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“賢者”の時間!  ―ケンジャ・タイム―  作者: 金厳実直
小年時代 パンツを見たこと、それが僕の誇り
9/14

第九話

「……初対面の女性にいきなり、そ、そんなに……い、イヤらしい……目を向けるとはなんだ貴様らは? どうやらやはり南の治安はあまりよろしくないようだな……」


「オイオイ姉ちゃん威勢がいいのは結構だが、自分の状況わかってんのか~?」

「ケケ、いいじゃねぇか! 気の強い女ってのも嫌いじゃないぜ!



 うむ、僕もその言葉には同意だ。

強気な女ほど堕としがいがあるというものよ。

お前らがゴロツキじゃなかったらお互いの性癖を熱く語り合えたかもしれないな……



 ジリジリと包囲を狭めてくる男たちに、姉さんは僕を背に隠すように一歩前に出て警戒態勢をしている。

ちょうど姉さんの腰の後ろ辺りに僕の顔が来た。 スーハースーハー……

う~ん、トレビアン。



「威勢がいいのはどちらの方だ?

偶々相手が私というのは、貴様らも運がなかったな 

私は明日からこの街に着任する兵士だ、言い逃れはできんぞ?」




 兵士という脅し文句と、武装した男三人に囲まれても平然としている姉さんにタダならぬ気配を察したのか――ゴロツキどもは足を止め、どうする?と無言のまま目で意思疎通を図っているようだ。

数秒膠着した時間が流れると、やがて意を決したのか、三人の中で最も体格のいい男――おそらくこいつがボス格だろう――が口を開いた。




「姉ちゃん、凶器を前にその落ち着いた態度――たしかにアンタは兵士さんなんだろうよ

だが俺たちが運がないってのは~間違いだ

子どもを守りながら三人相手に何ができる?」


「た……たしかにそうだぜっ! こっちは三人、女は丸腰だビビるこたぁねぇ!」


「それもそうだな……ケケ、残念だったな姉ちゃん。 明日の兵舎は新任兵士が一人足りなくて、さぞかし大騒ぎするだろうよ!」


「下種どもが……それ以上その不快な口を開くなっ!」




 言うと姉さんが拳を握り、腰を低くして構えをとった。

そのせいでスカートからスパッツに包まれた部分の足がチラリと見える。 美味そうだ……

おっと、いけないいけない! また姉さんの淫気に飲まれるところだった。

ここまでは僕がたてた作戦通りにことが進んでいる。

さて、もういいだろう。 僕の出番だな……未来の大魔術師タオ・ロードミラー様の初陣だ、光栄に思えよ街のチンピラども?




「ゆくぞ「待ってください姉さん!!」……む?」


「ここは僕に任せて姉さんは下がっていてください」


「なっ、いきなり何を言い出すんだっ!? キミみたいな子どもに何ができる!?

キミこそ、私に任せて下がっていろ……こんな男ども、何人いようと私の相手ではない!」


「子どもだろうとなんだろうと、惚れた女を守るのは男として当然のことだっ!

姉さんは黙って見ていてください……僕が華麗にコイツらをぶちのめすところを

あ、あとおっぱい揉ませてください」


「ほっ、惚れっ……!? い、いやいやいや何を言ってるんだキミは! 危ないから下がっていなさい! あとさり気無く……お……おっぱい……ってなんだ!?」




 お互い一歩も譲らず前に出ようと、おしくらまんじゅうのようになる。

おぉう、たなぼた。 姉さんの身体は本当にどこもここもムチムチ柔らかいぜ!

ゴロツキたちはどちらが相手だろうと問題ない、とばかりに空気を読んでニヤニヤとこちらを眺めている。

姉さん――悪いけどここは譲れないんだ。 しっかりとカッコいいとこを見せねば!

あとおっぱいはさり気無くなんかじゃない。

むしろかなり大事なお願いだ。 なにせ僕の魔力はソレ頼みだからな。




「姉さん、大丈夫です 

僕を信用してください

じつは僕、自分で言うのもなんですが凄い魔力を持ってるんですよ

だからこんな男たち瞬殺できます。

いいですか? ――まず僕がオイ、と言ったらハイと返事しておっぱいを揉ませてください

そうすれば万事解決です」


「きっ……キミは本当にどこか頭がおかしいんじゃないのか!? 揉ませるわけないだろっ!」


「姉さん、オイ」


「ハイ――ってこら、飛びつくな! んん……も、揉もうとするな!

