間話「護衛の獣人」
私の周りには兵隊が家を沢山、燃やしていた。
目の前には血だらけの村長と医院長先生、そして子供たちが倒れてる。
「あッ・・・・ああ・・・・・!」
私の声は周りの悲鳴や轟音にまかれて一瞬でかき消された。
凄まじい熱さ、そして、その熱くなった空気で息苦しくなる感覚。
兵隊は笑いながら辺りを破壊していくのに、恐怖が突き上がって来る。
「もう止めて!・・・・こんな・・・・」
何度も言葉を掛けるのに、兵士は構わず家にたいまつを投げ込んで、家具も壊し続ける。
戦わなくちゃ!そうしなければ自分が死んじゃう。
あの兵隊が周りの家や家具同様、簡単に私を壊す事は簡単に想像できる。
腰の武器に手を掛けた。
「えッ?銃が無い!?」
腰の武器を使おうとしたが、その武器がなかった。
「なッ、なんで!?」
「きゃあぁぁぁー!!」
友達の前に兵士が、剣を構えてる。
あの武器がなくちゃ戦えない。あれが無くちゃ友達も守るどころか怖くて身体が動かない。
どうしたら。鎧を着た兵士にそこらへんに落ちてる木の棒なんかじゃ太刀打ちできない。子供なんか簡単に返り討ちにされちゃう。
「あ、あ・・・・・!」
そして、私の目の前に違う兵士が立って剣を振り下ろした。
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「いやああああぁぁぁぁーー!!」
叫び声を上げて、ベッドから少女が飛び起きた。
顔は恐怖で歪み、汗が一滴、寝ていたベッドのシーツに滴り落ちる。
「はぁッ・・・はぁッ・・・はぁぁ・・・・」
獣人の少女は荒い息をつきながら、自分の身体や顔をペタペタとさわり、特徴的な頭に生えた長い耳を引っこ抜けるギリギリの力加減で確認する。
「痛みはある・・・・・良かった・・・・・」
周囲を見ると、自分の寝ていた部屋だった。
机と洋服ダンス、そしてベットぐらいの最低限の家具が置いてある小さな部屋。自分が寝ていたのは、その部屋のベットの上だった。
「ヘーレン、大丈夫?」
「姫様。大丈夫」
「入ってもいいかしら?」
「いいよ」
ヘーレンは答えた。
ドアが空き部屋に入って来たのは、金髪の長めの髪、フランス人形のような可愛い外見をした少女。
「また嫌な夢を見たの?」
「まあ、ね・・・・・・・・」
「あ。寝汗で酷そうだし、お風呂なんてどう?今なら月がちょうど見える位置だから」
ヘーレンが着ていた寝巻が寝汗でグショグショな事に気付いた。
「大丈夫よこれくらい」
「いいから、それに護衛なら一緒に居たほうがいいと思うけど?」
それを言われて何も言えなくなり、観念してベットから這い出て、風呂場へと向かった。
・・・風呂場。
向こう側が湯気で見えないくらい広い風呂場にプールなみの湯船。
その中心にたった二人の入浴者。
「ごめんなさい・・・・・」
「どうしたの?いきなり」
「私の所為で悪い夢を見ちゃったんだと思って」
「許すも許さないも、姫様がやった訳じゃないよ。それに姫様はわたしを救ってくれたじゃない」
「そう。でも二人の時は姫様じゃなくて。リリアンで呼んで言ったじゃない」
「あ、ごめん」
そして少し湯船に浸かり、二人はそれぞれの部屋へと戻った。
ヘーレンは帝国軍に蹂躙されたバルケット領ビエノー村出身者である。
彼女は村で遊んだり友達と露店の手伝いをしたりしているどこにでもいる普通の女の子だった。
違うとすれば彼女には強力な武器を持っていた事だろう。
その武器のおかげで困難を切り抜けたと同時に此処に連れてこられた要因ともなった。
彼女の持っていたリボルバーに興味を示した帝国軍の士官が彼女を捕え、調べるための施設がある帝都に連れて来た。
本来ならば有益な情報を持っている獣人は拷問を受ける立場であったが偶然にも彼女に目をつけた「姫様」と言われれる人物。
グワンロン帝国第一王女リリアン・クリノーク・グワンロンだった。
彼女はとある人物に魔物から助けてくれた事がある。
その人物と、ヘーレンが持つ武器を与えた人物が同じことを悟り、ヘーレンの実力を知った上で護衛として雇う事で彼女を助けたのだった。
当然周りから反対の意見が多かった。捕虜を護衛にする前例がない上に、帝国内で獣人を護衛士官とゆう重要なポストに良く思っていなかった。
だが、リリアンの護衛騎士長の意見と彼女の父親である皇帝の言葉でその騒ぎも収束したのだった。
