お題:息 「リベンジ」
――メンバー全員が、ステージの真ん中に集まって。
「みんな、準備はいいか?」
リーダーがぐるりと、俺達の顔を見渡す。
ユウキはぼけっとギターを抱えてうなずき、コウスケは愉快そうにぐるりとスティックを回して、俺はじっと見つめ返す。
「よし――ばしっと決めてやろうぜ」
そう言って静かに、けれど熱く高ぶった想いが溢れる様子で、リーダーは笑った。
照明が落ちて、口々に賑やかだったライブハウスが、しんと静まりかえった瞬間。
俺は、息を吸って――
「……なー、大丈夫だってば、あれから練習でミスったこと一回もないじゃん? な?」
何度思い返しても、ため息ばかりが出る。
「ばーっとやりきっちまえばいいんだよ! ミスったって平気だって! いけるって!」
「……ちょっとじゃねえだろ」
あれから、ライブでミスをしなかったことがない。
バンドの命運をかけたオーディションライブの本選。一曲目の最初の歌い出しで、俺の声は盛大に裏返った。
素っ頓狂な甲高い声は一瞬で、ひりひりと期待に高まっていた会場をぶち壊して、堪えきれずに笑いを吹き出す間抜けな空間に早変わり。
恥ずかしさと心苦しさで訳がわからないまま、ぐだぐだのステージは終わり。当然オーディションは最悪の結果で終わった。
「去年とは違うって! タケちゃんすっげーレベルアップしてたし! 声量めっちゃ増えてかっこよくなってんだしさ!」
こんな風にコウスケに励ましてもらうことも毎度のことになっている。
俺が今でもどうにかステージに立ち続けていられるのは、コウスケのおかげだ。こうして励ましてもらって少しでも気が軽くならないと、足がすくんで立ち上がることすら出来ない。
部屋の隅っこで眠そうにケータイをいじっているユウキを、少し羨ましく思う。マイペースでいられることが凄いだなんて、俺はあの日まで全く思わなかった。
「今日こそ全部びしっと決めて、去年のリベンジしてやろうぜ! な!」
考えふけっていると、コウスケがばしばしと背中を叩いてきた。油断していたせいで少し咳き込む。
「だから、力入れすぎだって、毎回……ごほっ」
「――うっす。ただいま。」
「お、リーダーおかえりー!」
買い物から帰ってくるなり、むせている俺が目に入ったらしい。俺と目が合った時には、リーダーは怪訝な顔をしていた。
「……なんかあったか?」
「大丈夫、コウスケのせいでむせた」
「俺のせいかよ!」
そんな様子を見やるなり、リーダーのため息が漏れる。おおかた何があったか理解してくれたようだ。
「ったく……まあ、それならいいさ。それより、タケキ」
「……大丈夫だよ。やれるだけはやるさ」
これも、いつものことだ。リーダーは俺が無理をしてないか、しっかり気にかけてくれる。
だが――今日は少し様子が違った。
「……なあ、タケキ」
「……?」
「今日のライブ――」
――メンバー全員が、ステージの真ん中に集まって。
「みんな、準備はいいか?」
リーダーがぐるりと、俺達の顔を見渡す。
ユウキはぼけっとギターを抱えてうなずき、コウスケは愉快そうにぐるりとスティックを回して、俺はじっと見つめ返す。
「よし――ばしっと決めてやろうぜ」
リーダーの声が、すんなりと耳に入る。
俺は、息を吸って――