無職、クエストをこなす
とにもかくにも、俺は母上様から賜った『お弁当配達クエスト』を完了させ、次のクエストである『食料品購入クエスト』へと移行する―…
「お礼と言ってはなんだけど、今度買い物に付き合わせてあげるよ! 光栄に思いなさい!」
…前に、新クエスト『かず姉のお買い物同伴クエスト(※破棄不可能)』が発生してしまった。ちなみにこのクエスト、手を変え品を変え、弁当を忘れて俺が届ける度に発生している非常に厄介なクエストである。
まぁ別にクエスト自体を履行してしまうのが厄介なのではない。
思い出してほしい。
①ココはかず姉が経営するレストラン
②時間はまさに稼ぎ時のお昼
③かず姉を『和希様』と呼ぶ、濃いメンツがいる
Q.では、なにが厄介なのか?
A.つまりは
「ちょっと待って!そのメンツに俺が入ってないやん!御母堂様に連絡させてもらうね」
「お出↑掛け↓だと? ふざけんじゃねぇよ! もう許さねぇからなぁ!?」
「そうだよ(便乗)」
…こうだ。
まぁ正直、この濃いメンツだけでもこの絡み様だから本気で厄介というかめんどくさいというか…と思いたくなる状況な上に、いるのはめんど……めんどくさいメンツだけではない。
「んまぁぁぁぁ❤ 白昼堂々と姉弟でデートのお誘いだわぁぁぁ❤ 」
「カエルにストローを差し込んで爆散させていた女の子が……ちゃんと女性らしくなったのね…!」
「咲夜さんに報告しなくっちゃ! いや~井戸端会議のネタが増えて、本当にこのレストランは最高だわぁ!」
ココには話のネタに餓えた奥様方がいらっしゃるのである。かず姉が弁当を忘れて届ける度、こちらもこちらでいいネタを手に入れたと言わんばかりに盛り上がるのだ。こちらのテンションはだだ下がりである。
…あ、ちなみに咲夜さんとはうちの母親の事で、このように毎度毎度俺の事が井戸端会議のネタに上がるにも関わらず、意味深なニマニマ笑顔でその話を聴いては話に華を咲かせているらしい……とは、近所の坂田君(16歳学生)からの証言である。
坂田君……すまんが毎回毎回俺に報告しなくてもええんやで…? 聞けば聞くだけ俺の精神状況がよろしくない方向に向かいそうになるからさ…。
「…はいはい、今度はどこに行くの?」
「晴海島! いやー、欲しいブラウスがあるんだぁ!」
晴海島、ついぞ話したフェリーで50分掛かる、通帳記入が出来る銀行がある島。
離島ながらも企業誘致に成功した結果、全国版住んでみたい街ランキングのトップテンに入るほど有名になった場所でもある。
結構な大きさの空港を備え、島という単語に似合わない超巨大複合ショッピングモールがデデンと存在し、日本海水浴場百選にも選ばれた、エメラルドグリーンの海と白い砂浜を擁したビーチがあり、かと言って自然も豊富にあり、夏場はキャンプや海水浴などでかなり賑わう、鳴海島とは色々とかけ離れたスーパーアイランドなのだ。
「…あーうん、了解。日取りは勝手に決めておくんなし」
「よっしゃ! あー他に何買おうかなぁ!」
荷物持ちは最早逃げられない運命なのであろうか…!
…でもまぁ、実は俺、晴海島に行くのは数年振りなんだよね。さっきの説明も、ほとんどが晴海島のパンフからの受け売りで、高卒以来一度も行けていない。ちなみに、誘致が入ったのがちょうど俺が高校を卒業した年らしいから、パンフの写真でしか現在の晴海島の様子を知らない。
俺が知っていたゲームショップやホビーショップ、古本屋はどうやら移転しているらしいし、家族ぐるみで贔屓にしてた喫茶店のマスターも、建設地確保の際に対象に入った為立ち退いて店を畳み、今はそのお金でのんびり隠居暮らししてると聞いた。
姉達や妹と違って島外を晴海島しか知らない俺にとって、恐ろしく様変わりした晴海島もまた未開の地として再認定されているのだ。ちょっと楽しみなのも仕方が無いね。
「んじゃ、昼飯も食ってないし、買い物してから帰るわ」
…とまぁ、忙しくやってる時に長居してもしゃーないし、先の買い物クエストをようやく消化すべく移動を開始―…
「買 い 物 ? まさかまた『あの』スーパーなんじゃないでしょうねぇ…?」
したかったのに、恐ろしく底冷えしたかず姉の声が俺の背後から聞こえてきた。
「あぁ…素晴らしく冷たいお声…! ありがとナス!!」
お前は黙ってろダメ犬専属調教師。