以来、ヘーレンは帝国初めての獣人の護衛士官とゆう少し珍しい立場で生活している。
◇
翌朝・・・。
豪華で大きなドアの前に一人の甲冑を来た赤い髪の女性が立っていた。
時計を確認していると、ヘーレンが走ってくる。
「少し遅れているぞ」
「おはようございます。騎士長、すいませんでした」
「まあいい。またいつもの悪夢でも見たんだろう」
そして、二人はドアをノックし部屋に入った。
「おはよう御座います。姫様」
「ん・・・・ふあぁ・・・・おはよう。レイティアにヘーレン」
護衛騎士として、まず主の目覚ましから始まる。基本、主より遅く起きれば厳罰が下される。
だが、姫様の意向でヘーレンに関しては規則は緩めになっている。
その代り、侍女の行う仕事も兼任していた。最初の内は失敗するものの、数日で覚え、今では脱がせて着せてをテキパキこなしている。
貴族の女性は、複雑な構造をしている服を着ているのが流行っているので、新しい服を買う時は侍女の悩みであった。その奇妙奇抜な服をヘーレンはすぐに着せ替えを覚えるので侍女としても優秀であった。
「今日の予定はどうなっているのかしら?」
「朝食の後、午前中にバーライド卿が謁見されます。その後――――」
洗顔をして、ヘーレンに髪を梳かしてもらっている時にリリアンは予定の確認をした。
レイティアは手に持つ予定の書かれた紙を淡々と読み上げる。
「昼食の後には、ヘーレンと同行し研究所に向かいます」
「それは断ったはずだけど・・・・?」
「さすがにこれ以上何もしない訳には・・・・ここまで良く長引けたものかと思われます。それにこれはお父上から組まれた予定になっています」
「そう・・・・・」
服を着せ替えして髪をセットしている時に、この話題になった。
ヘーレンの武器に興味を持った士官、将軍が研究と量産する為に帝都の魔術研究所に武器を送った。情報は多いほうがいいと、持ち主であるヘーレンを連れて来る様に何度も言われていた。
しかし、ヘーレンは銃の大まかな構造はわかっていても仕組みが複雑で、組立も弾丸の生成すらできなかった。
軍の士官や研究員は、銃を持っている彼女なら詳しい事を知っているのではないかと思い込んでいるが、実際は整備は他に任せっきり。使っているだけであまり詳しい事は知らなかったのだ。
知らなかった場合、他の貴族に狙われるきっかけとなってしまうとリリアンは思っていた。獣人の扱いが特に厳しい帝都では生きていれば奇跡、とまでの拷問を受けさせられる。
それを知っているから、リリアン自身が銃に関しての情報を聞き出す代わりに全て自分に一任させてほしいと父親(皇帝)に頼んでいた。
重要な情報を持っている以上、他の貴族も下手に干渉しにくくするためだ。
しかし、それがなくなれば、用済みの意味と徹底的に情報を引き出す為にひどい扱いを受ける。
そうなればリリアンにはどうすることもできない。
だから知らない事実を父親にすら隠し「大切なモノを失った悲しみ」とかと理由付けて情報開示を先延ばしにしていた。
しかし、もはや隠し通すのも限界だった。
「私は大丈夫です。そろそろ言わないといけないと思っていましたから」
「ヘーレン・・・・・」
「言うがままに言えばいいさ。お前は隠し事ができないし、嘘がド下手なのは私も知っている。姫様と私が言えばあっちも信じるさ」
「・・・・・それ慰めていませんよね」
そうしているうちに、ヘーレンはリリアンの服を着せ終わった。
「参りましょう」
「はッ!」
「はい」
三人は気合を入れて部屋を出た。
リリアンに付き添う形で、背の高い廊下を歩いていった。
◇
皇城・謁見の間・・・・。
大きな謁見の間の最奥に二段分の高さがある台に、カリスマ性を身体から出して二つの大きな背もたれの椅子に座る二人の男女。
皇帝、ペテロ・インぺリオ・クリノーク・グワンロン。
妃、アミーラ・ヘルツィオーネ・クリノーク・グワンロン。
その二人の前に跪く男が一人。
彼が謁見者なのだが、その周りの有力貴族の関心はその男に向けられてはいなかった。
「(あれが第一王女の護衛の獣人だな)」
「(こんな神聖な場所に居るのは場違いというもの。おお、汚い汚い)」
皇帝、妃の座る台から少し離れた位置にリリアンの姿が有り、リリアンを中心に右側にレイティア、左側にヘーレンとゆう構造で立っている。
家柄も無く立ち振る舞いも礼儀も知らない平民で、しかも敵対している獣人を近くに置く事に貴族たちは未だに不満を感じる者は多い。