くうぅ……やっぱりこのエロガキの言うことなんぞ最初から聞かなければよかった! えぇい埒が明かん! こら! はっなっれっろ~~~~~!!」






 姉さんが叫ぶ。

その次の瞬間――完全に空気になっていた男どものリーダーAがドシャリと地面に倒れこんでいた!






「「「はっ?」」」と三つ間の抜けた声が揃って響く。

男どもはすぐにはなにが起こったかわからず、ポカーンとしている。

やがてその目が驚愕に見開かれた。

数秒遅れてやっと理解したのだ。 





 チンピラAが一瞬で倒された――――――――姉さんの腹パンによって






 …………そう、倒したの姉さん。 僕じゃなくて姉さんでした。

「「「えっ?」」」のうち一つは僕。 ポカーンとしていたのも驚いたのも僕でした。



 姉さんは胸に噛り付こうとする僕を押しのけると――弾丸のような踏込で急接近、そのままチンピラAの腹部にメリッと音がするほどエゲツない拳を叩き込んだ。

Aは胃の中身を戻しながら気を失って、地べたでピクピクしている。



 いまだ呆然としているBとCにたいし、隙だらけだと言わんばかりに姉さんが目にもとまらぬ速さで追撃をかける!

え、ちょっと待って! 作戦と違う!

ここはこう、僕が初めて圧倒的な魔術を披露して、男たちを薙ぎ倒すところでしょ?

んでそれを見た姉さんが「まさかキミみたいな小さな子どもに命を救われるとはな――素敵っ! 抱いてっ!」となるところでしょ?

ちょっ、姉さんマジでやめて! あぁっ!? がんばってくれB、C!

姉さん剣をつかうんじゃなかったの? お前らが姉さんに素手でボコボコにされたら話が進まねぇんだよ!



 僕の応援むなしく、BもCも一発ずつ綺麗にもらうと地面に倒れ伏した。

姉さんがAに襲いかかってから計10秒もかかっていまい――あっという間もなくチンピラ3人組は壊滅させられた。

僕はその場から一歩も動けず、ただただ呆気にとられていた。



 

「全員…………一撃っすか…………」




 やっと搾り出した僕の言葉に、姉さんは汗ひとつない涼しい顔をしたままこちらを振り返ると




「あぁ……だから言っただろう? 剣がなくともこの程度“相手にならない”って――――

私はこれでも首都の兵士養成学校で剣術・武術の首席だったからな」




 なんてこったい、痺れるぜ…………ますます惚れた。





=============================================



 結局姉さんにいいところを見せるどころか、胸を揉もうとして逆に邪魔になっただけで、事前に考えていた色とりどりのド派手な魔術は披露されることなく“吊り橋効果大作戦”は失敗に終わった。



 無自覚エロ痴女がどうやって今まで純潔を守ってこれたのかが不思議だったが、これで納得だ。

おそらく学生時代もそのスケベボディから色気を振りまいていたのだろうが、それに男どもが理性を失い襲いかかっても全て跳ね除けることができたのだ――武力で。

それでも男どもは諦めずリベンジしたり構わずイヤらしい視線を向けたりするので、姉さんはいつしか男が苦手になってしまったのだそうだ。

誘っているように見えながら、近づくとボコる罠……蟻地獄かよ。

まぁ、そのおかげでこうやって僕に奪われるため、乙女のままでいてくれた、と考えれば僥倖か。



 チンピラどもを道路脇に避けて兵舎に向かう道すがら、なぜそんな凄い人が首都ではなくタハカに来たのか? その成績なら近衛兵にだってなれたのではないか?と尋ねると




「私は人より凄く強い――なればこそ、この力を力なき人々のために使いたいんだ

その点で、ここタハカや大陸南はまだ王国の統治が完全には浸透しておらず――その分、治安や風紀の乱れが多いからな、私の武を活かすのにモッテコイだと考えて志願したんだ」



 

