を取ったら自由な時間がある。その時には家族には秘密に魔術の練習をしている。
何故秘密にしているかというと、将軍としてのプライドが高くて、魔術は邪道と、爺様は考えているのだ。
それに自分はかなり剣術が強いから鍛え上げたいみたいだ。
もし、意見したら何言われるか分からない。
日常あんなにでかい声で話すのだ、怒る時は物凄くなるだろう。
(まあ、あの性格なら剣振り回して襲って来るかもね)
(魔物とかよりタチが悪い)
だから秘密に魔術の特訓をしている。でも治癒や回復魔術は許してくれた。
爺様も何かあった時使えれば、と納得したのだろう。
オレは秘密で魔術の特訓をし、四属性魔術を無詠唱で発動できるようにマスターした。
そして昨日思いついて練習を始めた。マナを圧縮し放つ【光弾】を練習する。
実は錬成初日に、マナをそのまま集めて魔石化しようとしたが、消えてしまった事があった。
それで、もしかしたらそれを攻撃に転用できるのでは?と考えた。
漫画でも気を打ち出すとゆう内容のものを見た事がある。
例え攻撃に転用できなくても何らかの思い付きのタネになるかもしれないので実験、研究している。
場所は屋敷の敷地に公園みたいな場所が有り、そこに林があるのでそこで練習している。
「おっし!練習開始だ」
(今回はさぁ?圧縮した球を回転させて撃ってみたら?)
お?良く気付いたな。俺もそうしようと思ってた。
最初はソフトボール位の光の球を投げる様に木に当てて試した。
その時は雪の玉が当たったみたいにチリになってしまって、木は傷一つ付かなかった。
そこで更に固く圧縮し、早く発射したらまあまあいけるが、完全に外した。
そして帰ってから考えたのだが、回転を掛けると安定する事を思い出した。
ジャイロ効果だ。
ロケットなどはフィンが付いていてそれで安定している。
しかし、フィンが付いていないボールなどは、風の抵抗を受けていろんな方向に飛んで行ってしまう。それで、回転する事でその風の抵抗を抑制しつつ、その飛ぶ物体を安定させることができる効果だ。
それを踏まえてやった結果、今日成功した。
爆発も強かったので、後は魔石になる直前まで圧縮率し、発射速度をもっと上げれば攻撃魔術になりそうだ。
(しかし良く分かったな。そうすることで球が安定するって)
(最初に発射した球には回転があったけど、次のは回転がなかったからおかしいと思って)
こいつもいろいろ見ている訳ね。知識の分量違いはあるが。まあ気付かない所の指摘程度にはなるな。
よし、もう少し練習するか。
(ッ!!見回りが来たよ」
なに?ちぃ、今回は速いな。
爺様は決まった時間に使用人を連れて町を巡回するから、バッタリ鉢合わせない様にその使用人に時間を聞いたり直に調べたりした筈なのに。仕方ない、今日は早めに切り上げるか。
この後の予定は特にないが、まっすぐ帰り書斎でいろいろ調べることにしよう。
◇
今日はマジックバックについて調べた。
仕組みは、召喚魔術の応用でバックの底に魔法陣が描かれている。その魔法陣を発動させ、固有の空間を形成してその空間に物を収納する。
自分のバックが違っていても、買い始めの物なら繋がる事がある。
バック自体を盗もうとしても魔力は個々に違っているので魔法陣が反応しない。
自身の空間だから、どっかから横やりで盗まれる心配もない。
(まさに四〇元ポケット!)
(ん?・・よじげん・・ぽけっと?)