リリアンは常にヘーレンと行動し、風呂の時でも片時からそのそばを離さなかった。例え少し失敗しても大目に見るなどの特別扱いされる彼女が、貴族の不平を買う原因にもなっていた。
騒ぎが収束したとはいえ、陰で噂を言わない貴族はいなかった。
「(わたくしの娘の方が良き魔術師として働いてくれるでしょうに)」
「(いえいえ、剣術が得意な私の娘が――――)」
「(しかし、これはこれで中々・・・・ハァ、ハァ)」
「(・・・・・あのような娘がお好みか?変わっておる)」
こうした貴族の話のネタにされることが多い反面、いけない方向に妄想する貴族も多かった。
護衛は常に近くに居るため同性の場合が多いが、そこで同性愛者に走る者が少なくはない。美少女と立場の違う騎士同士の異常な性的思考をもつのは驚くことに不思議がっている者いなかった。
今までなかった、獣人と人間のコラボを妄想する変態貴族も居た。
「(しかし、聞きましたぞ?何でもアルゼイダー公が指揮する軍団が想定以上の損害を被ったらしいのですよ。その原因が彼女にあるとか)」
「(なんと!?あの戦術に長けた者が・・・?)」
「(成程。実力も備えているなら納得だ。しかし、本当に強いのか?)」
「(能ある獣は爪を隠すと言いますからなぁ)」
「(一度、突いてみるか?もしかしたら本性を暴けるやもしれんぞ?)」
「(やめておいた方が。本当に実力があり、それを口実に非を向けられたら二重の意味でも大損害ですぞ)」
「(ですな)」
貴族たちがセンスや布で口を隠しコソコソ話をしているが、耳のいいヘーレンにとっては全て筒抜けだった。これが皇帝が彼女をリリアンの近くに置かせた一番の理由だ。
「なるほど。そんな事を言ってたか」
リリアンは謁見終了し、予定していた用事を終わらせてから、昼食を取っていた。
その時、謁見の間での貴族のやり取りを話した。
貴族たちはヘーレンの特性は理解していたが、まだ子供でそれ程成長していないから聞こえていないと思い込んでいる。
しかし幼少の頃から狩りなどに連れていかれることがあり、その感覚は研ぎ澄まされている。
小さく話していても彼女に全て聞かれていた。
「情報市場ね・・・・行動を起こすと思う?」
「直接的なモノはないでしょうけど、出掛ける際は危険かもしれません」
彼女と一緒になることで皇帝の地位に就ける事は誰もが知っている。
他の貴族たちも帝国の指導者の椅子を狙い、あらゆる方向から姫殿下に圧力をかけていた。
直接の命を狙う貴族も少なからず存在し、実際に彼女自身を狙った事件も起きている。
例えば、姫が小さな街を訪れた時の話。
リリアン姫がまだ小さな時、妃と小さな街を訪れたことがあった。
道中何事もなく、町に到着したのだが、その夜の事。姫様たちの泊まる部屋に賊が侵入した。
これ自体は想定していたことで、護衛騎士の活躍で怪我もなく賊の全員確保とゆう活躍を見せた。
その功績を讃えられ、高年齢だった護衛騎士長の後任としてレイティアが就いたのだった。
賊は一貴族の仕業だった。
街を訪れる事を知った貴族は姫が停る宿をも調べ、その亭主と密談して、停る部屋に賊を最初から忍び込ませていたのだ。それを事前に察知できた当時の護衛騎士長はあえて知らぬフリをし、その貴族もろとも決定的証拠を突きつけ言い逃れできないようにしようと考えたのだ。
そして宿の亭主が自白し店は潰れ、貴族は弾劾された。
だが問題として、彼女はまだ十歳になって数か月の歳。この歳では、まだ力は無い事は理解していた。
しかし皇帝に頼むことでそれなりの地位を与える事はできた。
今のうちに根回しを行うことで将来自分の身の安全を確保するとゆう未来を見据えて行動することはできる。現在は難民たちの救済と支援で国民の心を掴もうと努力している。
実際に現地に赴いて、身分を隠して手伝った事もしばしばある。
「これを機に本格的に他の貴族への根回しも考えた方がよろしいでしょうね」
「そうね。感謝しますねヘーレン、こうした情報から対策ぐらいはできますから」
「もったいない言葉です。姫様」
「そうですな。コイツは、まだまだあの少年より――――」
「レイティア!」
レイティアは失言したことに気づき、「すまなかった」と謝った。
ヘーレンは「気にしていないと」言うが、それからしばしの沈黙が訪れた。
