第六話
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小学校を卒業して半月と少し、僕は真新しい中学校の制服―― 何処にでもある、それだけ見ると何処の学校かも分からない学ランに袖を通して、これも真新しい通学かばんとサブバックを手に、学校指定の白いスニーカーを履いて中学校の入学式へと赴いた。
学ランの襟の内側に付いている薄い塩ビ製のカラーと呼ばれるものが、首に当たって邪魔だ。何のために付いているのか、意味があるのか分からないが、着けることが校則だから仕方がない。
仕方がない事といえばもう一つ。頭髪だ。
五分刈り。またはそれ以下の長さ。要は坊主。前髪が少し長いスポーツ刈りは校則違反になる。十二歳の僕だって思う。不条理だ。理不尽だ。
隣の校区の中学は今年から頭髪自由になったと言っていた。うらやましい。コートも学校指定の物でなくていいらしい。本当に、理不尽だと思う。
僕は声無き不満を胸に【市立うつか中学校 第五十三回 入学式】と書かれ、色とりどりの花紙で飾られた看板の横を通り過ぎる。
看板の前では記念撮影している親子がいた。
一人で入学式に挑む僕は、その光景が少し羨ましかった。
僕には母はいない。なぜいないのかは知らない。死んだとは聞かされていないので、たぶん何処かで生きてはいるんだろう。
今のところ、父一人子一人だ。
この『今のところ』というのが厄介なところだ。
十二年と数ヶ月の人生で母親だった人は、記憶に無い実母を含め三人いた。結婚してなかった人は二人いた。
父は、なんというか、女の人が趣味のような人だ。振り回されるこっちの身にもなってほしい。
「はぁ」
ああ。折角の晴れやかな入学式に似つかわしくない、ため息をついてしまった。こんなの十二歳の子供のため息じゃないだろうな。
校門をくぐると左手に木造の図書館。グランドは小学校と違って遊具類は一つもない。小学校では置いていない高さの鉄棒が隅っこにある程度だ。
ちょっとした違いが、何だかどきどきする。
僕は少し浮上した気分のまま、組分け表が貼り出されている体育館の入口横に向かった。
入学前にこの学校の校区に越してきたから友達は一人もいない。クラスメイトには気の合うヤツが一人でもいるだろうか?
回りを見れば、同じ小学校出身らしい子らが何グループかに別れて、やれ何組だどうだと組分けの報告をしあっている。
貼り紙を見上げる。一年三組出席番号十七番。式の席割りは出席番号順。前後になるヤツが面白いヤツでありますように。
あとはもう体育館に行かなくては。
そう思っていたら、目の端にセーラー服が映った。
紺色で襟と袖口に白いラインが二本入って、白いリボン。膝下丈のスカート。白いスニーカーに、白の三つ折りソックス――。
校則通りの三つ編み。くりっとした目に奥二重のまぶた。右目の下にある泣きボクロが印象的な、とても可愛い女の子。
「お母さん。私三組みたい。ねえ? 帰りに――」
女の子はまだなにかを母親に言っている。
僕の短すぎる髪の付け根がギュッと縮こまった。
(さん、くみ……。さん組? 三組ッ!)
顔も耳も熱い。かっかしてる。
女子を見て、こんなになったのは初めてで、僕はそれが何なのか、どういう事なのか、無意識に理解した。
一目惚れって、ホントにあるんだ。って事を――。
***
間宮ひとみ。誕生日は八月十三日。猫を三匹飼っている。
入学式後、各クラスでの自己紹介で彼女が語ったことだ。もちろん一発で覚えた。
彼女、間宮ひとみは比較的大人しめのグループにいる。無駄話がしにくいグループじゃなくて良かったと思う。
女子ほど明確なグループ分けがあるわけではないが、男子も仲の良いグループに分かれていて、僕は至って特色の無いグループにいた。
入学後初の連休。ゴールデンウィークが近い。
学校では連休前のイベントとして(小学校で言うなら遠足だと思う)アスレチックセンターでのレクリエーションと飯ごう炊飯がある。
男女で好きにグループ分けするそれに、僕はもちろん間宮がいるグループと組もうと友達に言った。
「無難だし」なんて恥ずかし紛れに口にしたけど、にやにやされたので幸田たちにはとっくにばれているようだった。
まあ、ともかくそのレクで気楽に遊べるくらいになったら嬉しいし、できれば連休中にもあって遊びたい。
中学一年生の僕は、とても真剣に彼女の事が好きで、だから、近づきたかった。