(あ・・・何でもない)
前世の未来から来た猫型ロボットのアニメの話をしても理解しないだろう。
話を戻して、便利なアイテムだが当然、作るには手間がかかる。
この道具は魔法陣を使っているが、魔力を一切使用しない。
魔力を補っているのはドラゴンの翼。バックの繊維に使われている。
ドラゴンの身体は捨てる所が無い。
爪、鱗は防具に、肉や内臓は精力剤や治療薬など排泄物さえも畑の肥料にもなる。
他にもバックには高価な材料が使われて、魔法陣も複雑なので、普通に買えばとんでもない値段である。
しかし、貴族の間ではブランドバックを見せ合いっこをするような感じとしか見なされていない。「私のはどぉ~」「私のだって~」みたいに。金持ち同士の抗争で、もっと良い物を高い金を払い作らせるのが今の現状となっている。
(どの世界でも貴族は金に物を言わせているな)
(はは。君の世界もそうなんだ)
(今は貴族なんてないけど、高い金で身なりして、飯を食っている奴はいるな)
(へー)
しかし、ギルドに入れば、ある程度安く手に入る。
実際にゲームでも討伐した魔物が落とすアイテムを入れる物が必要だからな。
だが、それでも買えない奴がいる。現に、サリサも収入が増えた辺りから買える様になったらしい。
しかも、それだってバックと言うより、巾着に似た袋とじの糸が付いただけの袋だ。
オレは恵まれているんだと自覚した。
次は剣術の稽古だ。
剣術の方は日に日に強くなっていくような感じがしていた。
最初のうちは爺様の拳をもらうだけだったが、今では一撃くらい入れられる様になった。
その攻撃でも全くダメージになってなかったが。
「はは!いいぞぉレド!今度はこちらから行くぞ!」
「はい!!」
・・・・・・数分後。
「今日はここまでだっ!!」
「あ・・ありがとう、ゼェハっ!ございました・・・・・・」
オレはいつものように叩きのめされた。マジで少し手加減して欲しい。
内容は、まず木刀で素振りをした後、木の人形相手に打ち込みをする。
その後に爺様相手に打ち合いをした。
足運びや体重移動の指導をしてもらう為だ。それが終ると終了時間近くころには本気になって打ち込んでくるから、避けるので精一杯だった。
けど、今では攻撃を与えようと努力している。でも一発も受けてはくれなかった。
そして、俺は中庭でいつもの稽古をこなし、部屋のベットに寝転んだ。
体中ズキズキのボロボロだが、以外にも明日に響くことは無かった。
そこんところも見越して、切り上げているのだろう。
こうしているうちに、自分も強くなっていくのが分かる。
魔術は、いろんな魔術を開発していこう。
【光弾】が出来るなら、創意工夫でまだまだいろんな事ができる。
俺の一日の流れは午前中は座学と礼儀作法の勉強、昼飯を取ったら、少しの自由時間で魔術の練習、日暮まで剣術の稽古。風呂で汗を流したら夕食、で就寝。
夜は早く寝るので、たまに朝早く起きる。その時は書斎で本を読んだりしているから勉学も問題なし。
優等生そのものの生活だな。今のうちに学べるだけ学んでおこう。
俺が生きていけるくらの力は身につくだろう。
そうすれば余裕もできそうだし、ハーレムだって――――。
トントン。ガチャ。
「レド。大丈夫?」
「母さん。大丈夫です」
「じゃあ、いつも通り治癒魔術をかけてあげるわね」
母さんだった。
今日も剣の鍛錬で切り傷だらけの俺に治癒魔術で傷を直してくれる。
たまにやりすぎて気絶させられたこともあるが、その時はレンヤが部屋に運んで治癒魔術で直してくれる。
「お父様が言い忘れていたのだけれど、明日からお父様とビエノー村に行くんですって」
「ビエノー村?」
「バルケット領の東にある帝国の領土に近い村よ。砦の物資補給と村の防衛強化の為に行く事になったのだけど、レドにも今後の為にと連れて行くんですって」
「ええ?大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。近いと言っても戦場から距離があるし、今は停戦状態だから戦になっていないはずよ」
帝国も連合もあの手この手でこの国を取り込もうとしているから、爺様は不法入国していないかと、視察しに行くのか。
爺様は将軍でかなりの実力者で、国の中でも五本指に入る位強いらしいからな。
だから心配無しと判断して俺を連れて行くようだ。
行くのは俺と爺様、護衛メイドのサリサとレンヤ、身の回りの世話のメイド5人を連れて出ることになった。期間は一年。
母さんは留守番だ。
街を空っぽにきないから、残るらしい。
母さんも爺様に鍛え上げられているから、かなり強い。だから長時間いなくても問題なさそうだな。
そして翌日、物資を積んだ馬車二台と、俺たちを乗せた馬車一台の合計三台で出発した。
そういえば本格的に街の外に繰り出すのは今回が初めてだ。