彼女の師匠であるレドが行方不明なのは、知っていた。生きているのかどうか不安なのだ。
それ以外にも不安の要素は他にもある。ビエノー村から逃げ出した友達が元気でいるのかどうかだ。
中立国に間者を送り込んで生きてマクシェカヴォードに入学している情報は聞いている。
しかし直接会って話したいと思っている。向こうは自分が生きていることすら知らないだろうと思ったからで、心を許して話し会いたいのだ。
これは国自体の問題で、どうにも出来ずに何も言えなかった。
しかし、リリアンはその沈黙を破るために話を切り出す。
「あ、そうだ。あなたの武器を返すとお父様が以前言っていたのを思い出した。だから、私の予定に組み込んだとさっき言っていたわ」
「!!本当ですか?」
「ええ」
「これで、戦えるな。ビシバシ鍛えていくから覚悟しておけ?」
「・・・・・うう、なんで私には厳しいの~?」
「特に突っかかることはしていない。だがあの武器のおかげでこうしていられるのだ。厳しく鍛錬しないといざとゆう時、困るだろう?」
「はい、そこまで。食べ終わったから出掛ける準備をして」
「はッ!」
そうして、食事を終え午後の予定をこなす為、出かける準備を行った。
皇帝の住む居城グランパレスは帝都の中心に位置し、城の周りには城攻めに対抗する為に深く広い掘られた堀がある。
今は前線との距離が遠く城攻めの心配が無い事から、この堀は貯水槽に利用されている。水かさは溢れるギリギリまで水が溜まり、湖の中に城が建っているかのように見えていた。
その掘りをまたぐように作られた橋を馬車が一台通っていった。
そして、その橋を城内の塔から見届けた中年の男が一人。
「出たか。ああは言ったが獣人が護衛に就けば、帝国内の獣人どもの指揮を上げられてしまう。悪い新芽は摘ませてもらうぞ」
「カルドナ卿を呼べ!」
「はは」
そして、ドアの横に立つ男に言い渡した。
男が出ると机に置いてある赤いブドウ酒を口に含み、ニヤリと笑う。
◇
グランパレスより馬車で移動して数分後、レンガ造りの建物がある。
この建物のレンガには魔術対策が施されている。高い壁には魔法陣、敷地内の建物に使用されているレンガにもマナを吸収する素材が使われており、さらに自己修復するようにもなっている。
此処が帝国の魔術研究所である。
その研究所の所長室にリリアン姫一行の姿があった。
「お待ちしておりました、姫様。わたくしが所長です。皇帝から指示されています。こちらを」
所長が挨拶をすると、トレーを持った男性がヘーレンの前に立った。
トレーの上には銀色に輝く銃と綺麗な金色の弾丸が置かれていた。
「早速ですが実験場の方に行っていただけますか?」
「え?今日は資料を渡すだけの筈ですが・・・・?」
「調べてまして、全く同じ材料、同じ構造で試しても実験は失敗に終わっています。どのように撃つのか模範だけでも、お願いします。こちらはアルゼイダー公の厳命で死活問題なのですよ」
「模範だけなら・・・いいでしょう」
「ありがとうございます!」
向こうの必至そうな顔で断ることができずに渋々申し出を受けた。
そうして、研究所の一角にある実験場に足を運ぶ。此処は魔術的要素を兼ね備えた武器の試験場でもあり、魔術の剣の他にも、槍、ハンマーなどが壁に付けられている。
その中央の広場にヘーレンは立つ。
「あの的に当ててください」
所長は広いグランドの先にある鎧を指さした。
しかし、それ以外にも置いてあるものがある。その後ろには、魔物が入った折が置かれていた。
「どうして魔物がいるんですか?」
「次の的です。動かない的の次は動いている的に当ててもらおうと思いまして。当てられますよね?」
「あなたたちの仲間(兵)を殺したんだから簡単」
ヘーレンは皮肉を言いながらも、銃の動作チェックを終えて、手慣れた様にスムーズにマグナムに弾を込める。シリンダーを戻して撃つ構えを取る。
そして、白衣を着た男女複数の学者の目の前で発砲した。
弾は簡単に鎧に穴を空けた。
それを見て学者は何も言わずひたすら手に持ったボードにペンを走らせた。
だが、その時だった。
「ガコッ!」と何かが外れる大な音がした。
皆顔を合わせて「どうした?」「どうなってる」などと話している。
すると、同じ白衣を来た男性が走ってきた。
「大変だ!!さっきの音に驚いた魔物が逃げ出したぞ!」
「なん!?」
「どうゆう事だ、これは!」
「私は分かりません!!」
