第七話
「ぐぬぬ……なぜ私はいつもこう簡単にながされてしまうんだ
エロガキが対面にいて落ち着いて食事などできるわけないだろう――!
しかもその父親までいるなんて、いつ、お、襲いかかられるか恐ろしくてたまったものでは……」
「まぁまぁ落ち着きなよお姉さん
とりあえずこれ、食べてみて?
南部地方の名物料理なんだ!」
「む?
たしかに……なかなか美味そうだが……どれ……
あっ……なんだか変な酸っぱい臭いがするぞコレ……
でも……嫌いじゃない……嫌いじゃないぞ……
スン、スンスン……
どれ……いただきまぁす……
はぁむっ……んっ……はぁっ……はむっ……
あ、熱っ……あ、あちゅい……あちゅいではないかぁ……バカモノぉ……んっ……
んやっ……お汁が……お汁があふれるっ……
こんなに熱いの飲まされたら……んん……はぁ……火傷してしまいそうだ……んはぁ……
……ゴクンっ
ふむ、ほんのり効いた酸味が肉汁の油っこさを打ち消していて大変に美味。
初めて食べたが、唐揚げに似ているようでちがうな
……おや?
どうした父上殿、お腹でも痛いのか? トイレか?」
結局、痴女姉さん――名前はフルール・ドグラウン、18歳、なんと女だてらに王国軍に所属しているらしい――は、妹を加えた僕たちロードミラー一家に押し切られ、こうして席を一緒にしていた。
朝食は宿屋内にある食堂で、昨日の夕飯の余りをアレンジしたものや手間のかからない簡単なものが提供される。
チラホラと席は埋まっていたが、僕たちは5人ということで、食堂隅に置かれた大きめの丸テーブルを選んで腰掛け、注文を済ませた。
ギリギリまで姉さんは抵抗していたが、結局は諦めたように着席した。
なにはともあれ一先ずお互い自己紹介をしようとなり、痴女姉さんの番になってみると、私は王国軍所属~といった爆弾を投下し一同仰天!
両親は慌てて急にヘコヘコしだしたのだが、痴女姉さんはそういったどうのこうのがあまり好きではないらしい。
自分は新兵だからそう固くならないでくれ、と逆に気をつかわせてしまった――できた痴女である。
それにしても……
野郎ばっかりであろう軍のなかで、こんなイイ痴女がこの先純潔を守り通せるのだろうか?
う~む、やはり早めに嫁に欲しい。
軍人さんということで、あの強風のなか立っていられたのも、朝早くから健康的な汗を流していたのも納得できた。
まだ少し肌寒いこの中春だというのにあの汗……
きっと朝食をとる前に一人で激しい運動をしていたのだろう。
なんともお盛んなことだ――起きたらまず一人で運動など、若い男なみではないか?
精が出るな。
……他意はない。
「ところで、あの~、フルールさんはなぜこんな寂れた宿にいらっしゃるんですか?
国軍兵……ということでしたら、もっといいお宿でもあったのでは~?」
カウンターの向こうで母の配慮のない言葉が聞こえたのだろう。
この宿の厳つい親父さんがちょっとムッとしたような顔を浮かべた。
しかしここは実際、この大きな街タハカでかなり奥まって目立たない場所に位置する、お世辞にも上等とは言えない宿屋である。
――そもそもなぜ軍人さんが宿屋に泊っているのか僕も気になる。
父さんもよく知ってたなこんな場所。
家を出る時に、穴場があるから大丈夫!と言っていたがたしかに。
まさしくここは穴場だろう。
「なにもたいしたことではない
単に他に空いている宿屋がなかっただけだ
なにせパレード見たさに、どの宿も数日前から観光客であふれ返っていただろうからな
たまたまこの宿にまだ一部屋空きがあったので、慌てて昨夜滑り込んだだけだ」
昨夜の僕は呆然自失としていて、帰ってくると同時に寝てしまったからな……
その後にチェックインしたのだろう。
「王国軍に所属すると言ったが、私は明日からこのタハカの街に配属される軍人だいまはまだ階級も高くない
明日の今頃に着くようにと首都を出たのだが……恥ずかしながら早めについてしまってな
明日の入寮式が終わるまで入るわけにもいかず、こうして宿にとまって時間を潰している、というわけだ
ふふっ、私のようなせっかちが他にもいるかもしれないな」
痴女姉さんは首都にある王国軍付属養成学校――その生徒の大半が貴族という、12歳から18歳まで通う超エリート育成学校だ――を少し前に卒業し、その配属先がここタハカの街だった、ということらしい。
ということはひょっとしてこの痴女、いいところの娘さんなのではないだろうか?
そしてさっきは新兵だからなどと謙遜していたが……あの学校を出たということはいわゆるキャリア組だ。
これから出世コースを邁進していくのだろう。
この国で女性軍人がどこまで出世できるのかは知らないが。
しかしさっきから、この痴女、一挙手一投足がやけに艶めかしい!