 なんともカッコイイ痴女である。

こんな出来た人格を見せつけられると、自分がすごく汚いように思えてくるな。

姉さんはただただ見た目や仕草が無意識にエロいだけで、中身は本当にいい人なのだ――

これはもう痴女などと呼べないな。 僕からは“聖痴女”の称号を与えよう。




「それに恥ずかしい話なのだが、私がいた学校には貴族の子弟が多くてね

彼らはプライドが高かったから、女の私に成績で勝てずボコボコにされることに腹が立ってしょうがないというような輩も多く……

ま、彼らは執念深いし、首都での出世は難しいだろうな、と思ったんだ」




 なるほど、親の圧力ってやつか。

南の方なら自分の強さを役立てられるし、煩わしい貴族の坊ちゃんもいなくて一石二鳥、と。

脳筋、というわけでもない――色々考えて自分の将来をしっかりと見据えている。



 ……僕はもう、姉さんにすっかり惚れこんでしまっていた。

もちろん、かといって姫様への恋心も失われていなどいない。

同時に複数の人を同じくらい好きになった結果の一夫多妻なんて何もおかしいことではないだろう。僕はいずれ国の重役かつ大魔術師となる――なってみせる男だ。 そのぐらいの甲斐性がなくてどうする!



 かといって姉さんにかっこいいところをみせる作戦は失敗してしまった。

どうしようか――と考えている間に僕たちは兵舎についていたが、僕は次の手を考えるのに一杯であり、結局兵舎を30分見て回ったくらいで宿屋へと引き返した。

因みにこのとき「姉さん迷子になるから手を繋ぎましょう」と誘ったのだが「キミと手を繋ぐと、腕を通して邪な気が移ってくる気がするからイヤだ」とすげなく断られてしまった。



 帰り道、姉さんが「せっかく連れてきたのにあんまり興味がなさそうだったな?」と不満そうにしたので、「えぇ、僕が興味があるのは実は兵士じゃなくて姉さんですからね。兵舎を見たいといったのはこうやってデートするための口実です」と返すと顔を赤くして照れていた。

その「…………ばかっ…………」と言って照れるさまもまたなんともエロかったのだが、乙女な反応で可愛らしい。

周りの男たちはみんな邪な目で姉さんを見るから、ひょっとするとこういったストレートな口説き文句に弱いのかもしれないな。

 


 そうと分かれば…………もう残された時間は少ない。

明日からは少なくとも2年ほど会えないのだから、なにかもう一つ姉さんの記憶に印象を残しておきたい。

僕のありのままの思いを素直にぶつける――――もう告白しかないだろう!



 宿の場所まで結構な時間をかけて戻ってくると、僕は屋内に入る前に姉さんを中庭に誘った。

初対面の時のことがあるので姉さんは渋ったが、「今度こそ冗談抜きで話したいことがある」と言って折れてもらった。 そういうとことはチョロイんだな。



 ……しかし、いざ告白しようとなるとなかなか、緊張するな。

今までも近所の女の子たちに冗談交じりに告白したことは何回かあったが(もちろん振られた)考えてみれば本気の告白というのは初めてかもしれない。

というより、きっと昨日姫様にのパンツを見るまで、僕は本気で誰かに恋をしたことがなかったのだろう。




「…………どうした? さっきから黙ったままで?

私になにか話したいことがあったのだろう?」


「うん、それはそうなんですけど……いざ言うとなると緊張しちゃって」


「ほほぅ、キミみたいにスケベなガキでも緊張することがあるんだな、ふふっ

まさかまた……その……なんだ、お……っぱい……とか言うんじゃないよな?」




 そう言って姉さんは優しく笑う。

いけない、緊張をほぐそうと気を遣わせてしまったのだろうか? 姉さんの口から恥ずかしそうに小声でおっぱいって言葉がでるなんて。

でも……おっぱいと聞いてなんだか勇気が湧いてきた。



 そうだな、ここでグズグズしていてもしょうがない!

僕の素直な気持ちを伝えればいいだけだ!

純粋な思いを伝えれば、きっと姉さんも応えてくれるはず――――!

よし、言う!

言うぞ!!




「姉さん……僕、姉さんに一つお願いがあるんですっ!」


「なんだがいい予感が全くしないが……まぁ、聞くだけなら聞いてやろう

なんだ? なんでも言ってみろ」






 よぉし! 言うんだ! 漢を見せろタオッ!!






「姉さんッ!! 僕の子どもを産んでください!!!!!」


「え、いやだ………………」






 こうして僕の初マジ告白は振られてしまった。



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