「戻ってヘーレンここは危険よ!」
研究員の一人が発した報告の後、所内は慌ただしくなった。
所員は逃げ惑い、悲鳴と魔物の咆哮、そして物が壊れる音が聞こえてきた。
すると、レンガの壁をぶち抜いて、その魔物が現れた。
壁に備え付けていた武器はバラバラに飛び散り、グランドに転がる。
その武器を踏み潰して進む魔物。それは人に似た体格ではあるが大きさがケタ違い。頭のてっぺんに三角の角が生えて顔に大きな目玉が一つ、手にはどこかの柱の残骸であろうか、こん棒のような形の武器を持っていた。
その魔物は邪魔だったのか凄い力で檻に入れられたウルフごと吹っ飛ばした。
「さ、サイクロプス!?・・・・よりにもよってこんな・・・・!」
「援護しろ!彼女じゃ分が悪すぎる」
「いいや。その必要はありません、所長」
「は!?しかし、レイティア殿、彼女にはあと五発しか残っておりません。威力があるとは言え、とてもそれだけでは・・・・!」
ヘーレンは微動だにしておらず、銃のシリンダーをスライドさせ弾丸を確認する。
たしかに、シリンダー内の六発中、一発だけ黒く焦げた薬莢があった。それ以外は綺麗なままだ。
それを確認すると、シリンダーを元に戻し、静かに銃口を向ける。
サイクロプスの身体は分厚い筋肉で覆われていて、その巨体で体当たりされてはひとたまりもない程のパワーと防御力を持っている。だが、知性は低い為、討伐ランクは【B】とされている。
だが、とても五発だけでは誰も倒せるとは研究所の誰もが思っていない。
分厚い筋肉があるとは言え、実戦でも多数の魔術で動きを封じてこれまた多数の剣で何度も刺突して倒すのが一番早く安全な倒し方だ。とても一人で倒せるような相手ではないと誰もが思っていた。
だが、レイティアとリリアン姫殿下は違った。
ランクが違うとは言えあの時と状況がほとんど同じだった。
姫たちは元は中立国の学園に入学していた。だが、戦争の兆しありと父親からの手紙で急遽馬車を用意し帝都に戻ろうとしていた。
しかし、突如としてランク【A】のサーベルウォルフが襲いかかった。
不運にもその初撃で護衛の一人がやられて、その時馬車の一部が壊れてしまった。だが、構わず馬車を走らせて逃げる。
ウルフに後を負わせてサーベルウォルフは先回りしようと離れた。
レイティア自身も一撃をもらっており目がかすむ。
そして、とうとう馬車の車輪が外れて馬車が横転する。
リリアンは這い出てレイティアの側に寄るが、重症を負って剣を持つのも辛い状態だった。
その周りにウルフが取り囲み、死を覚悟したその時、彼女の「師」が現れたのだ。
その後は彼がウルフを蹴散らし、後から来たサーベルウォルフも引き受けて消えていった。
とても助かる状況ではないと感じたリリアンは彼がバラ撒いた「金属の筒」を一個だけ拾った。彼が死んだらその証拠として遺族に返そうと思ったからだ。
そして、言われた通りに街にたどり着いて事を話し、なんとか助かった。
だからこそ今と、少し状況が似ていると感じたのだ。
彼女の「師」がバラ蒔いた金属の筒と彼女が使っている武器もその金属の筒を使う武器で戦うのだから。
ヘーレンは銃を両手で握り発砲した。彼女が狙ったのはたった一つの弱点。
「グギャアアアアァァァアァアア」
「確かにあの威力なら目潰しにはいいですが、決定打はどうするつもりですか?」
サイクロプス自身でも目が弱点だと理解はしていた。持ってるこん棒を盾の代わりになると思っていたようだが、その防御すら間に合わない程の速さは想定していなかった。
自分の目を失い激痛でうずくまった。
そして、近くに無造作にバラけた武器を手に掴む。
手に取ったのは、壊れた剣と先端が魔石になっている槍。
「何をするつもりで?」
所長は疑問に思いながらも、戦闘を見続ける。
ヘーレンは折れた剣を投げた。自分がここに居ると思わせる為だ。
そしてサイクロプスが向いた瞬間、獣人特有の身体能力と強化で背後に回り込んで、背中に突き刺す。
痛みで暴れるサイクロプスに必死に槍を抜けさせまいと深く押し込んだ。
ある程度、槍を深く差し込んで、離れる。
「なんだ?どうするんだ?」
「おい!こっちだよ!!」
ヘーレンは声を上げる。
目が見えないながらも、声を聞いたサイクロプスは近くのこん棒を探し出し、ヘーレンに向けて振り下げる。
ヘーレンは動かず、銃を構え、狙う。
「当たってえぇぇーーー!!!」
ダン!ダン!ダン!