封印状態の僕でさえ、母の芋い顔を見つめてクールダウンしなければ危うく性欲と魔力をぶちまけてしまいそうだ。
今じゃないんだよ今じゃ……朝食を済ませてからなら望むところなんだが。
父さんもさっきからずっと落ち着きなくソワソワしている。
おそらく年甲斐もなくスタンドしてしまい、ポジションを調整しているのだろう。
いいなぁ、父さんの息子は思う存分にはしゃいじゃって。
息子の息子だって暴れさせてやりたいよ。
思わぬ落とし穴だ。
性欲が魔力に直結するというのも、いいこと尽くしだけとはいかないようだ。
無意識に振りまく色気が近づいた男性を虜にする――さすが痴女。
最早サキュバスレベルだな。
性欲を封じられた僕としては、なんとしても傍に置いておきたい逸材だ。
戦略的にも、人生的にもな。
痴女姉さんはふぅと艶めいたため息をつくとその長く綺麗な足をテーブルの下で組み替えた。
あっ!?
あぶないっ!!
だめだ――かっ、体が勝手に!
「あぁ~、ご飯粒落としちゃった~!
これは拾わなきゃいかないぞ~~~?」
「お兄ちゃん床のご飯粒拾うってなんだかすごい卑しいね!」
「だまらっしゃい!
米一粒には88のカミサマが宿っているんですよっ!!」
そう言って僕はテーブルの下に潜り込む。
しまった!
こんなブービートラップに引っかかっちまうなんて!
アタシってほんとバカっ!
見ちゃだめだ……いま痴女をみたら家族を巻き込んでしまう……!
……ちらっ。
対面に座っていた姉さんは、運動のためであろう、スカートの下に日本でいうスパッツのようなものを履いており――僕はスパッツもどきがこの世界にあることをしらなかった、首都では流行ってるのかもしれないな――パンツは見えなかった。
いやしかしスパッツも危ない!!
スカートの中がダメなら足を見ればいいじゃない!
いやいや違う!
だから見ちゃダメなんだって!!
……ちらっ。
ふふ、やはり痴女姉さんは素晴らしい痴女だ。
こうやっておみ足をガン見しているというのに、なんの抵抗も示さない。
隙だらけだなこのアマ……噛みついて歯型でも残してやろうか。
この痴女は僕の女(予定)です、というマーキングだ。
おおっと、あぶないあぶない……落ち着け落ち着け、風呂上がりの母さん、寝起きの母さん、罪深き母さん……よしっ、何とか耐えきった。
名残惜しいがさっさと戻ろう。
あとちょっと我慢すればいいだけだ。
僕はいさぎよく椅子に腰をかけなおす。
するとどうだ、痴女姉さんが若干赤くなった顔で僕の方を向いてニヨニヨとしている。
なんだそのスケベな顔は――誘っているのか!?
隣の父は、授業中にわけもなくなぜか勃起してしまった男子みたいになってしまった。
「お兄ちゃん、落ちたご飯粒拾ってどうするの~?」
「やるよ
三秒ルールだから大丈夫だ、ほれ食え」
「んむ~~~! んむ~~~~~!!」
嫌がる妹の口に無理やり突っ込む――!
いやいや、それよりも今は姉さんだ。
特技:<<魔法のスマイル>> 効果:魅了、男は死ぬ――をなぜ僕に向ける!?
スカートを覗かれて僕にホレてしまったのか、とも思ったが多分、違うだろう。
心は乙女な痴女姉さんのことだ。
おそらく、
足を組み替えた瞬間僕が屈んだのに気づく
やられてばかりじゃないモン、パンツじゃないから恥ずかしくないモンとそれを敢えてスルー
どうだパンツが見れなくて悔しかろう、とドヤ顔をするもやっぱり実はちょっと恥ずかしかった
で、あんなドスケベ顔になったってとこだろう。
だが姉さん――あんたやっぱり無防備に加えて無自覚だよ。
自分のエロさを全くわかっていない。
スパッツ履いてれば大丈夫となぜ思える――?
さっきは見逃してやったが、綺麗なお姉さんが履く、運動後の汗を吸ったスパッツ。
それはおでんで言えばだしの染みた大根―――メインディッシュ級だ。
ただのパンツでは歯が立たないようなブツを、あんたは曝け出していたんだぜ?
スーハークンカしてくれといっているようなものだ!
それで僕が興奮しないはずがない!!
……痴女姉さんを朝食に誘って正解だった。
これで自分に何がおきていたのかが凡そ解明できた!
僕は性欲を完全に失くしてしまった――というわけではなかったのだ。
どうやらカミサマの封印とは、僕の興奮するまでのハードルをすごく高くする、という類のものなのだろう。
そしてたとえ興奮したとしても、すごい勢いで萎んでいく。
それによって僕は記憶や思い出、妄想――多分絵画などでも駄目だろう――でエロいことを考えても、ムラムラはできない。
しかし、痴女姉さんクラスの美人の<現物>に限りムラムラできる――
こんなところだろうな。
YES三次元!
NO!二次元!
ということか。(ただし三次元でも美女に限る)
しかし痴女姉さんレベルの美人、この先でもめったに会えないだろう……
つまり、僕の覇道は痴女姉さん!ひとまずキミにかかっている!!
――やはり、まずなんとしても姉さんの協力を取り付ける必要があるようだな……
冒頭で痴女姉ことフルールさんが食べていたのはチキンナバンと言います。
関係ない話ばかりして申し訳ないのですが、私はチキン南蛮を食べたことがないです。