三発発射した内の一発の弾丸が、深く突き刺さった槍先端の魔石に触れた。
魔石はサイクロプスの体内で爆風に似た風が起き、胸辺りから頭部まで失って、倒れる。
皆が沈黙する中、ヘーレンは呼吸を整えるように努力していた。
「はあっ!はあっ!・・・はぁっ」
「ヘーレン・・・・・」
「―――ッ!!リリアン!伏せてっ!!」
「!!」
そうして、ヘーレンはリリアンに銃を向け発砲。
リリアンはヘーレンのとっさの声ですぐに屈むと同時に、ウルフが通過する。
絶妙なタイミングで放たれた銃の弾丸はウルフに命中し壁に叩き付けられる。
レイティアが駆け寄り、怪我の有無を確認している。
そして、ヘーレンは銃を確認した。
薬莢が一発を残して全て黒く焦げていた。もし、サイクロプスを倒すのに一、二発多かったらと思う・・・。
その考えを振り捨てて、リリアンの下に歩いて行った。
「姫様、大丈夫?」
「ええ、大丈夫。それより・・・壁に隠れている人を拘束しなさい!」
「ッ!?」
異変を知らせた男はいつの間に壁に隠れていた。
近くにはサイクロプスが吹っ飛ばした檻があって、こじ開けられたような跡があった。
周りの研究員も、どうゆう事かさっぱり理解できていなかったが、怪しさを決定づける行動を取った。
男は逃げ出したのだ。
逃げる男にレイティアは追おうとしたが、姫に「待ちなさい」と止められる。
「よろしいのですか?」
「憲兵が捕まえるでしょう。それにあまりにも作戦が雑すぎます。ミスを犯すような素人では、あまり情報は持っていないでしょうね。それより、ヘーレンが名前で読んでくれたことは嬉しかった」
「そうゆうのは二人だけの場合の筈です。・・・・まあ、今回の功績はその罪をかき消すほどのものと思えますので不問としますが」
「ちょっとは褒めてくださいよ~~」
「これでもレイティアは褒めてるんですよ?」
「ひ、姫様!」
その場の全員が笑った。面白かったこともあるが、誰一人として犠牲が出なかったからだ。
その後、憲兵に拘束された男は詰所に御用となった。
そしてリリアン姫の読みは当たっていた。
拘束後。詰め所で事情を聞くと、彼は魔術研究所の所員で賭博による借金から、とある人物からリリアンかヘーレンの二人を暗殺するよう命じられた。そうすれば借金をチャラにしてもらえると言われていた。
しかしその人物も特定できず、詳しくその人物の事を聞こうとした翌日には牢内で男は遺体となっていた。
こうして、有耶無耶ながらもこの事件は収束したのだ。
この事件をきっかけにヘーレンの実力は周囲の貴族に知れ渡った。
たった一人で、サイクロプスと渡り合える少女として。
それから、リリアンの身を案じた皇帝はありとあらゆる手を尽くし、ヘーレンとレイティアを護衛に、マクシェカヴォード学園に通えるようになる。
貴族の思惑の巣窟にいるよりは安全で、娘を助けたヘーレンの願いを引き受けてのことだった。
それから思わぬ再会を果たすが、それはまた別の話。
忘れてました作品です。




